13.神を殺す英雄
一柱の竜とその背には、一人の男がいた。それは雲の上を通り、空を何よりも速く翔ける。
「もっとスピード出せないのか、アクスドラ!」
『無茶を言うな。これが最高速だ。』
背に乗る男、シンヤはアクスドラを急かしている。思いの外、悪魔を倒すのに手間取ったからだろう。時間に余裕がなさそうだ。
「もうこれ以上、誰も殺されてたまるものか……!」
二人は向かう。決戦の地へと。
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四人の人間と一人のドワーフが悪魔を討ち滅ぼしていく。ある者はその剣で敵をなぎ払い、ある者は魔法で悪魔を消し飛ばす。そんな中、両手に剣を持つ男は悪魔を倒すのを止める。
「どうした大将、もうバテたか!?」
「……いや、もうそろそろだ。行ってくる。」
その男、『勇王』は青竜の背に乗る。それを見て咎めるようにして一人の女性が罵声を浴びせる。
「まだ腐るほど悪魔がいんのに、どこ行こうってのよ!」
「落ち着け。どうせこいつが向かう先など知れている。」
一人の男は笑いながらそれを制す。
「行ってこい、ヴァザグレイ。後輩の手助けをしてやるのが、先輩の役目というものだ。」
「ああ、ありがとうアラヴィーナ。」
その言葉を最後に青竜は空を翔ける。その姿は直ぐに見えなくなった。
「ああ、もう、最悪!この量の悪魔をあいつなしでやるの!」
「おや、できないと?」
「はぁー!?舐めてんじゃないわよ!あんた一人だけ鍛治王とか言われちゃって有名になったから調子乗ってんじゃないの!」
女性は杖を構え、魔法を展開する。その魔法理論は古く現在より劣るものではあるが、使い手が異常であるならば現代の魔法使いより優れることも有り得る。
「私が指揮を取るわよ!遅れを取ったら私が燃やすからね!」
辺りに爆炎が轟く。
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二人の男が戦場に倒れる。いや、寝転がると言った方が良いだろうか。その周辺には万を超える悪魔の対軍が地面に死体となって落ちていた。
「随分と、やるじゃねえか、フィーノォ……」
「じいちゃんこそ、昔見た時より強くなってないか?」
「あったりまえだろうが。この体は全盛期の体だぜ?歳喰って老いぼれて温厚になった俺より強いに決まってんだろ。」
「アレで、弱くなってたのかよ……」
フィーノはふと昔を思い出す。確かに自分が見た冒険王は、筋肉が衰え、白髪が混ざり始めていたと。
「行かなくていいのか、フィーノ。」
「……俺は、いい。俺はまだ英雄になるには相応しくない。今回は他の奴に譲るさ。それに、魔力も足りないし、体も動く気がしない。」
「だーから駄目なんだよ、お前は。」
フィーノは信じていた。自分を倒して、自分に再び夢を見せてくれた一人の男を。
(頼んだぜ、ジン。)
想いは、託される。
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バアルとエースは空にて戦いを繰り広げる。しかしその戦いの中、エースは攻撃を止めた。
「……どういうつもりだ、エース。」
「時間切れだ。貴様と我が戦う制限時間が切れたのだ。」
「ふざけるなよ。お前を俺が逃すと思っているのか?」
エースは肩をすくめ、呆れたようにして息を吐く。その黄金の翼を広げ、真っ直ぐ飛び行く。無論バアルも逃すまいと権能を行使しようとするが、それがエースへ向けられるより早くバアルへと鎖が鋭く伸び、バアルの手足を捕まえる。
「……僕らの子孫って、あんな薄情なやつなのかい?こちとらご先祖様なんだから感謝してくれてもいいと思うんだけどなあ。」
「優秀なんでしょう?だから見ずとも私達がなんとかしてくれると思った。賢王としての素質が強いのよ、きっと。」
それはエースが生み出した鎖ではない。現れた二人の男女、その男が持つ剣から作り出された鎖。
「……誰だ。」
低く唸るような声が響く。しかしその二人は余裕げにバアルを観察する。その頃にやっとバアルは鎖を引きちぎる。
「エースを追いかけないのかい?」
「……後ろから刺されて死ねと?」
男の右手には白い剣。神の力が溢れる原初の武具。しかしそれだけではない。女の方もそこに存在するだけで強力な魔力をそこに放ち、その黄金の髪からは無意識にエースを連想させた。バアルを警戒させるには十分な要素だった。
「お前には個人的な恨みがあるんでね、神代の出身同士仲良く殺し合おうよ。」
この世に存在する数多の英霊。しかし、神代に生まれた英雄で名が残るのはたった一人。世界で最も偉大な英雄とも言われる男。
「初代勇者にしてグレゼリオン王国の建国者、つまりは初代国王。原初の英雄たる『人王』とは僕のことだ。」
世界大戦を当時一万にも満たなかった人間の軍を使い終結させ、全ての種族が平等に暮らせる地として一つの国を作り出した。その偉業はもはや一人の人間に収まる数ではなく、複数人いたとも言われた男。
「始めようぜ、バアル。神代の再現をしよう。」
『人王』ピースフル・フォン・グレゼリオン。始まりの英雄が、ここに。




