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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
最終章〜平凡な英雄記〜
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12.贖罪

ジンとシルフェードは並び立つ。その目線の先には破壊神がいる。不快げにして堂々とそこに立っている。



「……死んでも尚、私を妨げるか。大人しく死んでおけばよかったものを。」

「ここでお前を野放しにしておく方が、俺は死ぬより嫌だからな。」



ジンは自分のスキルを全て解放し、聖剣を構える。



「ならばそこの女。聞こうじゃないか。その男が大切なのだろう?ならば最後の時を二人で楽しめば良かったではないか。」

「……それは、違いますね。私達は他人の不幸の上で幸せを得るような人間ではないので。」

「ならば、私を憎まないのか。その男はこの戦いを最後にどちらにせよもう二度と会えないのだ。私に憎悪を向けておかしくあるまい、人間ならばな。」

「それも違います。私が憎むのは私自身に他なりません。あの時、守れなかった私自身に。」



シルフェードも聖剣を構え、青竜を出現させる。



「……そうか。貴様らはやはり人の中では異端だな。自己犠牲をなんとも思わない気高き心を持っている。人類が貴様らのような奴だったら、私も人に絶望せずに済んだやもしれぬ。」

「おいおいここに来て善人面か?」

「ふん。私は最初から最後まで正しい事しかしていない。あまりにも愚かで醜い人類を排除し、新しいもっと優れた人類を作り出すだけだ。その過程で貴様らがたまたま滅ぼされるだけ。」



破壊神は話したい事を終えたのか、破壊の力を手に集中させる。それは黒き剣へと形を成す。



「『終幕の剣(エピローグ)』」



破壊神が剣を構えた瞬間、ジンは破壊神へ迫る。既にシルフェードの夢想技能オリジナルは発動している。



「『絶剣』」



全てを斬る刃と、全てを壊す刃。それは互いの力で反発しあい、結局はどちらの効果も発動せずに終わる。もちろん、『英雄の剣』がなければジンの腕の方が消し飛んでいてもおかしくはないが。



「遅い。」



しかし打ち合いができればの話である。破壊神はジンの何倍もの身体能力を持つ。単純な能力だけでジンを上回るのだ。身体能力の差は、勝敗を明確に分ける場合が多い。しかもここまで圧倒的なら。だがそれは破壊神が剣の達人である場合だ。



「甘い。」



理論と経験が編み出す予測。達人の域に達すれば、それは簡易的な未来予知にも迫る。相手の踏み出す足、進む方向、剣の向き、構え方、呼吸の取り方。それさえ見えれば、否、ここまで実力差があるならば見なくともその攻撃に反応ができる。



「シルフェ!」

「はい!」



ジンが破壊神の剣を防いだ瞬間に合わせてシルフェードが飛び込む。四方八方から蒼き竜が飛び出し、破壊神を喰らう。ジンもそれに合わせて大きく下がる。



「ぬるいな。」



破壊神は周辺に破壊の因子を撒き散らし、その青竜を全て消し飛ばす。いくら攻撃を防げてもジンとシルフェードの攻撃は決定打になる事はない。圧倒的な防御力と、何より火力が足りない。傷をつけるのがやっとだというのに、そこから相手の力を削り切らなければならない。

ジンとシルフェードが破壊神にはない戦闘経験でなんとか戦力差を埋めてはいるものの、魔力や闘気は減る一方。着実に二人が不利になっているのは間違いなかった。



「安心しろ。お前達は冥界でよく見ているといい。完全で幸福な世界を私が創造してやろう。」



破壊の息吹が吹き荒れる。周囲に存在する物体は容易く朽ち果て、微かに存在する植物も息絶える。ジンとシルフェードは、直感的に理解した。これが一体なんなのかを。



「やっぱり、あの流行り病はお前のせいか。」

「……ん?ああ、そうだな。体の弱い者には私が少し力を使うだけで害やもしれん。しかしこれは私が存在するだけで生まれるものだ。破壊としての概念から生まれる力。人間でいう汗のようなものだ。」




破壊の息吹が剣を生み出す。一つや二つではなく複数。それがまるで弾丸のように高速で打ち出される。



「『天絶』」



ジンは一太刀でそれを切り落とした。しかしその程度で攻撃が終わるはずがない。即座に破壊の因子から剣が形成されていく。



「『因果逆転(ミラー・オーダー)』」



シルフェードは因果を逆転させる。破壊の刃が形成されたという因果から、形成されなかったという因果へと。しかしそれならば、破壊神のエネルギーは消費されなかった事になる。むしろ体力を使う分、二人の方が幾分か不利。だがそれでも、一瞬の隙というアドバンテージがあれば。



「無銘流奥義六ノ型」



破壊神の眼前にジンが迫る。ジンの一撃は理論上、全てを斬り裂く。それは理論や概念を無視して、代償さえ払えば文字通りなんでも。



「『絶剣』」



ジンの鋭き一閃は破壊神の首を飛ばす。しかしジンは油断せずに体を幾度も斬り落とし、そして再び後ろに下がる。そもそも神の体に特定の形など存在しない。どの形が好きかによって形を変えるとが神だ。ならば急所など存在しない。体のありとあらゆる部位で均等にダメージが入る。



「『破壊の砲撃』」



破壊神は即座に体を再形成し、その右腕から破壊の因子を収束させ放つ。ジンとシルフェードはそれぞれ二方向に避けるが、破壊の因子は分裂して二人を追い続ける。



「『因果逆転(ミラー・オーダー)』」



シルフェードがそう唱えると同時にその破壊の砲撃が消失する。いや、なかったことになる。シルフェードの体力消費はそれに見合った分、比例して増大する。シルフェードは膝が折れ、その場に倒れそうになる。



「シルフェッ!」

「終わりだ。」



一瞬の隙が、致命的な隙になる。それは格上相手ならあまりにも大きい。破壊神は破壊の力を込めた右の拳をシルフェードへと叩き落とす。



「そうはいかない。」



その右手はもう一つの手に掴まれて止まる。その一瞬の間にシルフェードは距離を取ることに成功する。無論、破壊神の腕を握った手は消滅する事となったが。



「贖罪をしにきた。いや、既にもう償いなど効かぬのかもしれない。しかしそれでも、私はここに立たなければならない。」



それはジンもシルフェードも一度だけ見たことがある精霊。全ての精霊の頂点に立ち、この世の四つの原種の一つ。



「『精霊王』として、創造神様の代行としてここに立とう。」



『精霊王』アルメルス・リカオン。破壊神を呼び出した、ある意味での大罪人。しかし世界は、彼を英霊として認めていた。それほどまでに彼の行動は気高く、清かったから。



「今更、私に危害を加えられない原種が何をする。まさか私を殺す気か?」

「……確かにそうだ。私は時間稼ぎに過ぎない。」

「時間稼ぎ、だと?」



精霊王は失った手とは反対の手を破壊神に向ける。



「それは、きっとお前が作ろうとしている人類では永遠に生まれない存在達だ。」



音が聞こえる。雄叫びが、空を切る音が、自信に満ち溢れた足音が。英雄は、世界を救う為にここに集う。

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