13.ネックレス
苦痛に歪んだ顔でミゴはこっちを見る。俺はあえてその場から動かず、相手の一挙一動を見逃さないようにミゴをよく見る。
「き、貴様!この私になんたる事を!」
「よく言うぜ。」
ミゴは立ち上がり、指輪が少し光ったかと思えば傷がなくなる。回復の魔道具だな。
「まだだ!この私が貴様ごときに!」
ミゴの指輪の一つが光り、目の前に大きな人型の石が形成されていく。
「ゆけっ!『岩石の巨人』」
その声で石の巨人が腕を俺に振り下ろす。圧倒的質量だが、この程度なら受け流せる。振り下ろすタイミングに合わせて剣を出し、切っ先でわずかに横にずらす。しかし勢いは剣に残るが、そのパワーを利用し右腕を切り落とす。
「『高速弾』」
超高速回転弾。略して高速弾は俺のオリジナルの魔法の一つ。無属性の魔力を弾丸の形にし、超高速で回転させる。それを魔力暴走という単純に魔力を破裂させるだけの魔法で吹き飛ばす。威力は見ての通り、そこそこの強力な魔法でも破壊することができる。
「くそっ!なぜだ!この私が!もうこうなったら出し惜しみなどするか!」
その言葉と同時にミゴの指輪がいくつか光る。
「この指輪には第7階位の魔法が込められている!貴様など一瞬で消し炭に、ッ!」
「おいおい。貴族は自分の今から使う技を宣言しないと使えないのか?」
俺はミゴの手を斬り落とした。その手を地面から魔力の腕が出てきて投げ飛ばす。ちなみにこの『魔力腕』も俺のオリジナルだ。
「降参するか?」
「あ、ああああ!!!」
「うるせえよ。」
俺は木刀を振り上げミゴの頭に当てる瞬間、とんでもない魔力の波動が俺にぶつかる。その発信源はミゴ、正確に言うならミゴの胸元にあるネックレス。
UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
物凄いほど大きい獣の叫び声が聞こえる。あたりに満ちる魔力は土に変わり、土煙となる。俺は即座に距離を取る。ミゴを倒すよりめんどくさいのが来た。
「あ、あいつを殺せ!」
その大きな声とともに土煙を吹き飛ばし、人型の化け物がやってくる。それは牛の頭をする巨人。体は血のように赤く染まり、その体は3メートルほどにも達する。その肉体は見るからに強靭であり、大きな斧を持っている。
「嘘だろ?」
その姿は間違いなく、危険度4に認定されているミノタウロスであった。作麼生。身体能力だけなら危険度2のホブゴブリン亜種にぼこぼこにされた俺が、レベル3になったからといって危険度4に勝てるだろうか。
「審判が止めねえって事は使い魔扱いか!」
説破。否、勝てはしない。勝てるはずがない。傷をつけることさえ困難だろう。どうする。切り札を使うか?
「『高速弾』」
とりあえず撃ち込むが、傷などつくはずもない。それほど一つ違うというのは大きいのだ。
「待ってくれねえよな。」
振り下ろされる斧を受け流す。避ける、いなす、弾く。下手な魔法は意味はない。ただ剣にその神経を集める。一度でもミスしたら死ぬ。シャレにならん。
「チッ!」
攻勢に出れない。それどころか少しずつ体制を崩され――
「試合終了!」
その言葉と同時にベルゴ先生がミノタウロスを蹴り飛ばす。
「ミゴは出血多量により気絶!よってこの勝負ジンの勝ちとする!」
大きく歓声が鳴り響く。取り敢えずは勝ちか。というかベルゴ先生すごいな。多分最低でもレベル7以上。本当に優秀な人材集めてんだな。
「試合は終了だ。片付けに入るから出て行って授業を行ってくれ。」
「わかりました。」
それを聞いて俺は直ぐに外に出て行く。
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sideアクト・ラス
マジかよ。危険度4の攻撃をレベル3が何度も防ぎ切った。これははっきり言って異常だ。
絶妙な力加減、完璧な方向、一瞬での判断。すべてそろわなければ自分が吹き飛ぶ。人間業じゃない。予知の魔眼を持つ俺であっても数発防げれば良いほう。
「これがジンさんが私に勝ち越している理由ですよ。」
「ああ。そりゃ勝てねえわな。」
あんなの人間じゃない。どれだけ実戦を積めばあんなに馬鹿げた勘を手に入れられるんだよ。
「本当に人間じゃねえよな……」
まだ勝てない。予知の魔眼をフル活用しても、やられはしないかもしれないが勝てもしない。だが体力を考えるなら絶対に負ける。
「いつか絶対に勝ってやんよ……!」
今じゃなくてもいい。いつか絶対に上回ってやる。




