8.パーティ
体育館で適当に木刀を振ったりして時間をつぶしていたら生徒が集まってきた。それで結構人が集まってきたころ、一人の大柄の教師が中に入ってきた。
「これから戦闘学の授業を始める!」
耳にばかでかい声が響く。魔法を使っていると感じるぐらいだ。
「授業日程は月火水はダンジョンでの実践授業!木金に座学の授業を行う!つまり今日はダンジョン攻略だ!」
ダンジョン?付近のダンジョンに行くのだろうか。
「場所はこの学園の地下!百層以上存在し、未だ最下層へ到達していないダンジョンだ!」
まだ踏破されていないダンジョンって相当な大きさだぞ。しかも王都の地下にあるって防衛的にも大丈夫なのか?
「ダンジョン攻略ではパーティーを組むことを推奨している!留年や退学でパーティの解散、結成はあっても基本的には変更はしないので、よく考えることだ!」
普通解散の選択肢に留年と退学が入るか?普通それは起こらないようにするもんじゃないのだろうか。
「無論!パーティの人数は自由!自由に組むといい!決まったものから教師を一人ずつ連れ、ダンジョンに挑むといい!以上だ!」
最後の言葉をこと切れに辺りからパーティ勧誘の声が聞こえてくる。もう既にパーティとして報告しに行っている奴もいる。
「どうするシルフェ。俺らは確定だが。」
「そうですね。アクトさんはどうします?私たちのパーティに入りますか?」
「あったり前だろ!そのためにジンに話しかけたようなもんだからな!」
「まあ、流石にダンジョンをソロはきついだろうな。」
じゃあ決まりか。それじゃあ先生に報告しにいかないと。そう思い向かおうとした時に、やけに煌びやかな装飾品をつけた男がこっちに走ってくる。朝の奴だな。その後ろには重装備で体を包んだ男、恐らく貴族の護衛であろう。
「待て!」
「あ?誰だお前。」
「はっ!私の事を知らんとは相当無学なようだな。」
「お前の知名度が低いからなんじゃねえの。」
「これだから平民は。優雅さというものが欠けている。」
「億が一。お前のことを知ってる奴だとしても、初対面だったら自己紹介ぐらいするのが筋だろ。」
アクトが正論をぶちかます。すると少し言い淀んだ後に、溜息を吐いた。
「私の名はミゴ・アルスフレイン・ディヴァニーア・ジャルゴ・ティスメイン。ティスメイン侯爵家の次期当主でもある。」
「名前長えよ。ミゴ・ティスなんとかにしとけ。」
アクトは煽り性能高いな。名乗り上げてから言い返すのにタイムラグがねえ。つーか侯爵だったんだな。
「元侯爵でしょう。私の記憶では確か伯爵に落ちてませんでしたか?それにあなたはティスメイン家でも次男のはずです。」
よくそんなん覚えてんな。貴族同士の繋がりは大事だし、そういうのは教え込まれるもんなのだろうか。
「シルフェード様。あの愚兄はこの学園にすら入学できぬほど秀でた才はございません。父上が私を選ぶのは当然の判断かと。それに私が当主となれば直ぐ様復興してみます。私ほどの才があれば当然の事です。」
「私の名を呼ぶことは許可していませんが?それに、贅沢はやめてはどうですか。その身にまとう金品は復興に必要なものと言えるのでしょうか?そんな物の分だけ税を減らせば良いでしょう。ティスメイン領ではかなりの重税が敷かれていると聞いています。」
貴族の間で許可なしでの名前呼びは失礼にあたる。それが格上なら尚更だ。貴族が何も言い返せなくなったのか、今度は俺を睨んでくる。いや俺何もしてねえし。アクトを睨め。アクトを。
「それよりもです。そこの平民とシルフェード様は相応しくありません。さあ、私達とパーティを組みましょう。私には優秀な護衛がいまして、シルフェード様を守ってくれます。まあ私より不出来な奴ですが。」
「おいおい。まさかたかが貴族なだけで、平民に対して威張り散らすつもりかい?」
「貴様こそ平民ごときが貴族に突っ掛かるつもりか?」
アクトとゴミとかなんとか言ってた奴が睨み合う。たかがパーティでそんなに争う事か。
「そういうのはここでやる事じゃないだろ。効率が悪い。しっかりとした場所でルールを決めてやろうぜ。」
俺が間に入り、そう言う。その瞬間、俺の首元に向かい後ろの護衛であろう男が剣を添える。
「退け。ミゴ様の前に立つんじゃない。」
「そうか。だが喧嘩を売る相手は選んだ方が良いぜ。」
俺はチラッと護衛の騎士を睨む。鋼の剣。だけどあまりにも武器の質も悪いし、手入れも雑だ。よくこんなんで入れたな。
「なっ!」
だからちょっと本気を出して小突いただけで壊れるんだ。手首についていた腕輪が地面に落ちている。魔力増加の腕輪だ。これを外さなきゃ全力で戦えないからな。
「小癪だがそこの平民のいう通りだ。一回引け。」
「ッ!……わかりました。」
そう言って護衛は下がる。
「それじゃあ取引をしよう。私が貴様らと決闘をし、勝利したらシルフェード様はこちらのパーティに入ってもらおう。逆に私が負けたら諦めてやろう。」
「あ?そんなん利益がねえだろ。元々こっちでパーティで組む予定だったんだからよ。なあファルクラム!」
アクトが同調を求めるようにシルフェに声をかけるが、まあそれは悪手だろう。
「良いですよ。」
「ええ!?」
「ただし戦うのはジンさんです。ルールは一対一で、武器の使用は自由。敗北条件は気絶するか降参するかです。」
「え?」
俺が戦うのか?なんで俺が。
「私は入試で十六位という好成績を収めています。そこの平民とシルフェード様は私より順位が上ですが、そこのジンという奴はたかが五十二位。相手にならないかと愚考しますが。」
「入学試験は、あくまで試験ですよ。問題ありません。」
「それでは私はここらで失礼致します。あまりくだらない事に時間は取れませんし、試合は明日行いましょう。それでは。」
そう言って颯爽と去っていく。
「貴族は領主しか権限を持たないって知らないんじゃないか?」
「たまにいるんですよ。先祖が偉大なだけで自分が偉大だと勘違いする馬鹿が。」
酷い言われようだな。俺は腕輪を拾い直してシルフェを一瞬見る。昨日の依頼を受けるというサインだ。良い実戦をつめそうだからな。
「試合すんのかてめえら。」
俺は突如には背後から気配が現れた事に気付く。いや、今まで立たれるまで気付けなかった。
「ッ!……へ?」
俺は即座に飛び退き背後を見た。君たちはケンタウロスというのを知っているだろうか。下半身が馬、上半身が人間のやつだ。
「こんな初っ端から試合なんかするなんててめえらが初めてなんじゃねえの?まあどうでもいいけどよ。」
「誰だ、お前!」
アクトも動揺して声を張り上げる。その男は頭部が馬、それ以外が人間。
「俺様はただの一教師だよ。」
馬の獣人ではない。馬の顔をした人間だった。




