4.文化祭一日目
年は明け、あの神界へ呼び出された事を少しずつ忘れていっていた頃。一月の中旬にて、グレゼリオン学園文化祭が開かれた。
「はえ〜かなり人がいるんだな。」
「グレゼリオン学園の文化祭は沢山の人が毎年訪れますから。」
人混みの中、学園の屋上で俺とシルフェは学園を見下ろす。屋上に鍵はかかってたけど、普通にぶっ壊した。まあ学園長なら許してくれるだろう。
「どうしますか。適当に巡りますか?食べ物もありますし、お化け屋敷やらそういう店もあるみたいです。体育館とかは演劇をやったりもしてるみたいですね。」
「ま、そうだな。適当に楽しもうぜ。」
俺達はそう言って文化祭を巡り始めた。
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俺は手に食べ物をいくつか持って歩く。串焼きやら焼きそばやら。よく屋台で売っているようなものだ。こういう色んなイベントが集まる文化祭はこういうのがよくある。
「クオリティ、高くね?」
しかもこれが物凄くうまいのだ。多分そこら辺の店で食えるやつの何倍も美味しい。
「商学部は商人の息子だとか、貴族の伝手を活かして商売を始めようとする人が多いです。まあゼロから始める人もいますが、商業をやる上で顔の広さは必須なんでしょう。だからこそ美味しい物を薄利多売で儲けようとしているわけです。今回限りの店な上に、土地代もかからないので安い上に美味しいというのが実現できるわけですね。」
なるほどな。普通は店の土地代やらかかるし、薄利多売をやるのは有名店ぐらいなもんだが『グレゼリオン学園の文化祭』というビッグイベントに乗っかれば上手くいくもんだ。知名度がなくてもここではあまり関係ないしな。
「あ、イカ焼きがある。買ってくるわ。」
「……さっきから食べ物だけにお金使ってませんか?」
「うまいから仕方ないだろ。」
「まあ、そうですが。あ、串焼き私にも一本ください。」
「ほらよ。」
「ありがとうございます。」
俺はシルフェに串焼きを手渡す。さーて、次はどこに行こうか。
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体育館では演劇が行われていた。今回限りの特別書き下ろしとかで有名舞台作家が演劇の台本を書いたらしい。それだけはあってか、なかなか見応えがある内容だった。
「中々面白かったですね。」
「やっぱり演劇は見慣れてんのか?」
「ええ。貴族は舌も目も肥えてなければ騙されてしまいます。子供の頃から色んな物を食わされたり見させられたりしますよ。」
貴族の教育は厳しいんだろうね。作法やら貴族としての道徳や誇りやら。やっぱ権力がある分、それだけしっかりとした教育方法があるのだろう。まあ、やっぱりどこの世界にも馬鹿はいるわけで。ミゴみたいのもいるわけだが。
「まあ今回のは大衆受けするものでしたので無難な内容でしたが、やはり一流が書いてあるだけあってそこらのものより面白かったと思いますね。」
「普通に笑いあり、涙ありの物語だったしな。」
ストーリーは割と普通と英雄譚で、九代目勇者の話を舞台用に一部改変したり台詞を足したような感じだった。九代目勇者は魔王を倒すために旅立ち、その過程で拐われた王国の姫を救ったりと典型的な英雄譚だ。誰よりも勇者らしい勇者。それが九代目勇者の人生だ。
まあだからこそ、普通じゃない俺に力を貸してくれないからな。人を救いたいから勇者になった九代目と、英雄になりたいから勇者になった俺はほぼ対極に位置するわけだし。
「そういえば、パンフレットによるとクラウスターさんが店を開いてるみたいですよ。」
「鍛治王の店か……」
人も多そうだ。俺たちは割と色々回った後だからもう全部売れてそうだ。それぐらい稀代の天才と呼ばれるクラウスターの商品は欲しがる人は何人もいるからな。
「行ってみませんか?もう商品がなくても、久しぶりに会ってみたいですし。」
「ああ……そういや武闘祭からずっと会ってなかったな。」
あいつらずっと旅に出てたしな。会う機会がなかったのは確かだ。アクトも技術が洗練されてきてるだろうし、会ってみたい。真剣勝負は無理でも軽い立ち会いぐらいならあいつも応じてくれる気がする。
「行くか。」
「ええ、そうしましょう。」
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店は教室が使われていた。クラウスターは生産学部主席なので、教室を一つ丸々使っていた。しかしその全てがもうなく、完売したということが目に見えて分かる。客はもういない中、アクトとクラウスターがカウンターの椅子に横並びに座っていた。
「お、ジン。久しぶりだな。」
「こちらこそ久しぶり。」
アクトは少し疲れたようにしてカウンターに突っ伏していた。恐らく生まれて初めてやった接客に気疲れしたのだろう。
「やっぱりもう全部売れちまったのか。」
「ああ。非売品を除いて完売だ。」
「へえ、非売品なんてあるのか。」
まあ、多分あれだろうな。そもそもこいつらが旅に行ってた理由があれだし。
「二つ目の人器と三つ目の人器。二つ目はオレのだとして、三つ目は誰かに売りたいんだが……まあそこらの奴にやるのは惜しいしなあ。」
「強過ぎて扱いが難しいと?」
「まあ、そうだな。使い方によっては簡単に都市を潰せちまうからよ。」
もう兵器じゃねえかよそれ。しかも手で持ち運びできるタイプの。そりゃあ軽く渡すにはちょっと怖いわけだ。
「邪神との戦いが来たら騎士に貸し出すさ。それで一部は国に管理してもらおうと考えてる。」
「ま、それがいいよ。危険な武器は身を滅ぼしかねない。」
強過ぎる武器に溺れるのは駄目だ。ゆっくりと技術を身につけて、身の丈に合った武器を持つべきなのだから。
「そういえば、御二方は文化祭を回らないのですか?」
「いやあ、それもいいんだけどなんせ目立つからな。むしろジンは目立たねえのか?」
「俺は認識阻害の魔道具を持ってるから。俺が許可した人物以外からは俺の顔はただの通行人の顔として残る。」
「認識阻害か……じゃあ今から作って明日は回るよ。」
「ええ、俺疲れてんだけど。」
アクト、尻に敷かれてんなあ。大丈夫だろうか。俺は少しあいつの将来が心配だ。
「それでは、私達もまた別のところ行ってくるので。どうかそちらもお楽しみください。」
「ああ。後、明日の花火はオレも協力してるから見てくれよな。」
「ええ、もちろん。それでは行きましょうか、ジンさん。」
「はいよ。」
そして更にいくつか行った後、文化祭の一日目が終了した。
どうでもいいことなんですが、クラウスターの喋り方は少し変わっています。最初は割と片仮名が混ざっていてかたい感じの喋り方だったんですが、今ではもうほとんど女の子って感じの喋り方ですね。




