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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第8章~八つの星はその地で最強を決する~
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16.魔王vs勇者①

俺は選手用の観客席で試合を見ていた。レイが倒れるのを見て、俺は立ち上がって会場へ向かう。



「時間停止、か。」



シンプル。それ故に強い。時間停止系の能力を持つ奴の漫画を読んだことがあるが、大体は自分も動けるようになるというのが攻略法に多い。だが、多分俺は無理だ。英雄の剣はそういう風には機能しないだろうし。

ならば次策として弱点を突くというのがあるが……キツいな。攻撃の瞬間だけ時が動く。それにエースの速度を加えればほぼ時を止めた状態で斬られているのと同じ。そもそも打ち合いというものは予備動作と間合いがあるから機能するのだ。攻撃の瞬間だけ現れる刃を避けるのはほぼ不可能に近い。



「なくはない。が、それならやっぱりこの試合は温存せざるをえないな……」



一応策は一つある。しかし一度ここでエースに見せてしまえば勝機が薄くなる。しかし、これを使わないでシンヤに勝てるかどうか。手を抜いて勝てる相手でもないし。



「……よし、勝つか。」



俺は決意を決めて、会場へ歩く。そこで担架で運ばれるレイとすれ違う。


なんとなく、なんとなくだ。この時やっと、俺はあいつの隣に立てた気がする。背中しか見ることができなかった前世とは違って。俺はやっと、天才と並べている。そう思った。そしてこの大会で優勝することでそれを証明できる。



『選手が入場しました!』



俺は歩く。ゆらりと冷静に、それでいて熱は絶やさず。



『十代目勇者に相応しき男か!それをこの手で証明できるのか!熾烈な戦いを抜け、今ここに準決勝にこの男がやって来た!その剣術は世界最強!ある人は呼ぶ!剣の勇者!それこそがこの男だと!準決勝第一試合のような、人智を超えたものではない!シンプル!故に最強!それを証明できるのか!ジン・アルカッセル!』



俺は反対側の入り口を見る。それはこの世界にいる数少なき同郷。あの時と違い、確かな決意がその目にはあった。



『そして!勇者の相手にこれ以上に相応しい相手がいるか!オルゼイ帝国最強の矛!そして最も勇者に近いとも呼ばれた男!魔王!シンヤ・カンザキ!』



やはり、一筋縄ではいかなそうだ。一回戦で見せた夢想技能オリジナル。アレの能力も少しは分かっているが、確証はない。しかし、それでも俺は勝利を掴み取る。



『準決勝第二試合開始!』



戦いの火蓋が切られた。俺は腰に刺す鞘から刀を抜く。鞘は俺の中に吸い込まれていって消える。抜刀術が何故か物語だと強く扱われたりすることもあるが、実戦において抜刀術が役に立つ場面などないのだ。というか下から振り上げるより上から振り下ろす方が強いに決まっている。



「『英雄剣術グラングレイル真の可能性(トゥルー・ヴィジョン)『英雄の剣』」



俺は真っ先にこれを使う。使わなくて負けて後悔するなんて死んでも嫌だからな。使えるもんは全部使うモンだ。



「聖剣解放」



そして札の内の一つを切る。



「『極光之英雄ヴァザグレイ』」

『それが悪しき行いでない事』

「『守護之英雄ウィリス』」

『何かを守るための戦いである事』

「『狂気之英雄リアド』」

『相手が自分に比べ弱者でない事』

「『決闘之英雄オルギラス』」

『一対一である事』

「『希望之英雄ヴァッラーナ』」

『希望を持ち続けている事』



俺が使える勇者の力は八つの内七つ。そして今回の戦いで条件を満たしたのは五つ。上出来だ。



「さて、俺は札を揃えたぞ。お前も夢想技能オリジナルを使えよ。」



無限加速アルガ・アクセラレートを起動させる。俺は必ず決勝に行く。そして優勝する。これは前提条件。勝つのが当然の試合。だからこそ、全力で勝ちをもぎ取る。



「いや、それにはまだ早いね。アレは切り札だ。ポンポン使うわけにはいかない。」

「そうかい。お前がいいなら、それでいいが……」



だが、それは悪手だろう。



「死んでもしらんぞ。」

「え?」



その一瞬、たった一度だけ地面を蹴っただけ。その瞬間に俺はシンヤの眼前に立っていた。そして真っ直ぐ斬り裂く。上段からの振り下ろし。狙うのは勿論脳天。頭はまるで豆腐を切るように簡単に斬られた。



「『全てを奪いし覇王(グランド・マスター)』」



しかしシンヤも一筋縄ではいかない。死ぬより早く夢想技能オリジナルを使う。



「『因果逆転(ミラー・オーダー)』」



体に不死鳥の炎を纏わせながら大きく距離を取る。体の繋がりごと斬られた傷は、因果に干渉したりしなければ治らない。だからこそ因果逆転をする必要があったのだ。



「本当に、一瞬遅れれば死んでたじゃないか……」

「だから忠告したんだ。」



シンヤは冷や汗をかきながら後ろ傷を完全に癒す。



「そして、さっきの問答である程度能力も推測できた。恐らくは他人の伝説技能レジェンドスキル夢想技能オリジナルを何かしらの制限で扱える。そういう類だ。」

「……さあね。」



シンヤはそう言ったが恐らくは間違いない。油断せずに俺をずっと睨んでいる。そしてこちらもさっきのように安易には飛び込めない。体が変化してきている。一回戦でも見た究極生命体デーモン・キングだろう。身体能力は勿論、動体視力も上がっている筈だ。



「さっきの、どういう原理なんだ。いくらなんでもあんなスピードで普通は動ける筈がない。」

「お前が教えるつもりがないんだったら、こっちも教えるつもりはねえよ。」



まあタネは簡単だがな。絶剣で距離を一瞬だけ切断した。そして距離とかは強制力が働いて直ぐ戻るんだが、その一瞬でシンヤに接近しただけ。まあ一回使うと次からは警戒されて効かないからこそ一回限りの小技だ。



「なら、仕方ないな。もう夢想技能オリジナルを使ってしまったんだ。手の内も晒したくない。短期決戦といこうか!」



そう言ってシンヤは翼を生やし、俺に空を飛んで接近する。シンヤの右腕は鋭利な刃物のようになり、俺に斬りかかる。それを俺は聖剣いなす。そして首へと狙いを定めて聖剣を振るうが、振るうより先に俺の腕が掴まれる。それは第三の腕。本来ない筈の腕が左肘から生えていた。



「『天幻』」



しかし俺の腕は止められても、攻撃は止まらない。戦源により分裂した刃がシンヤの第三の腕を斬る。そして踏み込みを加えながら絶剣を使い、左肩を斬ろうとした瞬間。



「『幻撃ファンタジック・インパクト』」



拳は振るわれてすらいない。しかし俺の体全体に打撃が響き渡る。身体中を同時に殴られたような感覚。それが俺を襲い、吹き飛んだ。



「一発は喰らったが次はそうはいかない。魔王の名は伊達じゃないことを証明してやる。」



やはり、一筋縄ではいかないな。

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