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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
最終章〜平凡な英雄記〜
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4.暗く染まる

グレゼリオン王国内の悪魔の駆逐は完了。オルゼイ帝国とグレゼリオン王国が力を合わせれば思ったより簡単な事であった。しかしその間に様々な国が陥落。悪魔による襲撃で全世界の死者は百万人は超えると予想された。予想というのは、あまりにも死人が多過ぎて確認しきれなかったからだ。

その結果、必然的に余裕を持つグレゼリオン王国内に全世界の人が集まる。グレゼリオンは豊かであり、備蓄の量も多い方ではあるが食料は一週間もあれば底がつくと予想された。


グレゼリオン王国は唯一魔物の根絶が達成できた国。それ故にグレゼリオン王国は安定して悪魔の討伐ができた。そしてエースが以前から用意していた国ごと覆う結界を発動させ、今は大陸外から来る敵を全戦力で倒すという風にして一日目を乗り切った。そう、まだ一日だ。しかし一日でいとも簡単にここまで追い詰められたのだ。

理由としてはやはり最初の攻撃が挙げられるだろう。突如天から降り注いだ破壊の槍。あれだけでかなりの打撃があり、しかもそこから数え切れないほどの悪魔が出てきた。その数は数万を超える。危険度は5以上が確定するあの悪魔が、だ。だからこそ簡単にここまで追い詰められてしまったのだ。



「人って、呆気なく死ぬものですね。」



そして今日は重要人物が死んだ。人類最高峰の戦力である『勇者』ジン・アルカッセルが死亡したのだ。他ならぬ邪神との決戦で。未だにこれは民衆に伏せられている。全体の士気に関わるという理由でだ。



「……ファルクラム。」



グレゼリオン王国王城内のとある一室。そこにシルフェードとクラウスター、レイ、アクトがいた。シルフェードは机に顔を伏せ、それをアクトがどう話していいかも分からないといった様子で隣にいる。



「いや、だけど死亡を確認したわけじゃねえんだろ。もしかしたらまだ……」

「それは有り得ません。アクスドラさんとの契約が強制的に切れました。契約が切れるというのは、死以外には有り得ません。」

「それ、は……」



アクトは励まそうとしたのだが、墓穴を掘ってしまった。



「取り敢えず、暗い話は終わりだ。ジンの死を無駄にしない為にも、早急に策を打つ必要がある。」

「テメエ、レイ!親友が死んで冷静でいられる奴がどこにいんだよ!」

「そっちの方は僕がなんとかする。だから黙ってくれ。」

「……え?」



死んだ人間は蘇らない。それは基本原則だ。しかし、レイはさも当然になんとかすると言ったのだ。



「ジンさんを蘇らせる方法があるんですか!」



シルフェードも直ぐに頭をあげて反応する。レイはどこか気怠そうに溜息を吐き、そして言う。



「ただ、今直ぐは無理だ。だからこそ、それまでは策を立てて乗り越えるしかない。」

「どうやってですか!教えてください!」

「……静かにしなよ。いくらあいつの事が大好きでも事を焦り過ぎだ。」



シルフェードはうぐ、と言った風に固まりながら頬が薄く赤に染まる。



「まあ結局その方法は教えらんないだけどね。だけど約束するさ。あいつは人類の希望。無理矢理にでも引き出してくる。」



レイはあくまで冷静に話し始める。



「こちらの主要戦力は僕、エース、アクト、シルフェード、アクスドラ、フィーノ、ミラ、オーディン、ベルゴ、獣王国国王、オルゼイ帝国の七大騎士セブンスナイツ、グレゼリオン王国の騎士団長達。そこら辺だ。この戦力で残りの悪魔の相手をする必要はある、けど僕はその戦いには参加できない。ジンを復活させる必要があるからね。」

「獣王国国王は強いのか?」

「獣王国は当代の国王が沢山の妻をとり、その子供の中で最も強い獣人が新たな国王となる。だからまあ国王はもちろん強い。特に当代はレベル10まで至った傑物だ。」



獣王アルゴート・フォン・クライ。その男はシンヤやエースと同格とまで言われたほどの男なのだ。弱いはずがない。世界三大国家と呼ばれるオルゼイ帝国、グレゼリオン王国、クライ獣王国。世界の頂点たる二つの国家には及ばないものの、クライ獣王国もかなりの戦力を有しているのだ。



「そして恐らくは明日には邪神と悪魔で同時に攻め込んでくる。そして昨日の戦いでは間違いなく序列十位以上の七十二柱や、戦闘に特化した七十二柱はいなかった。それらが来ると考えると、かなりキツイ。」

「……策はどうなんだ。」

「策と言えるほどの策じゃない。全戦力で押し殺すだけさ。しかしそれぞれ相性のいい悪魔と戦ってもらう。相性が悪い悪魔とは戦うな。いいかい?」

「おう、分かった。」



レイは部屋のドアを開け、部屋の外に出る途中で振り返って言う。



「僕はシンヤに会いにいく。悪魔との相性を載せた資料は明日までには届けるから、しっかり心構えしといてね。」



そう言って手を振ってレイは部屋を出て、扉を閉めた。部屋の中は一瞬沈黙が響き、その後にアクトが口を開く。



「……あいつの役目がなくなるぐらい早く悪魔達を倒してやろうぜ。」



シルフェは泣きながらも、無言で頷いた。






==========






シルフェードは、殺されたジン・アルカッセルが返ってくると聞いた時は何より嬉しかった。しかしそれと同時に気付いた。いや、気付いてしまった。なまじ頭が良かったから。分かってしまった。

レイ・アルカッセルはなんとかするとは言った。引き出してくるとも言った。しかし彼は一度も蘇らせるとは言っていなかった。そして部屋を出る前に軽く申し訳なさそうにシルフェードをレイは見たのだ。


そこでシルフェードは確信した。確かにジンは戻ってくる。しかし、蘇る事はないのだと。生きたジン・アルカッセルはもう二度とこの世界に戻ってこないのだと。



「ジン、さん。」



寝室のベッドの上。月明かりはなく、暗い部屋の中で天井を見た。彼女はこの世界で最もジンを愛した人間だ。その悲しさは勿論、一番だった。しかも救えるかもしれなかったというのに。



「……結婚するって、言ったじゃないですか。」



その顔には涙があった。涙を抑える事はできなかった。彼女はどこまでも、どこまでも暗く染まっていった。

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