7.貴族
資料を一通り確認した後、俺は外でいつも通り修行をしていた。魔力圧縮や戦源を完璧に使いこなせればアクトとも楽に戦えた筈だ。まだまだ鍛錬が足りない。だが、睡眠を欠かすと鍛錬の質を落とす。だから今日はここまでにしておこう。
「ああ、疲れた。」
汗も凄いし、さっさと風呂に入らないとな。俺は真っ直ぐ学生寮の風呂に向かう。着替えは、一時的に魔法で作るか。一々取りに行くのがめんどくさい。
「ねえ君。」
「うん?」
俺を呼び止めたのは獣人の少女だった。この世界における獣人というのは容姿は人間と大差ない。耳とか尻尾があるぐらいの違い。俺の目の前にいるのは多分猫関係の獣人なのだろう。耳とか尻尾の形からして。
「なんでそんなに熱心に修行してるのかが気になってね。」
「修行ぐらい誰でもするだろ。」
「ああ、言葉が足りなかったね。君はとても強いじゃないか。この一年生の中でも最強級に。なのになんでもっと強くなろうとしてるんだろうと思ったんだよ。」
……愚問だな。
「最強じゃないじゃないか。それじゃあ意味がない。」
「どうして最強に拘るのさ。」
「慢心は人に隙を作り、欠点を作り、弱くする。ただ誰よりも慎重で、臆病で負けず嫌いなだけだ。」
というかなんで初対面のやつとこんなに会話してるんだ。
「もういいか?風呂に入りたい。」
「ああ、ごめんね。僕の名前はエルって言うんだ。また会おうよジンくん。」
そう言って獣人の少女、エルは去っていった。なんで俺の名前知ってんだろ。
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翌朝。昨日は風呂から出た後、闘気増加に努めて寝た。まあいつも通り。だが違うのはここからだ。俺は朝の自主練を終え、再び風呂に入った後に制服に袖を通す。言わずもがなグレゼリオン学園の制服だ。
「よし、行くか。」
俺は手ぶらで食堂へ向かう。この世界の評価項目に関心意欲などない。通うのは義務じゃないからな。希望制だから大体やる気がある奴しかいないし、何より実力主義な側面が強い。
「A定食お願い。」
「わかったよ。」
俺は食堂のおばちゃんに頼む。授業の内容は既に予習済み。魔法分野ならもう既に三年生のもクリアしている。
「はいよ。」
「ありがとう。」
食堂にはまだあまり人はいない。俺が早めに来たというのもある。混んでて席が取りにくいとなると面倒だ。俺は席に座り、ご飯を食べ始める。
「味がしねえな……」
最近味覚障害なのか疑うレベルで五感が死んできて、その分他の五感が鋭利になってきている。これは良いことなのだろうか。その考えていると、俺のあたりへと一人の男が歩いてくる。この学校には生徒と先生しか基本入れない。恐らく俺と同じ生徒だろう。先生にしては若々しい。
「おい貴様。」
「はい?」
俺のあたりではなく、俺の所へだったか。グレゼリオン学園生徒の入学定員は300人。その装飾品の数から貴族であると推測できる。貴族がこの学園に入れる余裕があるということは上位の貴族なんだろう。が、校則的には対等な立場だからここまでの推測は全く意味を成さない。無駄な事考えた。
「貴様だ。ジン・アルカッセル。平民ごときが調子に乗っているんじゃないか。」
「そ。」
「その態度だ!シルフェード様に付きまといおって!貴様のような下賤な民がいるから我が領地も栄えんのだ!」
言いがかりが酷いもんだ。というかまだ継承してないだろ。領主が学園にこれるわけねえんだから。むしろ追い出されてんじゃないのか?
「この私の事は知っているだろう?お前など我が家の力を使えばいとも容易く握り潰せる。」
「へえ。」
「自分の命が惜ければ、シルフェード様には近付かん事だな。」
「分かった、分かった。」
そう言って男は去っていく。さて、あいつは誰だろうか。あんな自信満々に『私の事は知っているだろう?』と言っていたから、あえて指摘はしなかったが。ファルクラムの姓が公爵家のものだったのでさえ、俺も最近知ったぐらいだ。多分偉いだろ。
「それじゃあ、そろそろ体育館に行くか。」
パンフレットには最初の授業は第2体育館で行うと書いてあった。まあ時間帯的にはまだ速いが、先に行って魔法の練習でもしときゃいいだろ。
「おばちゃんご馳走様!」
「お粗末様でした。」
俺は食器を返して、体育館に向かう。どんな授業なんだろうな。




