11.神を殺す為に
様々な英霊達が悪魔を討伐していくが、その中でも邪神の所へ辿り着けたのはほんの一部。大体がその前に殺されたり、撤退を余儀なくされた。しかし逆に言えば一部は辿り着けたのだ。
「……やはり最後には貴様が立っているか。」
そこに辿り着いたのは二人。シルフェードとエース。むしろ七十二柱の軍勢の中を、よく二人も通れたといった所だ。邪神がいる場所の前に、二人は到達した。
「『悪魔王』バアルよ。再び我に殺されにきたのか?」
「俺は破壊神の従順な僕でね。我らが創造主のためなら何だってするのが七十二柱の悪魔ってやつさ。個体によって忠誠度は違うけど、破壊神の手で作られた俺はとにかくそれが強い。だから、言っておくけど君に殺されに来たんじゃない。邪魔をしに来たんだ。」
そう言って悪魔王は一振りの短剣を取り出す。その短剣は以前とは違い、ヒビが入っている。
「ファルクラムよ、先に行け。恐らくこの先にジンと邪神はいる。」
「……ええ、分かりました。」
シルフェードは青竜と共に悪魔王の横を通り過ぎる。悪魔王はそれを見向きすらせずに短剣を手元でいじくる。
「通して良かったのか?」
「……ああ、そうだね。俺の反転剣は悪魔全員の復活の為にその力を失った。君を止めて、更にもう一人を止める自信がない。」
「そうか。なら、我も貴様を直ぐに殺して通ろうか。」
「クク、いや、そうもいかない。破壊神から俺は力を貰っている。即ち二つ目の権能を、ね。」
悪魔王は笑う。最強の悪魔としてのプライドが、悪魔王をそこに立たせていた。
「あの時のリベンジを始めよう。次は俺が勝つ。」
「……ふん。まあ良い。受けてやろうではないか。」
エースは聖剣を呼び出し、右手で握る。そしてその白き聖剣はゆっくりと悪魔王に向けられる。
「見せてみろ、貴様の力とやらをな。」
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邪神が降り立った所。そこには黒い円状のドームがあった。恐らくはその中に破壊神はいるのだろう。そしてその黒いドームの前に、一人の男が立っていた。
「……ジン、さん。」
その男、ジンはシルフェードを待っていたのだろう。決意をした顔を、彼はしていた。
「……すまねえな、死んじまって。」
「すまない、じゃないですよ!ふざけないでください!貴方から結婚を申し込んでおいて、それで勝手に死ぬなんて!」
「……これも、計画の内ではあった。破壊神との戦いで俺が勝てばそれで良し、負ければ聖剣の力とレイで有利な盤面へ持ち込める。結果論で言えば俺が死んだ方が有利になった。」
「勝つためなら!勝つためなら死んでいいと!!?私の想いなんて関係ないんですか!」
シルフェードの慟哭は、彼女にしては珍しい本心が剥き出しになったものであった。ジン自身も、正しいことをしたとは思っていない。だからこそ強気に出ることは決してできなかった。
「すまない。」
「すまないじゃ、ない、ですよ……」
シルフェードはジンにもたれかかるように崩れ落ちる。
「この戦いが終わったら、英霊達は冥界に帰る。それは俺も例外じゃない。」
「……ええ。」
「だけど、俺は絶対に約束は違えない。それだけは俺は言い切れる。」
「もう、約束を破ってるじゃないですか……結婚するって言ったのに、死んだらそれもできないんですよ、何より今まで苦労した貴方が報われないじゃないですか……!」
ジンは辛そうな顔をしながらも、優しくシルフェードの頭を撫でる。
「俺は今から、邪神と戦う。一緒に、戦ってくれるか?」
「……ええ、もちろん。戦いますよ。貴方と一緒に戦う為に、ここまで強くなったんですから。」
シルフェードは立つ。そして涙を拭う。そして並び立ち、黒いドームを見る。
「英霊達でさえ、ここには簡単には辿り着けなかった。『勇王』ヴァザグレイなら、『人王』ピースフルなら確かにここに辿り着けるだろう。しかしそれには時間がかかる。そして、破壊神にこれ以上の時間を与えればそれだけ俺達が不利になる。」
この一瞬でも、破壊神の力は回復してきている。力が戻り切ったら、恐らくは無秩序に世界が破壊されてしまうだろう。それこそ誰もそれを防ぐことはできずに。だからこそ、これ以上破壊神に時間を与えることはできなかった。
「今すぐ、戦うぞ。状況は決して有利とは言えないが、それでも戦うしかない。」
ジンは聖剣を生み出す。英霊達はその体が全盛の状態で蘇り、そして一生で持った中で一番強い戦闘スタイルの武器が選択される。つまりは聖剣すらも今は再現されている。
「始めるぞ、シルフェ。」
黒いドームを、ジンの聖剣が切り裂いた。




