15.天才vs天才③
二人が睨み合う。レイは誘導している。相手が奥の手を使わざるを得ない状況へと。そしてエースはそれに気付いている。
「ク、ククク。フハハ、ハーハッハッハッハッ!」
「……何が、面白いんだい?」
「いや、なに。きっと貴様とは気が合うのだろうな。もっと昔に会っていたなら、貴様とは親友の仲になれていたろうに。」
それは事実そうなのだろう。二人とも天才だ。おおよそ、挫折というものを知らずに生きてきた。生まれた瞬間に、他者を圧倒的にぶっちぎって頂点に君臨した二人だ。きっと気が合うことだろう。
日本という穏やかな国で育ったレイと、グレゼリオンという戦いの国で育ったエース。方向性は多少違えど、その大筋は一緒なのだから。
「それと同時に、こうして対面に立てばこれほど不快なものもない。同族嫌悪という奴だろうな。似通っているが故に、気に入らぬ。」
「そりゃ、お互い様だね。」
エースは気付いている。自分が誘導されていることに。だが、それがどうした。エースは一切の迷いなくそう断じた。
「だからこそ、見せてやろう。奥の手という奴をな。」
策というものは弱者が練るもの。強者はただ、ありのままに力を振るうだけで良い。何故なら、それが一番強いから。
「見れるなら、という話にはなるがな。」
そう言ってエースは聖剣をレイに向けた。
「なっ!」
レイは直ぐに足元に刺さっていたはずの聖剣を確認する。自分に気付かれず、聖剣を奪い取るなどできないはず。しかし聖剣はそこにはなかった。この領域内で起こることは全て瞬時に解析され、レイの頭に送られるはずだというのに。
「何をした?」
「貴様は見ているはずだ。確かにな。」
そう言って今度はレイの体に傷が入る。それは一瞬で複数に増える。それは間違いなくあの片手剣で斬ったような傷。
「そら、防いでみよ。」
一瞬、レイが瞬きをした瞬間。目の前に無数の剣が広がる。
(制御、削除、いや、間に合わない!)
レイの体に剣が突き刺さる。それは無想剣によって生み出された剣。しかしおかしい。本来なら生成から射出にはラグがある。何かしらの力を使っている。それは間違いない。
「どうだ。分かったか?」
「ぁぐッ!」
レイは既にある程度の予想が付いている。しかし、首に突き刺さる剣がレイの声を出させない。
「ふむ。」
しかしここはレイの領域だ。レイの思うことは実現される。レイは剣を削除し、即座に転移でエースと距離を取る。エースはそれをただ見ているだけ。追撃ができるはずなのにしない。明らかに手を抜いている。
「なる、ほどね。」
そして傷を癒しながら喋り始める。エースは傲慢だ。自分の能力が暴かれるのを止めるつもりは一切ない。何故なら、分かったところで自分を倒せないと心の底から思っているから。
「君が、僕の体を斬った時。一瞬、僕の体を斬る時だけ目の前に君はいた。僕は目視できてないけど、その領域が記録として残している。」
そう。傷がいきなりできていたのではない。傷は間違いなくエースにより斬られてできていた。しかし、斬られる瞬間以外はエースは間違いなくそこに存在しなかった。
「だからこそ、予測はつく。過程を消しとばす能力……いやそれだとしっくりこない。それだったら僕を斬り付ける一瞬だけ出現するのに説明がつかない。」
そして数々の可能性の中から、確実に選び取る。断言こそできないが、一番高い可能性。それをレイは思いついた。
「しかし時間を止めているというのなら、全て説明がつく。」
その言葉にエースは笑みを深める。それが、答えであった。
「そして、その能力の制限は物体への干渉。時間を止めている間はこの世のものに影響を与えることはできない。恐らくだが、その瞬間だけ君は理から外れているからだ。」
「……フハハハハハハ!!!やはり!良いぞ!この少ないヒントで我が能力を言い当てるとは!やはり貴様と我は似ている!互いに人としての完璧に至っている!」
エースは笑みを深める。そしてレイは反射的に防御の選択肢を取る。時を止める能力で正しいのなら、結界は最も有用な対応策だ。
「コード起動『純真星』」
「中々に良い!」
しかしその結界にいくつもの武具が一瞬で刺さり、砕けちる。時を止めて攻撃を溜める。それは無想剣『ヌル』との相性がとてつもなくいい。
「この我をここまで滾らせたのは貴様で四人目だ!」
回避は意味を成さない。時を止められたら即座に追いつかれるから。だからこそ、その場で留まるのが最も効率がいい。
「コード起動『神星』。多重展開及び、エネルギー増加。100、150、200、300、400……」
レイの周りに光の球がいくつも生まれる。そしてそれらは大きさを増していく。この領域内だからこそ可能な、多重展開と能力上昇。それはただでさえ強力な全天魔法を更なる領域へ押し上げる。
「使わせると思うか、この我が。」
エースは時を停止させ、レイの目の前に一瞬で現れる。強制転移も可能だが、それをやるにはもう刃が近過ぎる。
「終わりだ。」
そしてレイの首はあっさりと斬られた。体は崩れ落ち、首は下にぼとりと落ちる。しかし未だに完全な領域は消失しない。それは暗に、未だにレイに戦闘続行の意思があることに他ならない。
「こっちの台詞だよ、それはね。『神星』エネルギー1000パーセント。単純威力十倍。更に多重展開による同時攻撃で、君に逃げ場を与えるつもりはない。」
倒れたのはレイの形をした偽物。レイがしようとしているのは全範囲攻撃。いくら時を止められても、この会場内全てに攻撃を加えれば確実に当たる。欠点は自分もただでは済まないということ。
「『超神星』」
発動すれば確実に自分ごとエースを倒せる。その自信を持っての一撃。
しかし、それが発動されることはなかった。
「不発……いやありえない……まさかッ!」
「既に因果は決定した。この我の剣が、貴様の夢想を斬るという因果に。」
レイの因果決定はオリジナルによるもの。つまりはその全てがオリジナルが壊れた瞬間に作用しなくなる。そして、オリジナルによって作られた魔法は実現しない。
「随分と強かった。この我も少し肝を冷やしたぞ。しかし、貴様の負けだ。」
そして、レイは一瞬にて斬られる。そして因果は決定された。レイが気絶するという因果に。
『決着!』
エースの黄金の鎧は消え、未だに傲慢に彼は立っていた。
エース決勝戦進出




