14.天才vs天才②
「僕は、賢者である」
エースの放つ全ての攻撃はレイの結界に阻まれる。だからこそ、先程と同じようにしてエースは武具を生成する。光がエースの手元に集まる。
「全てに勝ち、全てにおいて頂点だった」
それは武器の形をした雷。一度目の武闘祭でジンを敗北に導いた武器。杖のようにも鎌のようにも見える。
「故に夢を持たない」
『天空神の雷霆』がレイを襲う。光が会場内を覆い尽くす。しかし、未だにレイは健在。エースは二度、三度と次々と攻撃を放つ。ギリシャ神話の最強武器の名は伊達ではない。それは間違いなく一撃毎にエースの結界を蝕む。
「手には全てがあり、その道は栄光に満ちていて、常に人と共にあった」
しかしレイは言葉を発し続ける。それは間違いなく、勝利への道筋を色濃くしていく。
「そんな僕に夢があるなら」
世界が書き換えられる。この会場内のみ、レイによって書き換えられる。それは理さえも。
「その夢はきっと――
――ありえない世界の夢だった」
その魔力が、世界そのものがレイによって掌握される。傲慢之罪の支配の干渉ができないほどに、それらはレイによって掌握された。
「ようこそ。『完全な領域』へ。」
その一言と同時に結界は砕け、塵となる。そしてもう一度エースが攻撃を加えるより早く、レイがそれを掌握する。
「削除。」
エースの手元から武器が消失する。それは光の粒となって。
「無想剣によって生み出された武具達は全て光の粒子から構築されている。ちゃんと形のある武具と違って、破壊は容易だ。」
「……なるほど。この会場内にある全てのものを掌握し、支配する。それが貴様の夢想技能。」
「その通り。」
「なら上限を確かめようか。どこまで対処できる。」
レイに向けて武具が生成される。それは全て伝説の武具達。英雄と共に名を残した逸品。それが数百の規模で生成されていく。
「支配。上限なんてないさ。」
その全てがレイにより掌握され、エースに切っ先を変える。そして放たれる。
「なるほど!厄介極まりないな!」
一度自分の手から離れた武具をエースは制御できない。自分が使える力で一番有用なのはたった一つ。
「出でよ。聖剣『原初たる人王の剣』」
因果を決定させる。それは武具が自分に当たらないという因果へ変更させられ、その全てがエースから外れる。
「この領域にいるからこそ、分かる。因果決定。確かに強い力だ。だがジンの絶剣が万能ではないように、その聖剣も万能じゃない。大き過ぎる因果は決定できないし、遠い因果であるほどその分発動までに時間が必要だ。」
悪魔王バアルとの戦いの時。最初からレイシリアを使えなかった理由はこれだ。戦いが始まった時から相手の力を消耗させ、因果を辿りやすくした上で更に長時間の待機が必要だった。だからこそバアルが最後の一撃を放つまでに発動することができなかったのだ。
「そして何よりこの領域に限定するなら、僕は神に等しい。」
光の鎖が魔法によって生み出され、伸びる。勿論エースも当たらないという因果を作る。そしてそれは間違いなく達成された。
「因果を使えるのが君だけだと思わないことだ。」
しかしエースは鎖によって腕、足、胴体と次々と拘束される。因果を決定した後に、更に因果を決定し返した。この領域限定で、レイは因果へも干渉が可能。
「『全能たる王』」
しかしエースも一筋縄ではいかない。夢想技能を使い、鎖を力で引き千切る。
「我が聖剣に弱点があるように、貴様の力にも当然弱点がある。それは誰かが保有しているものには干渉ができないということだ。違うか?」
「……なるほど。ジンはこういう気持ちだったのか。確かに面倒くさいな。手の内を少し見せただけなのに、簡単に全貌が暴かれる。」
レイは少し困ったようにして首を振る。
「さあ、見せてみよ。貴様の全力をな。」
「そうさせてもらうよ。」
その言葉と同時に魔法が展開される。その全てが越位魔法クラスの威力がある光の球。それが一瞬にして放たれる。
「……この程度か?」
しかしその全ての攻撃を受けても尚、エースは平然と立つ。並大抵の攻撃ならダメージを受けず、更に一瞬で怪我は全て治る。不死身とさえ思えてしまう力。しかしレイは落ち着いている。
「いいんだよ。本命はそれじゃない。」
その言葉と同時にエースの右腕が切断される。エースに気付かれないように完全に偽装した風の刃。しかしこれだけなら意味はない。即座に再生されるだけ。重要なのはその右手に持っているもの。
「よっと。」
「……貴様。誰の許しを得て我が聖剣に触れている。」
即ち、聖剣である。必要なのは一手一手、確実に相手の力を削ぐこと。
「この剣と君は一体化している。しかし僕が持ってしまえば、戻さないようにぐらいは簡単にできる。それにしても……これ王族しか使えないのか。なら僕には無用の長物というものだ。」
そう言ってレイはその片手剣を地面に突き刺す。エースは青筋を立て、静かに確かに怒っている。
「おや?どうしたんだい。そんなに欲しいならここにくればいいじゃないか。ほら、来なよ。」
「フ、フハハ。その安い挑発、乗ってやろう。」
そう言ってエースは走る。それは常人であれば認知もできず、超人であっても動いたという事実しか認識できないほどの速さ。しかしレイは一切焦ることなく、空間を支配して力を行使する。
「創造。魔力で強化した近代兵器だ。君とてただじゃ済むまい。」
レイの横にいくつもの砲台や、宙に浮く銃が作られる。ただの現代兵器ではエースにはダメージを与えることはできないだろう。だが、魔力で補強してしまえば。しかも使い手がレイほどの魔力を持つなら。しっかりとした武器となる。
「吹き飛べ。」
その一言を合図に数多もの鉄の塊がエースへと放たれる。それはエースの体を確実に吹き飛ばした。しかしエースも止まらない。土煙の中飛び出し、レイへと迫る。
「おっと危ない。」
しかしエースがその地点に辿り着いた瞬間に、エースの視界が切り替わる。転移をさせられたのだと、その優秀な頭は一瞬で弾き出した。
「さて、どうする。その無想剣は力を振るえず、聖剣は僕の手元にある。黄竜の力も僕には意味がないし、オリジナルも大した有効打にならないときた。傲慢の力も僕の領域では使えないんだから、普通ならここで君の負けは確定するけど。」
レイは油断をせずに怒りにその表情を染めるエースを見る。
「さあ、奥の手を使いなよ。それすらも完封して、僕が勝つ。」
自信たっぷりとそう言った。




