3.神帝の白眼
さっき会ったアクトと雑談しながら、闘気と魔力を回復させていると体育館の中に大きな笛の音が響く。そして試験官の声が更に響く。
「それでは二次試験に移る!現時点で魔石を入手できていないものは失格とみなす!二次試験は受験生同士の模擬戦である!これは実力を見るものであり、勝敗は考えないものとする!試験官の見張りのもと、模擬戦を終えたものから順次解散とする!試験結果は明日の昼頃に学園内で発表し、合格した者の中から三次試験を行うものとする!」
話している途中で何十人かが体育館から出ていく。一応受けとくって奴は多いからな。半分以上はいなくなった。さて、俺も相手を探すとするかね。すると一人の男と目が合った。まあ合わないはずがないのだが。
「やろうか、ジン君。」
「ジンでいいよ。俺もアクトって呼ぶから。」
「オーケイ!」
流石にそんなに早く組む人はおらず、俺らはまだ誰もいない試験官の前に到着する。
「ジン・アルカッセルとアクト・ラスだな?やるのか?」
「はい。」
「ああ。」
「なら離れて立て。」
なんで名前覚えてんだ。試験官がそこそこのスペースの結界を張る。この中で戦えというわけだ。俺達は離れて立ち、俺は木刀を、アクトは槍を構える。
「それでは……」
槍はリーチが長く、刺突能力に長けている。しかしあまりにも近寄られ過ぎたら対応が難しい。しかし上位の使い手であるならば、普通に戦うよりそこまで接近する方が難しい。戦国時代でメインウェポンとして使われた肩書きは伊達じゃない。
「始め!」
だからこそ先手必勝。槍はリーチが長いが故に、刀ほど小回りが利かないという弱点がある。自分から攻めて、手数で勝つ。
「はあっ!」
まあ初撃は防がれるだろう。しかし2撃目、3撃目なら防ぐのは容易ではないはず。
「俺に手数で勝負するのは駄策だぜ?」
流れるように次々と攻撃を放つが全て避けられ、攻撃のタイミングに合わせて木刀を弾かれる。即座に氷の球を生み出し放つ。しかしそれが生成される瞬間に壊される。先読み能力が高すぎやしないか?
「らっ!」
もちろんの如く槍が俺に向かって飛んでくる。俺は前に出ながら槍の柄を掴み、右足で腹を蹴ろうとする。が、いない。それに気付いた瞬間、横腹に鋭い痛みが走った。
「うぐっ!」
「まだまだ遅いぜ。」
俺はそのまま結界まで吹き飛ぶ。異常な反射神経、或いは相当な先読み能力を持っているように感じる。
「もう一発!」
しかし違和感がある。いくらなんでもそこに攻撃が来る前提の動きは、絶対に出来ないはずだ。予測が外れていた時のリスクが大きすぎる。しかしそれをさも当然かのように行っていく。自分の行動を信じて疑わないように。
「喰らえッ!」
狙うのは俺の心臓。俺は手から木刀を離し、地面から生えた氷の手が木刀を掴み飛んでいく。意表をつく一手。だがそれすらも、まるで想定の範囲内と言わんばかりに氷を足で壊し槍が大きく回転して俺に当たる。
「なる、ほど……」
しかし今度は飛ばない。喰らうと決意していたから、俺の足と地面を固定しておいた。
「なあアクト。お前は未来予知ができるな?」
「おお!?早いな!」
そう言いつつ次の一撃を放ってくる。防御が意味をなさない。俺がいくら考えようが、その全てを掻い潜り隙をつく。未来予知ができているとしか考えられない動きだ。
「『氷竜』」
「おっと!」
氷の竜が創造される。口調では驚いているが、魔法発動前に既に逃げている。これで間違いない。
「まあ、ジンの言う通り俺の能力には未来予知がある。だが、分かった所で対応できる力じゃないぜ?」
そりゃあそうだな。本当に未来予知ができるのなら、俺がどれだけ策を講じても無駄。分かってても防げない攻撃を放つ必要がある。一番単純なのは全方位から回避不可の弾幕。しかしその分威力は落ちるし、そんなん何度もやってたら先にこっちが魔力が尽きる。
「『多重展開』……手数で勝負だ。」
更に二体の氷の竜が現れる。計三体の氷の竜だ。
「おっと。これはキツイね。」
三体の氷竜と共に俺が攻撃する。一気に片付けるのではなく、少しずつ少しずつ追い詰めて行く。
「やっぱりやるな!」
そう言いながらアクトは攻撃を防いで行く。やるのはどっちだよ。そして氷竜が退路を防いだ所で、アクトの頭上で魔法を放つ。
「未来予知ができる程度でここにいるわけねえだろう!」
「ッ!?『氷槌』!!!」
当たる直前に全ての魔法が解除される。そう。破壊ではなく解除だ。俺の意図とは関係なく弾かれた。
「『強制解除』俺の視界に入った魔導を、思うがままに解除させる。俺の能力の一つだ。」
「随分と軽く教えてくれるな。」
「お前ほどの実力者なら教えなくても分かるだろ?」
「まあ、な。」
しかし能力には絶対に弱点がある。ノーコストで魔法を無効化できるなら直ぐに使っていた筈だ。なら条件があるか、再使用に時間がかかるか。どちらかである可能性が高い。だがもう試す魔力はない。
「それじゃあそろそろ全力で行かせてもらうぜ?」
「来いよ!勝つのは俺だ!」
ああ、いや。少し口が歪む。こんな最悪な状況なのにテンションが上がってきた。頭が冴えわたる。どうやったら相手の虚をつけるか、どこら辺が限界なのか。どうやって勝つのか。
「なあ見せてくれよ!お前の限界を!」
俺は全力で地面を蹴る。力技で片付ける。文字通りな。
「防ぎ切れなっ!」
「はっ!」
俺は全力で槍を大きく弾く、そこからの防御は不可能。予知できるなら、予知できても意味がないほどのパワーでねじ伏せるんだよ。
「目覚めろ!『神帝の白眼』!!」
俺が木刀を振るうその瞬間、アクトの眼が白く染まる。そして突如、俺の後ろに現れる。
「なっ!」
俺は驚きながらも攻撃を防ぎ、一撃を叩き込む。当たった。いや、当たるはずがない。おかしい。その瞬間腹部に激痛が走る。
「あ?」
アクトは俺の目の前にいるのに、後ろから槍が突き刺さっている。いや、これはまさか。
「『予知の魔眼』、『鑑定の魔眼』、『破魔の魔眼』、『石化の魔眼』、『即死の魔眼』、『魅了の魔眼』、『透過の魔眼』、『闘魔の魔眼』。他にも色々とあるが、俺の『神帝の白眼』は全ての魔眼の能力を持つ。その一つが『夢幻の魔眼』だ。」
俺の前にはアクトは既におらず、背後から俺の腹部を槍で貫いていた。
「さあ、どうする?」
マジ、かよ。




