18.大戦後
神と人の大戦は、英霊が天に昇ると同時に終わりを迎えた。英霊達と現地で戦う戦士の活躍もあってか、悪魔の数はその頃には大きく減っていた。英霊達の助力がもう必要ないぐらいには。
だが、損害は計り知れない。グレゼリオン王国以外の全国家が崩壊したことにより、建て直しには大きな時間をかけた。三大国家の内の一つであるオルゼイ帝国は皇帝の死亡により自然消滅し、クライ獣王国は獣王が健在でありながらも獣王自身により終わりが示された。
他の国家も建て直しをしようとはしたが、人望の有無により潰れたり、再建に成功した国もあったりして、安定するのは数十年先だろうと予測される。三大国家が一つになったことからグレゼリオン王国の力が強まり、人口が集中してしまったというのも理由の一つであった。
死者と行方不明者数は合計して、最終的には五千万人近くとなった。対策はしてはいたものの、やはり舐めてかかっていたのか小国などの被害が甚大だった。それに比べ戦力が十分だった三大国家は人口が多いにも関わらず、死者は少ないものとなった。
要人としてはオルゼイ帝国の皇帝と、『騎士王』であるディザスト、そしてオルゼイ帝国の崩壊に合わせて七大騎士も幾人かいなくなった。最初こそ動揺は強いものだったが、時間が経つにつれ少しずつ回復していくこととなった。
そして、大戦にて戦った戦士達はそれぞれの形で世間に貢献していくこととなる。
エースは新国王としての正式な手続きを踏み、正式なグレゼリオン王国七十三代国王となった。エルはその王妃として横に立ち、フィーノはエースと共に国の復興のために駆け回っている。エースは傲慢ではあるが、それにたる能力を持っている。直ぐにとは言えないかもしれないが、比較的早く復興が済むだろう。
アクトとクラウスターは共に旅に出た。人器は開拓をし直すのに大いに役に立ち、新しい時代の代名詞として扱われるようになった。人器は所有者を選ぶようにして作られ、力あるものが更なる力を得る為の武器として後世でも強者の証明として持たれるようになる。
シンヤ・カンザキは戦いの後、姿を消した。死んだという人もいたが、半数以上の七大騎士がいなくなったことから、全員で話し合って決めたのだろうと予想された。どちらにせよ不穏なものではないのは確かだろう。彼らは自分の意思で歴史の表舞台から一度姿を消したのだ。
そして最後に、シルフェード・フォン・ファルクラムの話をしよう。
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あの対戦から数年の時がたった。既に学園は卒業し、それぞれが自分の道を歩んでいた。そんな中、シルフェードは自分の生まれ育った領地に戻っていた。つまりはファルクラム領の屋敷である。
「久しぶりですね、アクトさん。」
「おうよ。結構長い間旅に出てたからな。」
屋敷の応接間にて、シルフェードとアクトがいた。シルフェードは貴族らしい優雅で綺麗な服をしているが、アクトはどこか薄汚れた、良い意味でも悪い意味でも冒険者らしい服を着ていた。
「クラウスターさんはどうしたんですか。一緒に旅をしているのでしょう?」
「貴族の屋敷なんか入りたくねえんだってさ。豪華すぎて居心地が悪いらしい。」
「ああ……そうですか。クラウスターさんは意外と質素な感じが好きでしたね。確かに公爵家の屋敷は居心地が悪いでしょう。」
シルフェードは昔を懐かしむようにしてそう返す。どれも、間違いなく楽しい思い出だった。
「ファルクラムは領地運営の勉強中だっけか?」
「ええ。まあ知識自体はあるのですが、やはり顔の繋がりや経験が浅いので、色々な事をやっている段階ですね。」
「……そうかい。」
アクトは一瞬何かを言おうとしたが、悩んで言うのをやめる。シルフェードもその仕草に気付いたのか、不思議そうな顔をする。
「どうしたんですか?」
「いや、大した事じゃねえよ。気にしないでくれ。」
「いえ、気にしませんからどうぞ話してください。それに言いたい事はなんとなく想像がつきます。」
そう言ってシルフェードは机の上に置いてある紅茶を軽く飲み、また戻す。アクトも再び悩むような仕草を見せた後に、意を決したようにして口を開く。
「……ジンが、死んでから結構経つな。」
「ええ、はい。」
それはこの二人が揃うなら避けて通れない話であった。ジンとアクトとシルフェード。この三人はそれぞれが確かな仲間だったのだ。
「今回この屋敷に寄ったのも精神がやられてないか不安だったからだ。趣味は多少あるかもしれねえけど、やっぱりキツいだろ。」
「まあ、多分、初恋でしたので。」
「ジンの代わりになるような奴なんざ、いねえしな。違う男と結婚して幸せになれるってならいいかもしれねえが、お前は多分ずっと引きずるだろ?」
「……はい。」
シルフェードは真面目だ。だからこそ再婚して、新しい婚約者ができてもそれを真の意味で愛する事はできないだろう。必ずジンの事が脳裏に走ってしまう。
「やっぱり神界に直接乗り込んでジンを生き返らせてもらうか……」
「無理ですよ。」
「だよなあ……個人に対する贔屓はしないらしいし。」
アクトはうなだれながらも紅茶を勢いよく飲み干し、槍を掴んで立ち上がる。
「おや、もう帰るのですか?」
「クラウスターを待たせてるしな。」
「そうですか。」
「頑張れよ、ファルクラム。応援してるから。」
アクトはそう言って部屋から出ていった。シルフェードは一人残った部屋の中で、天井を見つめる。
「……ジンさん。」
あまりにも悲しい声で、その名前を呼んだ。
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次がエピローグでございます。二話に分けてエピローグを投稿させていただきます。多分、二話同時投稿となります。きれいな終わりを目指して書かせて頂くので、ご期待くださいませ。




