17.また
真正面から敵をねじ伏せ、破壊神を唯一殺しえたジンの一撃すらも耐えた。これから先はエネルギーの回復を待つだけで、破壊神の勝ちは確定している。
「フフフフフフ、フハハハハハハハハハ!」
破壊神は勝利に酔いしれるようにして笑う。もはやこの世界に破壊神を止めることができるものは存在しない。
「ハハハハハハハ、ハ、ハ……は?」
破壊神は笑いながら空を見たときにはじめて気付いた。そこには一つのお守りがあった。そのお守りの表面には、日光により見にくいが夢想祈願と書かれていた。そんなお守りが空で静止していた。
「なん、だ、これは。」
破壊神は世界の記憶を閲覧することにより、全ての情報を得ることができる。しかし破壊神はそれが分からなかった。世界の万象を記録する世界の記憶には存在しないもの。本来、あるはずのないものが破壊神の目には映っていた。
「時は、巻き戻る。」
既に破壊神の手によって魂ごと壊されたジン・アルカッセル。その声を、確かに破壊神は聞き取った。お守りは燃える。燃え盛る。そして一瞬の何かが歪んだ感覚を破壊神が感じた時、その眼前に刃が迫る。
「『絶剣』」
全てを斬り裂く刃が、破壊神の胸元を貫いた。
「な、あ、が、馬鹿な。」
ジンは聖剣を引き抜き、破壊神はその場に崩れ落ちる。
「……俺の、二つ目の夢想技能。」
ジンはその左手に燃え盛るお守りを持つ。お守りは少しした後に燃え尽きて塵となった。
「『果てなき戦い』」
それは時間を巻き戻す力。支配神から貰ったお守りを代償に一度だけ使える夢想。
「馬鹿、な。ありえない。魂が壊れたのだぞ。体内時間の巻き戻し如きで、どうにかなるものではない。」
「ああ、確かにな。『その物語を続きから』みたいな体内時間の巻き戻しは、完全に破壊されたものは元に戻せない。特に魂とかの貴重なものなら尚更だ。」
しかし限定した時間の巻き戻しでさえなければ、話は変わる。
「世界そのものの時間を巻き戻して、記憶を過去に飛ばした。ただそれだけだ。」
「それこそ、有り得ない。ならば私の力も元に戻っているはずだ。」
「忘れたのか、お前がそれを壊したんだぜ?」
世界は巻き戻り、全ての状態が元に戻る。その中で唯一、ジンのみが記憶を保持できる。ただそれだけの力。相手の情報を引き出したり僅差で負けた場合は役に立つが、圧倒的な実力差があるならそれは意味なさない。そう、意味をなさないはずだったのだ。
「本来なら、お前の記憶はここまで持ち越されず、体もしっかりと元に戻ってた。だが、他ならぬお前がそれを壊した。ただのやり直しが、必殺の一手に昇華したわけだ。」
「そ、んな、ばか、な。」
破壊神は絶句する。もしも破壊神が壊したのが『破壊神に虚無世界が干渉できる』という概念だったのなら、そうはならなかっただろう。破壊神は慎重さを欠いたのだ。
「死にな、破壊神アグレ。お前の負けだ。」
「……ッ!!!」
破壊神は自分の体が崩れていくのを感じながらも、激しい憎悪の感情をジンへと向ける。
「まだだッ!せめて貴様だけは道連れに!」
「……永遠の眠りにつけ、原初の神よ。既に神代は、終わりを迎えている。」
ジンの聖剣に魔力と闘気が込められていく。
「『神鬼乱血』」
最後の一撃が、破壊神の命を刈り取る。あまりにも静かに決着がついた。ジンは疲労からかその場にゆっくりと座り込み、空を見る。
「終わり、か。」
ジンは英霊としてこの場にいる。それは文字通りの終わりである。この戦いが終われば、冥界に行かねばならない。例え英霊であってもその絶対原則に背くことは許されないのだ。
「……シルフェ。」
愛おしそうにその名前を呼ぶ。気を失いながらも、しっかりと生きている姿を見てジンは優しく笑った。ジンは立ち上がり、側に寄ろうとしたが、それよりも早く迎えがくる。
「またな、シルフェ。」
ジンの体が光の球となって崩れていき、天に登っていく。それはジンだけではなかった。各地から光の球が天に登っていく。それは戦いの終わりを示した光であった。
地面から光の雪が登った日、神と人の戦いは終幕を迎えた。
ロードはloadとroadというダブルミーニングとなっています




