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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第9章〜脅威と平穏は直ぐ隣に〜
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6.文化祭二日目後編

父さんは、死ぬ時には笑っていた。どこかやり終えたような顔をして、満足げに。そして俺に邪神を倒すという事を託した。父さんは俺を信じてたはずだ。俺ならば絶対に邪神を倒せると。そして、その人生にやり残した事がないと確信した。だから最後に笑って死んだのだ。

だが、これも所詮推論に過ぎない。本当は最後、無理をして笑っていたのかもしれない。まだやり残した事があったのかもしれない。俺が本当に邪神を倒せるか心配だったのかもしれない。だけど俺が託されたという事実は変わらない。そして、託すという事は俺を信じているということ。



「守るものが、一つ増えたなあ。」



父さんが残した一人の子供。俺が兄であるというのなら弟を守ってやるのは当然の事だ。



「守るものが増えたって、元から何があったんですか。」

「お前らだよ。」

「む。私達はそこまで弱くないと思うのですが。」



不満気にシルフェはそう返す。可愛い。ああ、いや間違えた。



「それでも、だ。俺は誰も死んで欲しくない。俺も含めてな。だから俺もみんなを守る。だからシルフェ。お前も俺を守ってくれ。」

「……そうですか。なら守ってあげますよ。もしかしたら呆気なくやられてリタイアって事もなくはないですからね。」

「おいおい、縁起でもない事を言うんじゃねえよ。」



勝機はある。確実ではないが、そんなのは元からしょっちゅうだ。飽きるほど勝機があるだけの戦いを戦ってきた。そしてその全てを乗り越えて俺は今、ここに立っている。



「……そういやシルフェ。教会にやたら人が多いように見えるんだが。」



俺は教会を見る。教会は勿論宗教的な拠点でもあるのだが、病院的な意味合いが強い。だからこそ教会に人が多いってことは、その分何かがあったって事なんだが。



「……もしかしたら、ですが最近流行っている病のせいかもしれません。」

「病?まさか、こんな時に限ってか。」

「ええ。どちらかというと体が丈夫でない人がかかる病気らしく、私達は大丈夫そうですが誰でもかかるらしいです。」



この世界において闘気や魔力が多い奴ってのはその分だけ病気にかからない。そもそも闘気も魔力も生命を維持する為に必要な要素。そんじょそこらのウイルスじゃあやられはしない。



「感染経路は?」

「今のところ不明です。グレゼリオン王国の国内だけで流行っていることから、恐らくは空気感染ではないと思います。飛沫感染の可能性が高いというのが教会の見解です。」

「どんな症状が出るんだ?」

「感染した人は体の内臓器官がやられ、最悪の場合死に至る事もあるらしいですね。不幸中の幸いと言うべきか、初期症状の内だったら回復魔法か回復薬を飲んで浄化魔法をかければ回復します。一度目で抗体がつくのか、一度回復した患者が病にかかった例はないそうです。」

「そうか……」



それならいつか収束するかもしれない。しかし、どうもキナ臭い。邪神が関係している可能性も考慮に入れたほうが良さそうだ。

本当に関係ない可能性もあるが、この時期に起きる事件は全てが邪神の関係する事の可能性がある。まあエースならしっかりと対処をしてる筈だろうが、なんか嫌な予感がするんだよなあ。



「まあ、私達ではどうしようもない事を考えていては仕方ありません。その道にはその道のスペシャリストがいるのですから。」

「……まあ、そうだな。」



俺達に人体の深い知識はない。俺は前世の頃色々やってたから多少の知識はあるが、それも大した知識ではないからな。しかもこういうタイプの病であるなら薬ができるか、抗体ができるかを待つしかないわけだ。



「あ、花火があがりましたよ。」



唐突に花火特有の打ちあがる時の音が響く。事前にアナウンスしたりはしないんだな。心臓に悪そうだ。それぐらい王都にいるなら知ってて当たり前のイベントとも言えるのか。

そんな俺の思考はよそに、花火は大きく弾ける。大きさは最初だから少し小さめ。それでも綺麗な花火が空で弾けた。



「綺麗ですね……」

「ああ。」



花火とはつくづく不思議な文化だ。打ち上げて爆発させて、それを見て楽しむ。言葉だけ聞くと見た事がない人は理解できないんじゃないだろうか。だけど、それが万人を楽しませる娯楽となる。それは世界が平和な象徴でもあり、それ程までに余裕があるという事だ。

火というのは人を殺しうる。しかし逆に人の文明を育ててきたのもまた火だ。これ程までに『物は使いよう』という言葉を体現したものは他にあるだろうか。



「確か、最大で四尺玉まであるんだっけか?」

「いえ、違いますね。正確には五尺まであります。まあ五尺玉は今までで一回しか打ち上げられたことはないのですが。」



……確か、地球での最大サイズで四尺じゃなかったっけ。そう思いつつも次々と花火が打ちあがる。行き交う人は足を止め、家から、通り道から、高台から、城壁の上から。兎に角、色んな場所から色んな人がこの花火を見ている。



「……止まったな。もうこれで最後か?」

「いえ、確かまだ一発残ってますよ。クラウスターさんお手製の五尺玉が。」



え、マジ。今日打ち上げられんの、それ。俺の驚きを知ってか知らずか、丁度よく最後の一発が打ち上げられる。少しのタイムラグの後、その花火は大きく弾ける。



「……すっげ。」



俺は思わず口から声が出る。空一面を覆い尽くすような花火。それは派手で、綺麗で、心を奪われるようなものであった。一瞬が、永遠と感じられるようにその光景が脳裏にしっかりと焼き付けられる。



「また、来年も一緒に見ましょう。」

「……ああ、そうだな。」



俺達は花火が消えても尚、数分間ずっと夜空を見ていた。

五尺玉は地球で打ち上げられた事はありませんが、異世界ならあるかなあ、と思ってそれを世界最大にしておきました。

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