23.二つの極星は新たな夢へ
武闘祭は、終わりを迎えた。本来ならある筈の二年生と三年生の戦いはなかった。二年生の優勝者であるオメガと生徒会長が辞退したからである。そして、結果的に俺は学園最強となった。生徒会長が卒業したら、次は俺が生徒会長らしい。
「あーあ、終わったなあ。」
「おいおい、まだ邪神をぶっ倒してないよ?」
「……何勝手に部屋に入ってんだお前。」
俺が自室のベッドで寝転がっていたらレイがそう返した。……さっきまでいなかったはずなんだが。転移魔法の使い所間違えてるだろ。
「君が目的を果たしたからって、邪神はいなくならないよ。燃え尽き症候群になられたら困る。」
「それは流石に有り得ねえよ。まだやり足りないことはいくつかあるし。」
邪神を倒す為には気が抜けない。三月までに自分の力を万全に整えておかなければならない。しかしそれとは別に、今日ぐらいゆっくりさせて欲しいもんだ。
「それに、俺はまだお前を倒してない。」
「……僕に勝ったエースに勝ったんだから、実質僕に勝ったもんだろ?」
「おいおい、勝手に勝ち逃げしようとしてんじゃねえぞ。未だにお前との対戦歴は全敗のまま変わってねえんだ。」
能力の相性とかもある以上、実際に戦って勝たねば勝利とは言い難い。俺は上半身を起こす。
「三月までに機会を見てぶっ潰すから覚悟してろ。」
「いやあ、もう勝てないと思うけどなあ。」
「知らねえ。戦え。」
俺がスッキリしないんだ。もし確かにレイが勝てないと思っても戦わなきゃ気が済まない。
「ま、それもあながち楽しみだけど三月までに色々イベントがある。折角だから楽しんだら?」
「……あー、なんだ。……んー何かあったっけ。」
「本当に相変わらずだね。クリスマスもあるし、新年もこれからだよ。更には文化祭がまだある。」
「へえ……世界が滅ぶって時にそんな呑気でいいもんか。」
「滅ぶからこそ、って話だろう?」
まあ、そういう考えもあるか。最後かもしれないから全力で楽しむって。と言っても俺はあいつぶっ殺す気しかないがな。
「まあ現国王からしたら国民を安心させたいんだろうね。」
「まあ、分からんでもない。」
そもそもいきなり世界が滅びますなんて言われて、はいそうですかって納得できる奴の方が少ない。未だに信じていない国民もいるし、なんなら何かの国の陰謀だとギャーギャー騒ぐ奴もいる。だったらもうそう思い込ませて置かせたいって事だろう。どうせこの世界のどこにも逃げ場なんてないんだからな。
「よし、折角来たんだから勝負するぞ。久しぶりにゲームでだ。」
「この部屋、ゲーム盤はあるのかい?」
「お前が魔法で作れ。できるだろ。」
「はいはい。チェスでいいかい?」
「おうよ。」
そう言って俺達はチェスを指し始める。心は遥か昔。まだ勝敗なんて気にしなかった前世の幼少期のような気分で。
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王城の一室。王子の部屋。そこにエースとエルがいた。エースとエルは椅子に座り、対面で話している。
「負けた、ね。」
「ああ。この一生で二度目の敗北だ。」
一人は勿論ジン。もう一人は人類最強であるディザスト。逆に言えばこの二人以外に負けたことはないのだ。
「悔しい?」
「そんなわけがあるまい。元より我がこんなに強い必要はないのだ。この我より全ての国民が強い方が良い。王とは全てを知り、それを完璧に動かせる指導者であれば他に何もいらぬ。我には生憎と才が多過ぎた。寧ろ、やっとと言ったところだ。」
エースは昔からずっと求めていた。自分より強い騎士を。自分より役に立つ臣民を。
「それに、だ。あいつがああまで強くなったなら、ようやく色々なことに着手できる。三月までに決戦の準備を整えねばな。外部からの攻撃を防ぐ障壁も腐るほど必要だ。国家存亡の危機なのだから財を惜しむ必要はない。我が父も直に命を出すだろう。」
エースは立ち上がり、大きく欠伸をする。そして部屋の扉へと歩いていく。そして振り返ることなく言う。
「エル、ついてこい。世界を、この国を守る為に全力を尽くす時が来た。この国を全人類が逃げ込める世界最高の要塞にする必要がある。」
それは違いなき王の後ろ姿。民を守る為に全力を尽くし、それだけでなく世界中の人々を救うと言う。彼にはやはり、間違いなく王の器が元よりあったのだ。エルも何も言わずに笑みを深めてついていく。
世界が滅ぶまで後三ヶ月。時間はない。
ここで、八章は終わりです。次の九章は数日考えを練った後に投稿します。暫しお待ちを!




