19.天才vs凡人①
俺とエースは相対する。俺は既に剣を抜き、右手で持っている。今まで満席で客数が多いと思っていたが、思っていたがそうではなかったらしい。今までの最大人数。立ち見の数も有り得ないぐらい多く、どこもかしこも人の顔しか見えない。
『さて!遂に今回の大会のメインイベント!一年生の決勝戦です!』
あまり実感はないが、邪神が三月頃に来ると言われている。そしてそれを打倒するというのなら、一番最初に思い浮かぶのは勇者であるというのは当然の事だ。
『一人は勿論勇者!この大会で既に実力は示したと言えるでしょうが、それは武人として!勇者であるのなら、同世代の中で一番でなくてはならない!学生の大会ですら一番になれない人間に世界は任せられない!そう思う人も多いでしょう!』
しかし、俺が立つのは実力を証明する為ではない。俺の理想を、実現とする為にここにいるのだ。俺の永遠と続く夢の一つを。
『英雄であればその実力を示せ!私達の勇者は今!ここにいるはずなのだから!』
俺がここで勝たねば、誰が努力しようと思うのか。誰かが証明しなければならない。天才に凡人が勝てると証明せねばならない。それが俺が勇者として作れる希望。
『十代目勇者!ジン・アルカッセル!』
そんな俺の覚悟を知らずか、或いは知った上でそうしているか。堂々と、それでいて見下すようにして俺を見ている。
『対するは最強!グレゼリオン王国の皇太子!生まれながらにして全てを手に入れた男!グレゼリオン王国次期国王として裁定を下すに相応しき人物!この方を倒さずして最強は名乗れない!』
感覚を鋭利に、相手の全ての可能性を捉える。相手はエースだ。何をしてもおかしくない。
『黄金王子!エース・フォン・グレゼリオン!』
無限加速起動。聖剣解放。解放事項は準決勝と変わらず。しかし、十分だ。足りない部分は全て気合いと闘志で補完する。
『決勝戦!開始!』
俺の聖剣はゆらりと光る。英雄の剣。それは因果や、未来の干渉を打ち消す。レイシリアはこれで効かない。
「始めようか。」
エースはその背後に無数の武具を展開する。俺もそれが展開されるとほぼ同時に駆け出す。
「『天幻』」
同時に迫り来る刃。その全てを同時に打ち落とす。しかし決して止まらない。一つの場所に止まれば、その分だけ多くの武具により攻撃されるということに他ならない。間違いなく俺はエースへと接近する。
「フハハハハハハ!良いぞ!よくもそこまでの領域に剣術を昇華させた!今までこの我の無想剣の攻撃を防いだ奴は幾人もおったが、剣一本で完全に防ぎ切る奴など初めて見たわ!」
間違いなく成長している。間違いなく戦えている。あの時は、俺は無想剣を使われただけで負けた。しかし今は違う。
「なら!あの時の再現といこうか!」
その手に形取られるは光の剣。あの時、俺を絶望させた剣。だが、今は違う。
「『ブリテン王の聖剣』」
「『竜絶』」
放つのは複合の型。光の奔流と、全てを斬り裂く刃が形を持って衝突する。そしてそれは間違いなく、相殺させた。間違いなくこの手で防いだのだ。
「なら次だ!」
あの時になぞらえるようにしてエースは手に雷を纏う。それは間違いなく武器の形をした雷そのもの。
「『天空神の雷霆』」
雷が襲う。しかしもう、それは怖くない。俺を敗北へと導いた雷霆ですら、もはやただの武具の一つにしか見えない。
「『絶剣』」
その攻撃の概念そのものを切断した。雷は魔力となり散り失せる。そして、あの時と同じように俺はエースの前で剣を握った。
「言ったはずだぞ。次に戦う時は、全霊をもって相手をしてやると。」
エースの姿が消える。間違いない、時間停止。考えるより先に刃を動かす。俺の冴え渡る感覚は即座にエースの場所を割り出す。
「はあっ!」
エースの手に持つ剣で体を少し斬られている最中でそれを弾く。すると再びエースは消え、俺から離れた場所に出現する。
「手加減はせぬ。出し惜しみもせぬ。貴様を我が全力を用いて、叩き潰してやろう。」
ここから先は、一度も間違えてはいけない。たった一度の失敗が敗北に繋がる。一瞬でも反応が遅れれば俺は負ける。
「『全能たる王』」
ただ不思議と失敗する気はしない。それは、言いようのない充実感でもあった。
「始めようか!我と貴様!それぞれが一つの究極形!完全たる我に勝利してみせよ!ジン!」
俺の目の前に突如刃が現れる。それを即座に天幻で斬り落とす。そしてその次の瞬間には俺の四方八方から光の砲撃が飛来する。その全てがエクスカリバー。
「『天竜』」
その全てへと飛来する刃を放ち相殺する。そして駆ける。
「ガッ!!!」
俺のしかしそれに紛れて飛来する刃を避ける事ができず、俺の左腕に剣が刺さる。しかし止まらない。そのまま飛来する刃を全て弾き飛ばす。俺が認識してから刺さるまでのほんの僅かな一瞬。その一瞬で全てを叩き落とす。
「速くッ!!!」
その瞬時に迫り来る全ての攻撃を弾き、壊し、そして前に進む。そして俺の体は少しずつ、そのスピードを増していく。
「速くッ!!!!!」
無限加速。それはいずれ光の速さをも超えうる力。何もかもを置き去りにする程のスピードを生み出せる力。
「『太陽の代行者』」
俺への急接近。目の前で回避不可の斬撃が俺へと放たれる。その剣は炎を纏い、ありとあらゆる攻撃の中でも受けてはヤバイ攻撃だと直感した。
「『豪絶』」
俺はその刃を弾く。剣を持つ右手から血が吹き出るが、まだ動く。まだ戦える。エースは時間停止で再び距離を取る。そして俺の右足に槍が突き刺さる。痛い。苦しい。辞めたい。だけど、まだ俺は立ててしまうのだ。なら、まだ勝機はある。立っている限り、俺はまだ戦える。
「『狂気之英雄』」
五代目勇者にして、大量殺人者であるという二面性を持っていた男。その力は傷を負うごとに増した。
「まだだッ!」
俺はまだ速く駆けれる。まだ、追いつく。エースが時を止めてから次に時を止めるまでの一瞬。
「はあああああ!!!!!」
必ず生まれる一瞬の隙。それが俺の唯一の突破口。
「『太陽の代行者』」
突如目の前に出現した俺へと太陽の刃が振るわれる。その攻撃を俺は真正面から受ける。
「『その物語を続きから』」
敢えて、一度死んだ。俺は刃をすり抜け、そしてその剣を構える。
「しまっ!」
「『絶剣』」
俺の刃は確かにエースを斬り裂いた。エースは瞬時に時間を止め、俺から距離を取る。しかし腹に残る一文字の傷は癒えることはない。
「ここからが、前回の続きだ。」
俺はそう言って再び地面を駆けた。




