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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第9章〜脅威と平穏は直ぐ隣に〜
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9.永遠を君と

エースも、レイも遂には倒せた。努力が天才に勝ることを証明できたのだ。なら、あとは英雄になるだけ。これは邪神との戦いで嫌でも達成されることだ。なら、俺がまだしなくちゃいけないことは実質一つになるだろう。



「シルフェ。」

「……ジンさん。」



ファルクラム領のとある丘の上。そこに俺たちはいた。そろそろ日は沈む頃、俺がシルフェを呼び出したのだ。



「俺達が会ってから、大体六年ぐらい経つな。」

「ええ、そうですね。」



始まりはヴェルザード領だった。ダンジョンの前でシルフェに出会ったこと。俺はそれを今でも鮮烈に覚えている。



「本当に色んな奴と戦ってきた。」



そのどれもが決して弱い敵ではなかった。その時その時、確かに相手を倒して自分達が生き残るために常に全力だった。そして今、俺らは昔の自分達からは考えられないほどの領域に辿り着いてる。特にこの一年は濃い一年だった。



「そんで、最後には邪神だ。未だかつて神を殺した英雄は存在しない。俺達が、最初の神殺しになるわけだ。」

「おや、もう勝った気で?」

「そう思わなきゃやってらんねえんだよ。普通にやって、勝てる相手じゃないからな。」



身体能力も上、神力による万能的な力も使える上にその名を冠する破壊の力。神は神力という力で何らかの概念と接続している。だからこそ神力がなくなれば存在を維持できないし、概念からバックアップを受けれない。しかしその神力はほぼ無尽蔵。父さんみたいに一方的にボコボコにするぐらいの力がなければ神力がなくなる事はほぼない。これを無理ゲーと言わずになんと言う。



「……なあ、シルフェ。」

「なんですか?」



心臓がバクバクする。できれば今直ぐにでも帰りたい。だけど、これだけは言わなくちゃいけない。



「俺と、結婚してくれないか?」

「……え?」



その顔は困惑と驚愕に染まっていた。ああ、自分でも分かってる。随分とイカれた事を言っていると。



「ええ……病気ですか?」

「いや、違うね。至って正常だ。」

「付き合ってくれとかではなく、結婚?」

「そういうまどろっこしいのは性に合わないんだよ。」

「ああ、えーと……あなたが、もし邪神を倒したら色んな人に求婚されると思いますよ?私なんかより良い女性はいると思いますが……」

「いや、いないね。少なくとも俺の中では。」



シルフェは慌てながらも反論材料を出そうと悩んでいる。俺は黙ってそれを待つ。



「え、いや、だって、そんな感じは一切なかったじゃないですか!」

「恋心とは秘するものだ。」

「あなたは恋愛を語れるほど恋愛してないでしょうが!」



シルフェは若干頬を赤らめながら、言葉を練ろうとしているがそれがどうしても出てこないようだ。



「俺は、お前と死ぬまで一緒にいたいと思った。だから結婚したい。」



俺は単純だ。気遣いもできはしないし、曲がりくねって喋る事はできない。だからこそ、俺の言いたい事を言いたいように言うだけ。ただただ無骨に、愛を伝える。俺にできる告白はこれしかない。



「……答えを、聞かせてくれないか?」

「ッ!!」



シルフェは何度も悩むような仕草を見せ、最後にはしっかりと俺の目を見る。



「私は、弱いんです。だから貴方がいなければきっとこんなには強くなれなかったし、きっとここまで戦うこともできなかったでしょう。」

「……そうか。」



否定はしない。俺はシルフェではないから、シルフェの心を完璧に理解する事は永遠にできないだろうから。



「ジンさんは、私の人生を彩ってくれました。だからこそ、その努力を私は知っているからこそ、貴方には本当に幸せになって欲しい。少なくとも、私では貴方を幸せにできる自信がない。」

「……それは違う。」



というかそれが一番違うのだ。それが原因ならこの口論はもう既に意味を成さない。



「俺は、もう既にお前に救われている。」

「え?」

「お前がいなければ、こんなには強くなれなかった。お前がいなければ、俺は人生を楽しもうとは思えなかった。お前がいなければ、俺はもっと最悪な道を選んでいた。」



これは間違いない。きっと俺は歴代勤勉保持者と同じように、惨めな死を迎えていたはずだ。シルフェがいなければ、それは間違いなく起きていた。



「俺はもう、とっくに幸せなんだよ。だけど、これは我が儘かもしれないけど、俺は死ぬまで幸せでありたい。その為に、お前と結婚したい。お前を幸せにしてやりたい。それが、きっと俺の中で一番幸せな事なんだ。」



恋愛感情は理性から最も遠い。非効率で、無意味で、そしてくだらない。だからこそ、人はそこに溺れられる



「だから、俺はお前と結婚したいんだ、シルフェ。」



シルフェの顔は真っ赤に染まっていて、そして少し俯いている。そして俺の方を見ずに、言った。



「ほ、本当に、私で、いいなら、是非。」



そこから先は、よく覚えていない。取り敢えず嬉しかったことだけはよく覚えていた。

これにて短いですが、9章は閉幕。次は10章、つまりは最終章となります。次の章までには色々とストーリーの流れを作る関係上空きができます。誰もが納得できるラストを目指して頑張りますので少しの間お待ち下さい。

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