6.標的
グレゼリオン学園は原則寮暮らしを義務付けられる。一応外出も出来るし、里帰りもできる。だが一ヶ月以上の休暇は日常生活に大きな支障がでない限り認められない。だからこそ俺たちは荷物を宿から学生寮に移動させ、学生寮の食堂に集まっていた。詳しく言うなら俺、シルフェ、アクトの3人だ。
「で、一つ質問があるわけだが。」
「何でしょう?」
まあ、公爵令嬢だという事は分かった。それは特段興味があるわけじゃない。
「なんでヴェルザードにいたんだ?ファルクラムではなくヴェルザードにいた理由がわからない。」
ファルクラムの令嬢が、何故ヴェルザードにいたのか。普通、ファルクラム領のお屋敷かなんかにいるもんだろう?
「ヴェルザードはルスト教の総本山です。そこで回復魔法や、剣術を学んでいたんですよ。私は回復魔法の才能が凄いらしいので。」
アクトがそう聞き返す。ルスト教。確か世界で一番広がっている宗教だった気がする。この国の国教でもある。
「んで、俺を入学させようとした理由は?」
「そっちは特に理由はありませんよ。単純に友人が一人はいた方が楽でしょう?」
「ま、そうかい。」
公爵家だからといって全部計算尽くで行動してるわけじゃねえしな。
「それじゃあよ、これから三年間一緒にやっていくわけだし頑張ろうな。」
「誰も脱落しなきゃいいけどな。」
「おいおい、そんなこと言ってもしょうがねえだろ?」
少なくとも、この学園でアクトみたいな奴がたくさんいたらかなりキツい。明日から授業が始まるらしいし、しっかり自分のレベルを把握しておかなくちゃいけない。
「それじゃ、俺は一足先に帰らせてもらうよ。色々と調べたいこともあるし。」
「そうか。じゃあなアクト。」
そう言ってアクトが去っていく。
「ああ、そう言えばこれを渡さなきゃいけませんね。」
そう言ってシルフェが袋からいくつかの書類を出す。シルフェが持っている魔法袋普通より多くのものが入るっていう、ファンタジーにありがちのやつだな。
「学園関係の資料です。今日中に目を通してください。」
「今日中か?まあいいけどよ。」
重要な書類があるかもしれないし、今日中に読んでおいて損はないだろう。
「それではジンさん。また明日会いましょう。」
そう言ってシルフェも席を立って自分の部屋に帰った。俺も帰るか。
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グレゼリオン学園戦闘学部。学科が戦闘科しか存在しない戦闘を学ぶことに特化した学部。
授業内容としては週5回授業が午前中の間行われる。午後は部活動の時間とし授業はない。週3回ダンジョンでの実習授業。週2回の座学で計週5回。
生徒は参加する授業を選ぶことができる。つまり出ても出なくてもどっちでもいいというわけだ。しかしダンジョンは一定階層を一定期間内に踏破しないと退学になるし、期末のテストで点数を取れなければ留年になる可能性がある。戦闘に重きを置いているからこそ、理論を重んじるのだ。
「ま、テストは余裕だな。」
常に全国一位を取っていたのは伊達じゃない。といっても幼馴染といつも同率だけどな。効率的な勉強法なら完璧にマスターした。
しかし、ダンジョンは少し不安は否めない。生徒はもちろん、全力で努力するだろう。しかし卒業者はたった10名ほど。一体どんなものが待っているのか。少なくとも今は次元が違うといったところか。
「これで一通り読み終わったな。」
俺は本を置いて、そう呟く。すると本の中から紙が飛び出ているのが見えた。読んでる時は目に入らなかったな。そう思いつつ紙を取る。
『拝啓ジン様へ
堅苦しい挨拶をしても、あなたには理解できなさそうなので簡単に要点を掻い摘んで説明しましょう。
今回は私の要望を伝える為に、この手紙を書きました。何故手紙にしたかの理由をお察しして頂けると幸いです。
それでは本題に入りましょう。
ファルクラム家を含む四大公爵家は領地運営の他に、国の発展を妨げるものを取り除くという役目があります。
今回は私の成長を試すという意味も込めて、ファルクラム家当主。つまり私の父親から要請が来ました。
殺害対象は様々な犯罪を犯している、邪神を崇拝する集団です。
この依頼を受けない場合、これらの事は全て忘れてください。受ける場合、私が見ている場所で腕輪の付け外しを行なってください。
それを確認して依頼を受けたと判断します。詳細は受けた場合に話します。以上です。』
ほう……




