1.新たな生を
序章は15歳までの成長期間を要所だけ話に回してゆく、と言った感じなので結構話が飛びます。まあ気にせず気楽に読んでください。
不思議な感覚だ。まるで水に包まれているような、それでいてあまりにも朧げな。頭の中のカチッという感覚と共に映像が流れ始める。見ているというより頭から溢れ出るように。
山の中、一人の男に拾われたのが最初。そこからの育てられていく日々が脳内で流れていく。不思議と違和感なく、俺は直感した。これは俺の記憶だ。他の誰でもない。この俺の記憶だ。知らない言語、知らない人、知らない常識。しかしその全ては俺の記憶なのだ。
そして全ての映像が流れ終え、世界が光り輝き始めた。そうして俺はこの世界で目覚めた。
「お、オロロロロロロロロロロロロロロ!!!!!」
そして秒速で口から出てきた。頭がぐちゃぐちゃしてる。余りにも違和感が激しい。頭痛も酷い。
「……」
俺の体内にあったものを見下ろす。俺は確か、自分の家の部屋にいたはず。ああいや違うな。死んだんだ。ならこの記憶は2回目の生か?天国や地獄の類ではないのだろうか。しかしそうではないとなんとなく感じる。
「おいジン!なんだこの悪臭は!」
そう言いながら入ってきたのは、俺を拾い育ててきた義理の父。グラド・ヴィオーガー。
「なに朝っぱらから吐いてんだよ。お前は二日酔いか?」
記憶が落ち着かない。俺は男だ。俺の名前はジン・アルカッセルだ。俺は5歳だ。自分についての知識はこれぐらいか?
「はあ……。俺が処理しとくからお前は先に下に降りてろ。」
「……うん。」
俺は吐瀉物を避けて通り、部屋を出る。状況が分からないが今考えても仕方がないだろう。
「ああ、まだちょっと気持ち悪い。」
口の中にゲロの味が残っている。久しぶりだから余計に気持ち悪く感じる。
「ちょっと疲れたな。」
そう言いつつ椅子に座る。この家の家具は全て木製だ。確か父が作った家だと言っていた記憶がある。
「たく。余計な手間かけさせやがって。一体どうしたんだよ。」
「いや、なんにも。」
ここは俺から見たら異世界だ。魔法というものがあり、地球とは違うアグレイシアという惑星に人々が住む。
「さっさと朝飯にするぞ。」
「わかった。」
そう言いながら父がキッチンからパンを持ってくる。
「で、ほんとに悪いもんでも食ったんじゃねえんだよな?」
「うん。」
そう言いながらパンを食う。まだ喉にアレの味が残っている。もう一回吐くかもしれない。
「……父さん。」
「なんだ?」
「剣を教えてよ。」
俺は何気なくそういう。父が剣を持っている事は知っている。そして結構な使い手であることも。
「はあ?いきなりどうした。」
「教えられないの?」
「いやまあ、確かにできるが。それとこれとは話が別だ。俺が聞きたいのは何で剣術を習いたいかだ。」
なぜ、なぜか。なんでやりたいか……
「強くなりたいんだよ。誰よりも。」
「……まあいい。お前はそんなの興味がなさそうだったから。」
異世界に来た。だけど俺のやり方は変わらない。一番になるんだ。あいつがいるかはわからないけど。
「まあいいが、やるなら徹底的にだからな。」
「うん。」
そう言いながらパンを食い終わる。思ったよりお腹いっぱいだ。胃袋も小さくなったからか。
「さて、それじゃあやるぞ。」
「今やるの?」
「何だ。何か不都合でもあるのか?」
「いや何も。」
思い立ったが吉日のは言うし、まあ反対はしない。しかしそんな今すぐできるものなんだろうか。そもそも子供用の剣なんて家にあるのだろうか。
「安心しろ。今日は剣を使わねえ。」
「それじゃあ何するの?」
「全ての大前提。魔法でいう魔力に当たる『闘気』だ。本来なら少しやってから習うもんだが、最初にやった方が楽だしな。」
早速知らない単語が出てきた。魔法とか魔力はゲームでよく聞くが闘気などは全然聞かない。
「闘気っていうのは……ざっくりいうと俺らの体を動かしているエネルギーだ。俺らが使うのはその余り。それを増やしてコントロールするのが闘気法だ。」
それだともしも体を動かすエネルギーを全て使い切ってしまったら、命に問題があるのでは?人間は心臓が動かなくなれば死ぬ。
「考えてる事は何となくわかるが、そこはちゃんと体が勝手にセーフティロックをかけてる。だから問題があるレベル以上は使わない。つーか使えねえ。」
そう言いながら父さんはパンが乗っていた皿を片付ける。
「闘気を覚えるには単純。闘気を増やすことだ。増えていけば体の中に奇妙な感覚が生まれる。それが闘気ってわけだ。」
地球の人間とこっちの人間では体の構造が違うのだろうか。それとも環境が違うのだろうか。俺の知っている人間とは少し違うように感じる。
「これを動かせるようになるまでやれ。そしたらちゃんと剣を教えてやんよ。」
よし。頑張るか。