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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
最終章〜平凡な英雄記〜
228/240

8.二度目は

一つの部屋の中。シンプルで書斎のような部屋。そこに二人はいた。一人は金髪の様々なゲームでみるような勇者のような顔立ちの男。もう片方は優しそうな顔をする黒髪黒目の青年。



「あなたが、九代目勇者か?」

「ああ、そうだとも。」



木製の椅子で二人は向かい合う。



「単刀直入に要件を言おう。あなたの力を借りたい。」

「……いいとも。力を貸そう。」



やけに呆気なく九代目は了承し、シンヤは肩透かしを食らった気分になる。



「やけに呆気ないね。」

「もとより私に大した条件なんてない。ただジンという男が気に入らなかっただけだ。」

「人のことを思えて、誰よりも勇敢な人だと思うけどね。」

「……ああ、確かに彼は勇敢だ。だが、それではまだ不適格だ。」



九代目はそう言う。ジン・アルカッセルは確かに強いし、勇敢である。自己犠牲を厭わず、周囲の人間を思わず努力させてしまうほどの努力家だ。しかしそれでは九代目にとっては勇者たり得ないのだ。



「勇者とは、求められるものだ。君のようにね。」

「俺のように?」

「そうだ。歴代勇者の中で、自分の意思だけで勇者になったのは十代目だけ。あの殺人鬼の五代目でさえ、少ないとはいえ誰かに求められて勇者となった。勇者とはみんなの希望だ。希望は求められて初めて意味を成す。」



シンヤは思い出していた。ジンが聖剣を抜いたあの時、確かに一人たりとてジンが勇者になる事を望んでいただろうかと。



「英雄としては、あるいはそれで良かったのかもしれない。しかし勇者としては不適格だ。武闘祭のアレが最たる例だ。今までその強さを疑われた勇者なんて存在しない。無名の剣士が勇者となるなんて、前例が一切なかったからね。」



歴代勇者は聖剣を抜く前に何かしらで功績をあげていた。それによって勇者となるのが普通。勇者になってから功績を挙げようとしたジンが異端なのだ。



「……さて、もういいかい。そろそろ戻らないと世界が滅びてしまう。」

「……ああ。」



シンヤは立ち、入り口のドアノブに手をかける。そして顔だけ振り向く。



「確かにあなたは間違っていない。だけど、一つ言わせてもらうよ。」

「……なんだ。」

「ジンは、君とは違う。」



たった一言、シンヤは言ってそのまま出て行った。九代目勇者はその言葉を聞き、少し驚いたような顔をして、そして無感情に天井を眺めた。






==========






シンヤは目覚める。そして聖剣を強く握る。



「……できたかい?」

「ああ、直ぐにやろう。」



シンヤは頭の中に響く名前を感じるままに唱える。



「『勇者之英雄(アーサー)』」

『勇者である事』



シンヤの頭の中に条件が響き、それが割れるような感覚で解除されたのを感じる。



「九代目勇者の力は確率操作。理論上ありえる事を全て可能にできる、で合ってるよね?」

「ああ、そうだ。それでどうするんだ?」

「なら、もう僕の勝ちだ。」



レイは上の服を脱ぎ捨てる。シンヤは何故服を脱いだのか聞くより先に、シンヤの心臓部分にある魔法陣に気付く。



「それ、は……」

「冥界とこの世を繋げる魔法。悪魔王バアルの反転剣によって生と死の概念が揺れている今だからこそ、僕の命を引き換えに使うことができる。」

「ッ!」



絶句する。レイは魔力不足など存在しない。つまり命を犠牲にするということは、体がその魔法に耐え切れないということに他ならない。



「僕は、もう十分生きた。既に僕は前世、ジンに救われていたんだ。二度目の人生なんて必要ないし、何より妻に申し訳ない。だからジンを助ける為に死ぬ。」

「そんな……ことって……」

「そして、シンヤ。これが最後のお願いだ。その聖剣で、僕の心臓を突き刺せ。」

「……なんで、だよ。」



シンヤの頭にかつての光景が痛烈にフラッシュした。グローリーからその力を受け継いだ瞬間、自分がグローリーを殺した瞬間が。



「一つ目の理由は体を媒体にしてもまだ足らないから。僕の心臓に突き刺さると同時に体と接続さしてもらう。聖剣はその代わりに壊れることになるけどね。」

「……なら、二つ目は?」

「ただ冥界とこの世を繋げるだけなら、ありとあらゆる生物の魂がこの世に来るだけ。僕はこの世を救った英霊達を呼び寄せたいだけだ。だけど流石にこの規模の魔法は人が制御できるものじゃない。だからこそ、奇跡を可能とする確率操作の力が必要だったわけだ。これら二つを同時に処理するには、君が刺すのが一番効率がいい。」

「また、俺に人を殺せと?」



シンヤの顔は青ざめる。動悸も激しくなり、汗も流れる。



「シンヤが僕を殺せば、ついでに僕の力も君に与えられる。まあ魂は消し飛ぶから魂だけは君にやれないけどね。」

「……ほ、他に!他にないのかよ!天才なんだろ!みんなが生きれるハッピーエンドはないのかよッ!」

「ない。」



分かってはいる。分かってはいても、シンヤは言わずにはいられない。何が嫌で、自分の祖父の心臓を貫かなければならないのだ。



「……良く育ってくれた、シンヤ。逆にこのまま普通に僕の心臓を刺すような子だったら、僕は幻滅していたところだ。」



レイは遠くを見るように空を見る。いや、実際遠くを見ているのだろう。地球でレイを支えた妻、家族、子供、友。そして、ジン。



「君が、世界を救うんだ。そうしたら僕は、安心して死ねる。」

「……ああ。」



シンヤの目からは涙が流れる。やはりシンヤは優しい。どれだけ異世界で闘争に慣れても、肝心な優しさだけは消えていない。それをレイは知り、満足気にシンヤを見る。



「ばいばい、おじいちゃん。」

「ああ、また会おう。」



シンヤの聖剣が、レイを貫いた。

一度目はよく分からないまま、二度目は確たる意志と覚悟を持って

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― 新着の感想 ―
[良い点] この展開は胸熱すぎるっ! [一言] 英雄王たちのそれぞれの物語も見てみたいです
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