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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
エピローグ
239/240

全てを失ってもあなた共に

神々が住まう地、神界。そこには最高神である支配神を筆頭として、様々な事柄を司る神が存在している。その中でも支配神がいる地、そこは地平線まで純白の床が続き、それはほのかに光っている。そしてそれ以外の場所は真っ黒に染まっていた。



「神を、劣等種ねえ……本当に面白い。」



支配神は愉快気にくつくつと笑う。



「まあ、正義だとか価値だとかってのは等しく意味がない。結局は感情をもって考えたものに過ぎないからな。」



ジンのあの考えは、前世の死に際に至った思考。この世の全てに価値がないと、その時に彼は気付いたのだ。しかし、その考えには続きがある。



「まあ、だからこそ人はものに自分だけの価値を見出すことができるわけだ。そういう意味じゃあ確かに破壊神は理解していないわけだ。既存のものに価値を見出せず、全てを創りなおそうとしたあいつは見る目がなかったってわけなんだから。」



ものごとには多角的視点が存在する。そのものの全てを好きになることは、絶対にできない。だが逆に言えば、自分の嫌いな面もあれば好きな面もあるはずだったのだ。それを受け入れず、信じられなかった。それが破壊神なのだ。



「……さて、それじゃあ始めようか十代目勇者よ。」



支配神はひとだまの形をとる、ジンの魂を見た。



「本来、死者が蘇るのは許されない。死とは平等にして絶対のものであるべきだ。死を遠ざけるのは許されても、死を覆すのは俺の世界のルールではタブー。」



支配神は仕方がないという風に首を振った。



「それでも、生き返りたいんだな?」



ジンは魂の状態で頷く。



「いくら世界を救った英雄といえど、ただ蘇らせるわけにはいかない。生き返るのなら、お前の命に並びうるものを貰う。それでも、お前は再び世界に戻るか?」






==========






歩き続けた。俺は生まれてから一度も、嫌になっても、やめたくなっても、足だけは止めなかった。その場に止まっていたら、永遠にそれ以上の自分になれないから。もし進んだ先に後悔があるとしても、進まない事の後悔より何倍もマシだったんだ。

何度も間違えて、何度も失敗して、何度も成功する。それを繰り返して、少しずつ、少しずつ目的地へと進んでいく。それが遥か先でも、いくら走って先が見えなくても、それでも、歩みだけはやめなかった。だからこそ、失うことは怖くない。失うことを恐れて立ち止まる方が、何倍も怖いって知ってたから。



「おい止まれ!ここが誰の屋敷か分かっているのか!」

「……そうかい。」



俺は肩を掴んだ騎士の手から体をずらして通り過ぎる。追いかけようとしたところで重心を利用して派手に転ばせる。



「誰か!侵入者だ!」



騎士は大声を出して仲間を呼んだ。しかし俺は歩き続け、真正面から屋敷の扉を開ける。本当に久しぶりだ。少し家具の配置も変わっている。だけど、ここは確かにファルクラムの屋敷だ。



「確か、こっちか。」



俺は長年住む家のように、一つの部屋を目指して歩き始める。何故か騎士は追ってはこなかった。しかし、まあ、気にする必要もないか。戦わないならそれに越した必要はない。



「こういう時のノックって何回だっけ……まあいいか。」



俺はとある部屋を無造作に開ける。そこには書類にペンを走らせる一人の少女がいた。いや、あの時より少し背が伸びている。もう少女とは言えないのだろうか。



「……」

「……」



俺は彼女が執務を行う机の前まで歩き、そこで止まる。彼女もそこで、ペンを置く。



「随分と、遅くなったな。」



言葉は返ってこない。それどころか目すらも合わせてはくれない。



「まだ俺と、結婚してくれるか?」



不器用だ。自分でもそう思わずにはいられない。色々言わなきゃいけない事があるはずなのに、この言葉が一番最初に出てきてしまった。



「……まず、謝るべきじゃないんですか。」

「それは……本当にすまん。」

「どうして生きてるんですか。」

「後でゆっくり話す。」

「なんで、そんなに魔力も闘気もないんですか。」

「それも後で。」



俺は決して彼女から目を逸らさずに、言葉を待つ。悪いのは俺だ。ならば彼女の言葉を待つことしか、俺は許されていない。



「……ずるいです。卑怯です。全部、ジンさんが悪いんです。」

「ああわかってるよ、シルフェ。」



久しぶりに彼女の名を呼んだ気がした。ずっと忘れてはいなかったが、声にはずっとしていなかった。



「結婚でもなんでもしますよ。私は約束を違えません。」

「……こうして戻ったんだから、一応約束は破ってないだろ。」

「いいえ、破りました。少なくとも私の心を傷つけました。」

「……すまん。」



シルフェの目から雫が落ちる。



「そう思ってるなら、もう二度と、離れないでください。私を、一人にしないでください。」

「もちろん。」

「永遠に私の為に生きてください。」

「……なんか性格変わってない?」



昔の方がもっとマイルドだった気がする。



「ああ、それと。」



シルフェは俺に笑顔を向ける。涙をこぼしながらも、嬉しさが目に見えて分かるような笑顔を。



「お帰りなさい。」

「……ああ、ただいま。」



俺はこの日、全てを捨ててこの世界へ再び戻った。

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