12.嫉妬vs魔王②
ただ目を失うだけならいい。不死鳥の能力で目は再生できる。なんなら新しい目を生やすこともできる、しかし嫉妬之罪はシンヤから視力そのものを奪った。フィーノが解除するまで、シンヤは光を見ることはできない。
「凄まじい再生能力だ。不死鳥の力か?」
シンヤは光を見れない。しかし嗅覚、味覚、触覚がまだ残っている。これらの器官で相手の位置を知る魔物は存在する。更に言うならば、第六感。つまり魔力や闘気を感知することによって目が見えてない状態と同程度の戦闘ができるのだ。
「不死鳥を殺すには一撃で体内に存在する魔石にダメージを与えるか、それとも再生し切る前に跡形もなく消し飛ばすか。どっちもまだ頑丈そうだからできそうもない。」
フィーノの攻撃は確かに強力である。しかしシンヤという化け物相手には少し相性が悪い。とてつもなく硬い上に、即座に再生する。全ての魔物の特性の良い部分だけを切り抜いただけに隙がない。
「だが、三分も経てばダメージは通る。」
しかしと言うべきか、フィーノの嫉妬之罪は相手の身体能力を下げる。どれだけ硬い敵でも、戦えば戦うほど有利になる。
「俺が有利だという事実は覆らない。」
フィーノは突如シンヤの目の前に現れ、腹を殴る。そして吹っ飛んで叩きつけられるより速く、幾度も追撃を重ねる。一方的に攻撃を仕掛け、少しずつ、少しずつシンヤに攻撃が入る。
「味覚」
残るは触覚と嗅覚。これが残っているうちに決着をつけたいが、シンヤは何度も殴られるだけで反撃ができない。
「嗅覚」
残るは触覚のみ。まるでしかしシンヤはまだ動かない。更に何度も殴られた後、攻撃が止む。
「触覚」
シンヤの力はもうフィーノが簡単にダメージが与えられるほどに落ちていた。そして五感の全てを失っている。逆転は絶望的であろう。シンヤは闘技場の壁を背にして半分倒れるようにして座っている。その前にフィーノが立つ。
「残念だが、俺が次に進むぞ。」
「いや、それは違う。」
「は……ッ!!?」
フィーノは慌てて飛び退く。シンヤは耳が聞こえていない。それなのに今、会話をした。それならばそもそも嫉妬之罪が効いていない可能性があるのだ。
「最後、君は俺に勝利宣言をすると思っていた。だから別に聞こえているわけじゃない。安心しろ。だけど、俺が勝つというのは事実だ。」
シンヤは服の埃を払いながら立ち上がる。五感を失ったとは思えないその動き。それはフィーノを僅かに恐怖させた。
「俺は何でも欲しいんだ。なんせ強欲だから。だから、お前の力も欲しい。勇者の力も欲しい。ありとあらゆる力が欲しい。だけど、俺の道徳に反することはしたくない。」
ゆらりと立ち、シンヤは手を広げる。
「俺は、この世界に来てから夢を持てなかった。だってそもそも俺は地球に帰りたかったから。だけど今は違う。」
シンヤの目は覚悟に染まっていた。
「俺が、オルゼイ帝国を守る。その為に俺は最強になる。」
彼がその決断をするのにどれほどの苦悩があったのか。いくら人が死ぬのは見逃せないとは言えど、日本に帰るのを諦める。その決断して、国を守ると決めた人間の覚悟というのは。
「だから、全てを手に入れるのさ。」
フィーノは慌てて駆ける。この時の感覚を知っていた。この目を、この感覚の人間を彼は知っていたのだ。それはあの時、その力に目覚めた他ならぬ自分自身だったから。
「『全てを奪いし覇王』」
「『幻撃』」
フィーノの拳から放たれる最強の一撃が、シンヤが触れた瞬間霧散する。この感覚は覚えがあった。他ならぬフィーノの力であったから。
「『幻壁』」
「俺の……力……」
夢想技能のコピー。フィーノの頭には真っ先にそれが上がった。しかしそれでは強過ぎる。なんらかの条件があるはず。
「『幻速』」
フィーノは姿を消し、そしてシンヤと大きく距離を取る。そして一度、思わずホッとしてしまった。それが大きな隙となる。
「『完全帰宅』」
目の前にシンヤが現れる。それはジョーカーの夢想技能。そしてシンヤは右手を握る。
「『剣之女神』真の可能性『因果逆転』」
シンヤはその一言で、今までの嫉妬之罪の攻撃を反転させる。攻撃をなかったことにする事により、全ての弱体化はこの瞬間無くなる。
「伝説技能まで……!」
「すまない。俺が勝つ。」
その右手にとてつもないエネルギーが収束する。いくつものスキルを重ね掛けしたかのように、その一撃で自分の死を想像することは実に容易だった。
(方向属性の干渉も、封じられたか……)
そして何故かは分からないが、その攻撃にフィーノの魔法は効かない。自分が回避するより先にあの拳は自分に叩きつけられるだろう。ならばフィーノが取れる手は一つ。
「……参った。」
そう言ってフィーノは手を上げた。それに合わせてシンヤも手を下げる。溜まっていた力は霧散する。
『決着ゥ!』
そして勝者が決まった。
次の話はエース対レイです。




