4.二次試験終了
俺の背後から槍が突き刺さっている。かなり深く、刃の部分が腹から出ているのが見える。
「降参する事を勧めるぜ?この状況で勝てる算段がない限りな!」
物凄く痛い。だがそれだけだ。期待してたけど、残念だ。たかが俺の腹を貫いただけで、どうやって勝つっていうんだ。
「そうかい。」
俺は躊躇いなく腹を斬る。腹を斬れば槍は俺を捉えない。それに、きっとアクトは常時未来予知をしているわけじゃない。勝利を確信したからこそ、今からやる出来事を知ってはいない。知っていたとしたら、あんな事は言わない。
「腹を斬ってッ!?」
「慢心したな。」
俺の下半身を氷で作り出す。幸い人体の構造なら完璧に把握している。痛覚なんてもう何年も感じてない。感じてたとしてもそれは苦痛ではない。
「足が凍ってやがる!」
「チェックメイトだ。」
アクトが意識を転じるより早く足を止める。勝利をより確実にするために。俺は氷の足で地面を蹴り、木刀を首に突きつけた。
「……マジか。ああ、こんな気持ち悪いもん見るし負けるし最悪だな。おーい!俺の負けだぜ!試験官!」
「ああ。この戦いジン・アルカッセルの勝利とする!」
取り敢えず勝った。まあ実力を見せるという意味じゃ、負けても勝ってもどっちでも良いんだろうが。
「それより大丈夫かよソレ。下半身からはまだ血が出てるし、それずっとやってたら凍傷になるだろ。」
「まあ、なんとかなるだろ。」
「適当だなあ!下手したら命に関わるってのに。」
氷の足を消し、俺は地面に落下する。下半身と上半身をくっつけるために回復魔法をかけるが、まあそんなに簡単には治らない。ちょっとした傷なら兎も角、欠損はなあ。
「せめてシルフェがいりゃあな。」
俺は諦めて回復魔法をかけるのをやめる。すると試験官がやってくる。俺の患部に触れ、瞬く間に傷が治る。
「試験官は聖者以上の回復スキルを覚える事を義務とされているんだよ。今みたいに怪我を治せるようにな。」
へえ。そうだったのか。まあ試験で死人を出すわけにゃいかんよな。
「本当に無茶やるな。」
「だが、その代わりに勝てただろ。」
「自分の腹を引き換えにって、重過ぎるだろ?教会だったら結構金がかかるような怪我だぜ?」
まあ、確かにそうなのだろう。別にあんな無茶をする必要はない。しかし、しかしだ。俺は絶対に負けたくない。何度も何度も何度も、負け続けてきてもその意思は断固として変わらない。
「自分の体ぐらい大事にしろよ?一つしかねえんだから。」
「死ななければ全部かすり傷よ。」
特にこの世界はな。
「血が足りねえな……」
「そりゃあそれだけ出血すればな。肩貸してやるよ。」
「ありがと。」
明日が三次試験か。三次試験は細かい能力を見る審査と聞く。そんなに人より優れている自信はないが、まあやれるだけをやるしかねえだろうな。
「おや、ジンさん。」
「シルフェか。」
ちょうどシルフェも試験が終わったところなのか、体育館から出てくるシルフェと出くわした。
「ジンの友達かい?それとも恋人?」
「いえ、親友です。」
「どっちでもいいや。こいつ頼むよ。貧血であんまり体が動かねえみたいだからな。それに俺も少し用事があるし。」
「ああはい。分かりました。任せてください。」
そう言って今度はシルフェの肩を借りる。
「そんじゃまた明日!」
そう言ってアクトは去っていく。
「……今度はどんな無茶したんですか?」
「無茶なんかしてねえよ。」
そう言いながら俺たちも帰っていった。
以外ッ!それはゴリ押しッ!
ここで補足説明。『自分から刺さりにいくのも予知できたら避けれただろ!』と思うでしょうが、神帝の白眼は任意性。魔力を物凄く使うから、勝利を確信したその瞬間発動していなかったんです。ちなみに神帝の白眼は発動時は全ての能力を使えますが、未発動時は一つしか能力を使えません。




