15.リベンジマッチ
このままの状態が続けばジン達の方が有利。破壊神もそれは分かっている。だからこそ、なりふり構わずこの状況を打開しようとする。この人数差を埋めるために必要なのは、分かっていても防げない攻撃。
「調子に乗るなッ!」
その一言と同時に破壊神の周辺に破壊の因子がふき荒れる。それに対して攻撃のために接近していたシンヤが鋭く切り返す。破壊神は生まれつきの強者であるがゆえに、破壊の力を完璧に使いこなせていない。だからこそ破壊神の攻撃は全て緻密ではなく単調。そして破壊神自身それを分かっている。故に選択した。
「っ!!?」
それは単純だった。今までこれからの侵攻のために残しておこうとしたエネルギーをこの瞬間に使い切ると決めただけ。故に効果も至ってシンプル。シルフェードの『永遠と続く絆』が起動しているというのに、シンヤが反応できないほどのスピードで殴るというだけ。
「『幻壁』ッ!」
「幻ごときで止められると思うな!」
破壊神の拳がシンヤの防御を貫通し、大きく吹き飛ばす。破壊の因子をまとった拳で殴られたのだ。シンヤはもう戦えないだろう。そして急な変化は必ず隙を生み出す。
「壊れろ」
その一言でアクスドラが消えうせる。文字通りの完全な消滅。魂すら残らない破壊の力が行使された。
「アクスドラッ!」
「チッ!面倒な!」
次の一撃を撃たせまいとエースが接近する。しかし数が減ったのと破壊神の能力が劇的に上がったことから、いくらエースであっても普通にやったら返り討ちにあうだけ。それを分かっているからこそ、奥の手を即座に抜き放つ。
「『未来は希望と共に、王は世界を創世す』」
純白の一撃が破壊神を飲み込む。
「人間が使うには、それはあまりにも過ぎた力だ。」
しかしそれさえも喰い破り、エースの眼前に破壊神が迫る。エースも当然、武具を生成することにより破壊神を止めようとする。しかし破壊神はその攻撃を受けながら鋭くエースへと蹴りを放った。
「マジ、かよ……」
残るはヴァザグレイ、ジン、シルフェード、精霊王の四人のみ。精霊王が実質戦えない状況にあることも考えると、単純計算で戦力は半減。確実に勝利が遠のいた。だが、決して破壊神は攻撃の手を緩めない。
「散れ、精霊王。」
そして次に破壊神が狙うのは精霊王。一番脆い部分から潰すのは定石といえよう。確かにこの中の一番の足手まといだが、二代目勇者はそれでも冷徹に切り捨てることはできない。それが、彼が『勇王』と呼ばれた理由なのだろう。
「く、そ。」
ヴァザグレイは精霊王の前に立ち、メテオスターを盾の形に変えて破壊神から精霊王を守る。しかしいくらヴァザグレイであっても、聖剣であっても破壊神を止めることは叶わない。
「二人まとめて吹き飛べ。」
破壊神は盾となった聖剣ごとヴァザグレイを吹き飛ばし、必然的にその後ろにいる精霊王も同時に吹き飛んでいった。
「後は、お前だけだ。」
そして瞬く間にシルフェードは頭を掴まれ、意識を失って地面に崩れ落ちた。魔力や闘気が残っているのが見えることからまだ生きているのだろう。しかしそれを含めても、ジンと破壊神が一対一という状況とはあまりにも不利である。
「……最初から、全力を出せばよかったんじゃないか?」
「力を残しておかねば、私の計画は更に数ヶ月ずれ込む事になる。しかし、ここで敗れるぐらいならば計画をずらした方が良いと判断したまでだ。」
ジンは聖剣を構え、一瞬の動きも見逃さないように破壊神をよく見る。
「終わりだ。過去の英霊を呼び出して悪魔を一掃し、そしてこの私に本気を出させた。人間にしては十分な偉業だ。その誇りを抱えたまま死ぬがよい。」
破壊神は一歩ずつジンへと近付いていく。ジンはそれから逃げるわけでもなく、ただただじっと見ていた。
「破壊神。」
「なんだ。」
ジンは語りかける。そして破壊神はそれに応じた。
「父さんは、強かったか?」
「……無論だ。この私が死ぬ直前までいったのだ。アレは確かに強き存在だった。」
破壊神は苦々しい過去を思い出すようにしてそう言う。そしてそれを見てジンは嗤う。
「なら、破壊神。お前は人類をどう思っている。」
「劣悪でゴミのような種族だ。お前の父のように一部の優れた個体は存在するが、その大部分は腐っている。ならばそれごと捨て、新たな種族を生み出した方がよい。」
「……ああ、そうか。」
確かに、人類とはあまりにも獰悪な生物である。全人類が無意識下に自分達を最高の種族であると断じ、生物の命を奪うのをなんとも思わないくせして善人ぶり、更には同種族内で万単位での殺し合いを何度も繰り返す。あまりにも自己中心的であり、欠陥としか言えない生物性。しかしそれでもジンは、嗤う。どこまでも自分らしく。
「だったら、お前は何も分かっちゃいない。」
「何が、だ。」
「お前も、支配神も、技能神も、俺も、父さんも。全部等しく底辺だ。誰一人として、誰一柱として上には存在しない。いや、できない。」
ジンは言い切る。自分の言葉で自分の世界を。
「俺も、神も大して変わりはしない。ゴミの元から生まれる生物がゴミ以外であるなんて事は有り得ねえんだよ。」
「……気でも狂ったか?」
「ああ、いや、狂っていないね。いや、生まれた瞬間から狂ってたのかもしれないが、少なくとも俺は生まれてから一度も変わっちゃいない。」
生まれながらの狂人。生まれながらの欠陥者。それこそが、ジン・アルカッセル。その根源に、破壊神は今たった初めて触れた。
「この世に優れた存在なんていない。力があるかないかだけだ。その個人の価値観で優れていると思うのは勝手だが、思ったところでそいつが優れた存在になるわけじゃない。」
「ならば、私の正義を為すだけの事だ。元より承認を受けてもらう為の行為ではない。」
「なら、お前は黙って俺を殺せばいい。」
破壊神は初めて言葉を止める。それが真実であるからだ。
「俺にそれを話す時点で、お前はその行為に誇りを感じている証拠に他ならない。」
「……それが、どうしたというのだ。私の正義を為すのだから、誇りを持って当然だろう。」
「ああ、そうだな。だが、俺とお前が同価値という事実は覆りはしない。お前が散々煽り散らした旧人類とやらも、新人類とやらも結局は何も変わらないんだぜ。」
「……黙れ。」
ジンはその口を止めない。
「なあ、劣化種族。」
「黙れ!人間如きが!」
神としての感覚がジンの言葉に大きく揺さぶられ、怒りを招く。そしてそれは、気付きを遅らせる。
「『終幕の剣』」
破壊神の刃がジンの首を飛ばす。しかし、ジンはまだ死んでいない。聖剣が光を発する。
「『その物語を続きから』」
首は繋がり、破壊神は大きく隙を晒す。しかし本来なら、既に圧倒的な能力差がある今、攻撃は通らない。
「「『儚き幻想』」」
声がダブって聞こえた。ジンの声と、もう一人。英霊として認められるには期間が短すぎたものの、確かに彼は世界中から認められていた。
「さあ、リベンジマッチだ。」
その燃えた剣は、破壊神を斬り裂く。
仲間が全員倒れても、彼はだけは立つ。仲間と共にではなく、彼だけは。それは彼が英雄であっても、勇者ではなかったから。




