12.試合開始
sideシルフェード・フォン・ファルクラム
9時少し前。一年生初めての試合。同学年や二年生や三年生も何人かいます。こんなに直ぐに決闘をするという事で、興味本意できている人も多いようですね。
「ファルクラムさんや。随分と人が多いね。」
「まあ、そうでしょうね。」
アクトさんの言葉にそう答える。ジンさんとティスメイン子息の勝負。まあ十中八九ジンさんが勝つでしょうが、私が来なくては不義理というものでしょう。
「それにしてもジンの奴、しっかり勝ってくれりゃ良いけど。」
「おや。ジンさんに負けたあなたがそんな事を気にするのですか?」
「仮にもこの学園に入るぐらいだからミゴ様とやらもそこそこやるんだろ?というかお前も負けてんじゃねえか。」
まあ確かにそうかもしれませんね。しかしジンさんの実力は私が一番よく知っています。少なくともティスメイン子息ぐらいなら相手にもなりません。
「大丈夫ですよ。それと私のメインは支援魔法ですからね。」
「ああそういやそうだったな。なんか剣使ってるイメージしかないんだよね。」
確かにあまり支援魔法は二人の前で使いませんね。正直言って剣より自信があるのですが。
「お、来たぜ!あいつはこんな時まで木刀なんだな。」
「私はジンさんが木刀以外の武器を持つのは見たことがありません。しかし気にしてるらしいですよ。免許皆伝もらってないから真剣を持てないってぼやいてました。」
「そんな事を気にする奴なんて今じゃいないぜ?変な拘り持ってんな。」
「まあ少なからず木刀を気に入ってるらしいので。」
しかも生半可な武器じゃあの木刀より弱い。刃がついていないので切断能力は低いですが、丈夫さなら並みの鉱物をしのぎます。
「アクトさんはジンさんのどのような部分が強いと思いますか?」
「思い切りの良さとかじゃねえの?あれほど合理的に考えて戦うやつも珍しいだろ。」
「いえ、それは違いますね。ジンさんの場合、死ななければ別になんだっていいと考えているだけです。」
「ならあの魔法と剣術を高水準に使いこなす事か?だけどあんなん探せば結構いるぜ。」
「その通り。ただ魔法と剣術を高いレベルで使うだけならどこにでもいます。しかしジンさんの剣術をまだ貴方は理解していません。」
何故ジンさんに私が絶大な信頼を寄せているのか。それは長年付き合ってきたからでもあります。
「何年も前からジンさんの剣術を見てきた私が断言しましょう。ジンさんはスキル上では未だに剣王ですが、ただその剣術のみでみるなら。」
幼少期から沢山の剣士を見てきたからこそ確信できる。
「既にその技術は剣神に到達しています。」
私はそう言いながら直ぐに始まる試合を見添えた。
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俺は目の前にいるミゴを捉える。その指には満遍なく指輪が付けられており、無駄に煌びやかだった昨日の剣は短剣へと変わっている。これが本来の装備なのだろう。
「おい貴様。私の護衛を知らぬか?お前に連絡をさせに言ってから帰ってきていないのだが。」
「よくは分からんが、多分保健室じゃねえの?」
しっかり気絶させたからな。もしくは校庭で寝転がってるだろう。
「つまりあいつを倒したと。まあいい。あいつは昔から支えるべき私より弱かった。貴様に負けるのもありえなくはないだろう。」
まあ、そうだな。そんなに強くはなかった。
「まあだがしかし、私を倒せると思うなよ?私とあいつでは文字通り格が違う。」
随分と大口を叩くな。自分からハードルを上げていくスタイルかよ。
「御託はいいからさっさと始めようぜ?」
「ふむ。まあその通りだな。どれだけ言葉を連ねた所で結果は変わらぬ。おい審判!」
ゴミは、いや違うミゴは審判の先生にそう言う。というかあの馬頭はベルゴ先生じゃねえか。
「これよりジン・アルカッセルとミゴ・アルスフレイン・ディヴァニーア・ジャルゴ・ティスメインとの決闘を始める!双方構え!」
その言葉と同時にミゴは俺に手を向け、俺は木刀をミゴに向ける。
「始め!」
「一撃で仕留めよう。『悪魔の鎖』」
その一言で俺に鎖が俺の四肢に結びつく。俺の行動を阻害するためだろう。
「おいおいどうした。私の第5階位魔法ごときも避けれんのか?」
「そうか。」
こいつ負け犬感が半端ないな。無駄に長い名前も読者に覚えてもらう気のなさを感じる。
「言っておくが私は第6階位魔法までを高レベルで使うことができる。少しだけなら第7階位魔法でさえな。」
そう言った後、ミゴは手を上げる。すると俺の足元が光る。よく見ると地面を少し抉った跡が光っている。会場に来た後に作ったわけじゃなさそうだし、事前に仕組んでいたと考えていいだろう。
「冥土の土産だ。第7階位級の魔法を見せてやろう。」
それは案の定魔法陣。この術式はオリジナルだな。既存のものではない。
「ゲーティア・ゲルト・ウヌ・テラ・クワス・デルタ『壊滅の大柱』!!」
随分と自分の名前に大層な名前をつける。その魔力は魔法陣の光を黒色に変え、今正に発動する瞬間。光が完璧に消えた。
「は?」
それは誰の声だったか。ミゴの声だったのかもしれないし、観客の誰かの声だったのかもしれない。しかし全員が驚いているのは確かだ。
「俺の師匠の教えなんだが、魔法陣というのは発動の術式をどのように隠すかが全てらしい。壊されてもいいように防御術式をつけておくだとか、全く関係ない術式を書くとかでな。」
俺は悪魔の鎖を力を入れて少しずつ壊していく。流石第5階位魔法。中々の硬さだ。
「だがお前の術式はシンプル過ぎた。だから簡単に魔力で削るだけで直ぐにお前の魔法陣は効力を失ったわけだ。」
俺はやっと鎖を壊し、木刀を持ちながらゆっくり歩いてミゴを見る。
「ふ、ふん!私の魔法を一つ無効にしたところで調子にのるなよ!お前らとは引き出しの数が違うのだ!」
そう言いながら無数の闇の球が俺へ飛んでくる。がまあしかし、牽制にしてはあまりにもお粗末だ。
「はあっ!」
俺は即座に全ての球を斬り落とす。別に全部斬る必要はなかったが、これだけで相手は恐怖する。
「『超高速回転弾』」
俺は手で銃の形を取り、ミゴに向けてそう言う。すると大きな音ともにミゴの足にちいさな円状の穴があく。
「さて、ここからどうする?」
俺は不敵に笑みを浮かべてそう言った。




