2.月に
作戦は最初、八人で破壊神と戦う予定だった。しかし思いの外悪魔の数が多かったのと、七十二柱が何故か復活していることから人数が変更。三人のみで挑むという事になった。
「我とフィーノ、アクト、レイは国内の対処を行う。我が北、フィーノが南、アクトが東、レイが西だ。シンヤ含め七大騎士はグレゼリオンへ退避する為に国民と一緒に移動している。それが北から来る。だからこそ殲滅力が強い我が北を担当する。しかしそれぞれの方角からも転移門で逃げてくる奴は多いだろう。なるべく早く悪魔を全滅させよ。そして七大騎士が合流したら防衛を任せて、我達も邪神討伐へ向かう。それまではジン、ファルクラム、アクスドラで時間稼ぎをしろ。それでは作戦を開始する。即時移動せよ。」
その一言と同時にそれぞれが移動する。残ったのは俺とシルフェとエースのみ。
「邪神の現在地は恐らく月だ。黒き槍が月から落ちて来たことから考えると、ほぼ間違いはない。」
「それで、どうやって行けばいいんだ?」
「鍵を貸し出す。」
そう言って俺に鍵を投げる。それはあの時、王都へ戻った時に使った鍵。俺も右手でそれを受け取る。
「この鍵は世界のありとあらゆる所へと繋げられる鍵だ。それは月であっても例外ではない。」
「宇宙空間での活動はどうすればいい?」
「恐らくだが、今は月もアグレイシアと同じぐらいの重力が働いている。人の形を取っている以上、その方が快適だからな。後は呼吸の問題だが、これを使え。」
更に二つ分、腕輪を俺達に渡す。俺とシルフェがそれをつける。
「悪魔は呼吸は必要とせんが、貴様らはそれをつけろ。本来は海で使うのを想定しているが、宇宙空間でも呼吸ができるはずだ。」
その言葉を最後にエースは黄金の翼を広げ、空へと飛び立つ。
「我が来るまで死ぬなよ、ジン。」
「当たり前だ。」
エースは更に加速して、直ぐに見えなくなった。俺も鍵を持ち空で捻る。するとそこに門が現れ、自動的に開く。
「準備はいいか?」
「もちろん。」
『問題ない。』
シルフェの声と、頭の中でアクスドラの声が響く。俺とシルフェはその門には入った。
==========
月に来た。エースが言った通り、重力は変わりない。呼吸もできている。周りを確認すれば、そこはどこを見ても黒かった。地面も、空も、壁も黒かった。そう、壁だ。壁がある。ここは何かの中なのだ。
「来い。」
俺のその一言でアクスドラが現れた。移動する必要はない。直ぐにわかった。俺達の視線の先には黒い椅子に座る一人の男、神がいた。
「……分かっていた。だからこそ、待っていた。あれ程までに強い男が言ったのだ。事実、私を倒しえる存在だろう。」
無限加速起動。英雄剣術真の可能性『英雄の剣』発動。聖剣解放。
「『極光之英雄』」
『それが悪しき行いでない事』
「『守護之英雄』」
『何かを守るための戦いである事』
「『粛清之英雄』」
『正義のための戦いである事』
「『狂気之英雄』」
『相手が自分に比べ弱者でない事』
「『救済之英雄』」
『誰かを救うための戦いである事』
「『希望之英雄』」
『希望を持ち続けている事』
最後まで九代目から力を借りれなかった。しかし六つまで開放できれば、十分だ。
「お前だけは念入りに殺してやる。」
「やれるもんなら、やってみろ。」
俺が先に駆け出す。英雄の剣は、ありとあらゆる干渉を弾き出す。それは破壊の力でさえも例外ではない。
「シルフェ、アクスドラ。支援を頼む。」
英雄の剣が及ぼす効果範囲は俺のみ。つまりは破壊神と直接戦えるのは俺だけ。二人は安全な範囲でヒットアンドアウェイをしてもらう。俺の夢想技能が発動できれば破壊神すらも同格まで落とし込める。そうしたら俺の勝ちだ。
「『終幕の剣』」
破壊神アグレの手には黒き剣が握られる。それは破壊の象徴。破壊の因子によって形作られた剣は、本来なら打ち合う剣を破壊し、触れるもの全てを消す。しかし俺の英雄の剣なら。
「『絶剣』」
破壊の剣は簡単に斬れる。破壊神は舌打ちをしながら新たな破壊の剣を生み出す。そして、俺の眼前から消える。あまりにも速過ぎる速度。本来なら対応し切れない速度。しかしシルフェと一緒に来たのには大きな理由がある。
「『永遠と続く絆』」
シルフェが破壊神よりは遅いものの、かなりのスピードで破壊神へ斬りかかる。破壊神も容易くそれを避け、シルフェへ反撃を加えようとする。しかしまだもう一人いる。
「『悪魔神竜』」
破壊神へ突進するようにして竜がぶつかる。シルフェはそれに入れ替わるようにして下がる。
「……ミシャンドラ。確か失敗作だったな。竜の力を落としこもうとしたんだが、創造主の命令も聞かぬ出来損ないになってしまった。」
『……ふん。』
アクスドラを起点として炎の渦が巻き起こる。しかし破壊神は意に返さず、アクスドラを蹴り飛ばす。そのタイミングで俺も破壊神へと剣を振り下ろす。
「斬り合いをしようぜ、破壊神。」
「人が神に並べると思うなよ、劣等種が。」
破壊神は技術は一切ない。ありとあらゆる点が素人。しかし身体能力がズバ抜けているが故に、俺は追いつけない。
「らっ!」
しかし経験が、技術が俺にはある。身体能力で俺がその姿を見えないのならば、先を読んでその地点に攻撃をすればいい。パワーが足りないならその分だけ完璧な力の捌き方をすればいい。その為の、技だ。
「なら、これはどうだ。」
俺の周りにいくつもの黒い球が現れる。流石にアレが俺の体に直に触れたら魂ごとやられる。故に全てを剣で斬り捨てる必要がある。
「『天絶』」
増える斬撃が迫り来る球を全て斬り落とす。その隙をついて破壊神が俺に接近するが、俺を守るようにして後ろから青竜が飛び出る。
「……神の力を宿した獣か。なんとおぞましい。」
破壊の剣を使い、頭の上から剣を突き刺して地面に固定する。しかし青竜の特性は変幻自在、青竜は霧と姿を変えて辺りに満ちる。
「俺は、愚者である」
そして、俺は即座に切り札を切った。
敵のリーダーの暗殺は一番最初にする事だからね。四天王倒してからとかまどろっこしい事はしてらんないからね。




