5.入学式
翌日、二次試験を突破した俺たちは三次試験に挑んだ。三次試験の内容は自分が使える武術と魔導の調査だ。しかしまあ特に語ることなどないので割愛しよう。
「合格するといいな。」
「行けるだろ?というか俺がいけてお前がいけねえなんて事はありえねえだろうが。」
「俺は特殊能力なんてものは一つしか持ってない。それもあんまり大した事のないやつだ。」
勤勉。戦闘中、身体能力が上昇し続ける。これが主な能力だな。
「で、お前の友人とシルフェードってどこだよ。」
「ここで待ち合わせしてるはずなんだがな。」
俺はたまたま会ったアクトとシルフェを待っていた。というか忘れていたが、学費本当に大丈夫だろうか。特待生は希望した平民に限り行える。俺は希望してないし、シルフェに全部任せてるわけだが。
「おいジン。なんか人が集まってるぜ?ファルクラム公爵家の令嬢らしいけど。」
「ファルクラム公爵?」
ファルクラム、ファルクラム。うん?あれ、いやまさか。
「あ、ジンさん。久し振りですね。」
「うん?」
え、何?公爵だったの?いや姓は偽っていないし、というか普通わかるんだろうな。この国に四家しかいない四大公爵のことぐらい。俺がおかしかったのか。ああ、だからあの時……
「友人のシルフェードって、公爵だったの?」
「……無学ですまん。」
「ファルクラムの姓を忘れるって逆に凄えぞお前!お前やっぱバカなんじゃねえの!?」
いやあ、普通友人の姓を調べようとはしないだろ?俺は悪くねえ。
「ジンさんその人は誰でしょうか?」
「アクト・ラスだ。試験の時にちょっとあってな。」
「ど、どうも。」
「変に畏まらなくて良いですよ?この学園では貴族や平民なんて関係ありませんから。」
まあ、それがこの学園の校則だ。どれだけ実力があろうと、どれだけ権力があろうと、どれだけ財力があろうと生徒は生徒でしかない。そこに上下関係など存在せず、強いて挙げるなら能力による実力主義。
「ならいいね。それじゃあファルクラムさん。これからよろしく!」
「ええ。よろしくお願いします。」
ん?ああいや、そうか。平民は名前呼びが普通なのだが、貴族相手では名前で呼んではならないというルールがある。と言っても貴族間での常識みたいなもんだが。だからファミリーネームで呼ぶ必要があるわけだ。
「じゃあ俺もファルクラムって呼んだ方がいいのか……?」
「いやいいですよ気持ち悪い。」
「そうかそうか。気持ち悪いってなんだよ。」
あ?そんな礼儀知らずに見えるのか?前世では大企業の管理職にまで上り詰めたこの俺が。
「それよりさっさと行こうぜ。入学式が始まる。」
アクトがそう言う。この学園では結果発表と入学式が同日に行われる。だからこそ今日は入学式でもあるのだ。俺らは3人で体育館へ向かった。
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入学式は淡々と進んで行く。そんな中で、みんなの話題になっているのは二つ。現生徒会長『ロウ・フォン・リラーティナ』、学園長『オーディン・ウァクラート』。それぞれの言葉である。
ロウ・フォン・リラーティナは四大公爵の内の一人、リラーティナ家の長男。つまり次期当主でもある。この学園において、最強の名を持つ男。この学園では最も強い奴が生徒会長になる。生徒会は風紀委員会も兼ねている。だからこそ最強である必要があるのだ。丁度その人が登壇する。
「新一年生達よ!私の名前はロウ・フォン・リラーティナという!まず入学おめでとう!しかしみんなも知っての通り、グレゼリオン学園の卒業者は各学部入学者300人に対し卒業者は平均10名。この狭き門を潜り抜けた者こそが、現在活躍している戦士達である!」
それでよく学園が成り立つな。本当に。
「しかし、卒業した者は必ず世界で活躍できることを保証しよう。かの『賢神』にしてオーディン・ウァクラートもこの学園を卒業し、『人類最強』として名高きディザスト・フォン・テンペストもこの学園を卒業した!」
二つ名からして物騒な。人類最強、グレゼリオン王国の総騎士団長を務める騎士のトップに立つ男だ。まあそいつを倒すぐらいは強くなるのが目標だな。目標は高い方がいい。
「全てを蹴落とし、勝者となれ!それが誇り高き我ら人類であるならば!以上が私の言葉とさせていただく。」
そう言って生徒会長が降壇していく。すると次に子供が登壇する。ああ、いや違う。子供みたいな見た目をした人だ。身長は俺より低い。が、歴史の教科書に載るような人物だ。
「わしの名前はオーディン・ウァクラート。まあ知らん奴はそうそうおらんと思うけどの。」
オーディン・ウァクラート。平民でありながら、ありとあらゆる魔法使いの頂点に立つ『賢神』。学園最強なんて軽いものではなく、魔法においては世界最強の魔女なのだ。結構前に、新しい魔法理論を創り出した。
「この学園にはありとあらゆるスペシャリストが揃っておる。よく学ぶとよい。よく考えるとよい。その全てを使い、頂きに立つとよい。」
ほんとに凄えよ。結構上手くいったつもりなんだが、俺は上位10名にすら試験結果では入ってなかったし。
「この学園ではどれだけ強かろうが、弱かろうが、偉かろうが、偉くなかろうが関係ない。わしを超えたら一考してやらんこともないが、ガキが超えれるとは思ってないしの。だからこそよく足掻くが良い。今年は優秀な奴が多い。簡単ではないぞ?誰よりも鍛錬せよ。誰よりも貪欲であれ。なあ生徒達よ。」
一瞬、一瞬だ。なんとなく目が合った気がした。たが、どちらかと言うと俺の奥底。俺自身を見ていないようにも感じた。




