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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第8章~八つの星はその地で最強を決する~
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19.天才vs凡人①

俺とエースは相対する。俺は既に剣を抜き、右手で持っている。今まで満席で客数が多いと思っていたが、思っていたがそうではなかったらしい。今までの最大人数。立ち見の数も有り得ないぐらい多く、どこもかしこも人の顔しか見えない。



『さて!遂に今回の大会のメインイベント!一年生の決勝戦です!』



あまり実感はないが、邪神が三月頃に来ると言われている。そしてそれを打倒するというのなら、一番最初に思い浮かぶのは勇者であるというのは当然の事だ。



『一人は勿論勇者!この大会で既に実力は示したと言えるでしょうが、それは武人として!勇者であるのなら、同世代の中で一番でなくてはならない!学生の大会ですら一番になれない人間に世界は任せられない!そう思う人も多いでしょう!』



しかし、俺が立つのは実力を証明する為ではない。俺の理想を、実現とする為にここにいるのだ。俺の永遠と続く夢の一つを。



『英雄であればその実力を示せ!私達の勇者は今!ここにいるはずなのだから!』



俺がここで勝たねば、誰が努力しようと思うのか。誰かが証明しなければならない。天才に凡人が勝てると証明せねばならない。それが俺が勇者として作れる希望。



『十代目勇者!ジン・アルカッセル!』



そんな俺の覚悟を知らずか、或いは知った上でそうしているか。堂々と、それでいて見下すようにして俺を見ている。



『対するは最強!グレゼリオン王国の皇太子!生まれながらにして全てを手に入れた男!グレゼリオン王国次期国王として裁定を下すに相応しき人物!この方を倒さずして最強は名乗れない!』



感覚を鋭利に、相手の全ての可能性を捉える。相手はエースだ。何をしてもおかしくない。



『黄金王子!エース・フォン・グレゼリオン!』



無限加速アルガ・アクセラレート起動。聖剣解放。解放事項は準決勝と変わらず。しかし、十分だ。足りない部分は全て気合いと闘志で補完する。



『決勝戦!開始!』



俺の聖剣はゆらりと光る。英雄の剣。それは因果や、未来の干渉を打ち消す。レイシリアはこれで効かない。



「始めようか。」



エースはその背後に無数の武具を展開する。俺もそれが展開されるとほぼ同時に駆け出す。



「『天幻』」



同時に迫り来る刃。その全てを同時に打ち落とす。しかし決して止まらない。一つの場所に止まれば、その分だけ多くの武具により攻撃されるということに他ならない。間違いなく俺はエースへと接近する。



「フハハハハハハ!良いぞ!よくもそこまでの領域に剣術を昇華させた!今までこの我の無想剣の攻撃を防いだ奴は幾人もおったが、剣一本で完全に防ぎ切る奴など初めて見たわ!」



間違いなく成長している。間違いなく戦えている。あの時は、俺は無想剣を使われただけで負けた。しかし今は違う。



「なら!あの時の再現といこうか!」



その手に形取られるは光の剣。あの時、俺を絶望させた剣。だが、今は違う。



「『ブリテン王の聖剣(エクスカリバー)』」

「『竜絶』」



放つのは複合の型。光の奔流と、全てを斬り裂く刃が形を持って衝突する。そしてそれは間違いなく、相殺させた。間違いなくこの手で防いだのだ。



「なら次だ!」



あの時になぞらえるようにしてエースは手に雷を纏う。それは間違いなく武器の形をした雷そのもの。



「『天空神の雷霆(ケラウノス)』」



雷が襲う。しかしもう、それは怖くない。俺を敗北へと導いた雷霆ですら、もはやただの武具の一つにしか見えない。



「『絶剣』」



その攻撃の概念そのものを切断した。雷は魔力となり散り失せる。そして、あの時と同じように俺はエースの前で剣を握った。



「言ったはずだぞ。次に戦う時は、全霊をもって相手をしてやると。」



エースの姿が消える。間違いない、時間停止。考えるより先に刃を動かす。俺の冴え渡る感覚は即座にエースの場所を割り出す。



「はあっ!」



エースの手に持つ剣で体を少し斬られている最中でそれを弾く。すると再びエースは消え、俺から離れた場所に出現する。



「手加減はせぬ。出し惜しみもせぬ。貴様を我が全力を用いて、叩き潰してやろう。」



ここから先は、一度も間違えてはいけない。たった一度の失敗が敗北に繋がる。一瞬でも反応が遅れれば俺は負ける。



「『全能たる王(キング・デウス)』」



ただ不思議と失敗する気はしない。それは、言いようのない充実感でもあった。



「始めようか!我と貴様!それぞれが一つの究極形!完全たる我に勝利してみせよ!ジン!」



俺の目の前に突如刃が現れる。それを即座に天幻で斬り落とす。そしてその次の瞬間には俺の四方八方から光の砲撃が飛来する。その全てがエクスカリバー。



「『天竜』」



その全てへと飛来する刃を放ち相殺する。そして駆ける。



「ガッ!!!」



俺のしかしそれに紛れて飛来する刃を避ける事ができず、俺の左腕に剣が刺さる。しかし止まらない。そのまま飛来する刃を全て弾き飛ばす。俺が認識してから刺さるまでのほんの僅かな一瞬。その一瞬で全てを叩き落とす。



「速くッ!!!」



その瞬時に迫り来る全ての攻撃を弾き、壊し、そして前に進む。そして俺の体は少しずつ、そのスピードを増していく。



「速くッ!!!!!」



無限加速アルガ・アクセラレート。それはいずれ光の速さをも超えうる力。何もかもを置き去りにする程のスピードを生み出せる力。



「『太陽の代行者(ガラディーン)』」



俺への急接近。目の前で回避不可の斬撃が俺へと放たれる。その剣は炎を纏い、ありとあらゆる攻撃の中でも受けてはヤバイ攻撃だと直感した。



「『豪絶』」



俺はその刃を弾く。剣を持つ右手から血が吹き出るが、まだ動く。まだ戦える。エースは時間停止で再び距離を取る。そして俺の右足に槍が突き刺さる。痛い。苦しい。辞めたい。だけど、まだ俺は立ててしまうのだ。なら、まだ勝機はある。立っている限り、俺はまだ戦える。



「『狂気之英雄リアド』」



五代目勇者にして、大量殺人者であるという二面性を持っていた男。その力は傷を負うごとに増した。



「まだだッ!」



俺はまだ速く駆けれる。まだ、追いつく。エースが時を止めてから次に時を止めるまでの一瞬。



「はあああああ!!!!!」



必ず生まれる一瞬の隙。それが俺の唯一の突破口。



「『太陽の代行者(ガラディーン)』」



突如目の前に出現した俺へと太陽の刃が振るわれる。その攻撃を俺は真正面から受ける。



「『その物語を続きから(コンティニュー)』」



敢えて、一度死んだ。俺は刃をすり抜け、そしてその剣を構える。



「しまっ!」

「『絶剣』」



俺の刃は確かにエースを斬り裂いた。エースは瞬時に時間を止め、俺から距離を取る。しかし腹に残る一文字の傷は癒えることはない。



「ここからが、前回の続きだ。」



俺はそう言って再び地面を駆けた。

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