11.嫉妬vs魔王①
一回戦第四試合。この試合での勝者が勇者と戦う。だからこそ、勇者の試合目的で来た人も興味本位でこの試合を覗いていた。
『さて!一回戦が最後の試合が始まります!先に予選突破枠から!』
会場へ一人の男が入る。夏季の武闘祭に来た人ならその男を知っているだろう。準決勝まで来たものの、一撃で敗北した男。生まれる時代を間違えたと呼ばれた存在。化物揃いのこの世代でなければ、そう思う人も多かったはずだ。
『冒険王のたった一人の孫!固有属性持ちの天才!夏季大会では準決勝で敗れたその雪辱をここで果たせるか!フィーノ・ヴァグノ!』
彼が起こした十四技能の戦い。それは一般には公開されていない。だからこそ、彼はここに立てている。そしてその目的は勿論、三度も自分を倒したジンに勝利するため。
『そしてまさかまさかの優待枠!』
だが、相手は優待枠。勇者が世界を救うと証明するための存在。つまりは世界最高峰の存在がいて当然。
『オルゼイ帝国最強の騎士!七大騎士筆頭!人類最強クラスの一人が、勇者と戦うために飛び入り参戦をしてくれました!』
制服は着ていない。グレゼリオンの生徒ではないから。赤い軍服を着込み、会場に入る。それはオルゼイ帝国が騎士団の証。
『魔王!シンヤ・カンザキ!』
歓声が上がる。二人とも手には何も持たずに睨み合う。
『一回戦第四試合開始!』
フィーノは魔力を練る。フィーノの方向属性は最強級の力を持つ。自分が認識したもの全ての方向を変換できる。自動でない以上、フィーノの認識を掻い潜れさえすれば攻撃は当たってしまう。しかしそれでも、強い能力というのに変わりない。
「喰らえ。」
力のエネルギーというのはそこら中に存在する。重力もそうだし、気圧もそうだ。それをコントロールすることによって、見えない空気の砲撃が可能となる。
「……この程度かい?」
しかし効かない。シンヤの体は見た目では変化がないが、既に超硬質の魔物の肉体へ変化している。自分が殺した魔物を使役し、その特性を奪う。だからこそシンヤは魔王と呼ばれるのだ。
「『嫉妬之罪』」
しかしフィーノもそう簡単に諦めはしない。この力は相手の身体能力を落とす。更にジンとの戦いでは使わなかった力がまだある。同じ系列の勤勉之徳に無限加速という側面があるように。
「ああ、羨ましい。」
嫉妬とは、自分が持たないものを妬むこと。シンヤの強欲とはベクトルが違う。決して手に入れられないからこそ妬み続け、相手を少しずつ蝕み続ける。例えそれが、己の肉体を滅ぼしたとしても。
「これは……」
「強いよな。お前。俺と同い年で、俺なんか英雄から戦い方を教わったのに。お前は簡単に俺の前に立てる。」
呪い。それが嫉妬の力の真骨頂。魔法でないが故に解除ができず、その想い一つで一帯の人を殺せる。過去、その呪いで国を滅ぼした能力こそが、嫉妬之罪。
「だから、耳が聞こえなくても、別にいいよな?」
まずは聴覚を奪う。強者であればあるほど簡単に呪いでは殺せない。だからこそ少しずつシンヤの体は弱まり、最後には五感を失って赤子のように地面に倒れる。
「さっさと決めた方がよさそうだな。」
「随分と自信過剰だなあ。ああ、ああ、妬ましい。」
シンヤは走る。その体は異形の存在へと変わっていく。全魔物の個性、その中でも良い部分だけを切り取り、究極に至る。
「『究極生命体』」
だからこそ、最強。だからこそ、魔王。最も硬く、最も速く、最も強い。聴覚を失おうとも、最強は頂から動くことはない。
「『反――
「遅い。」
どの魔法にも言えることではあるが、発動前に攻撃すれば意味がない。シンヤの拳がフィーノの体を貫く。フィーノは壁に叩きつけられる。
「理不尽にも程があるだろ……ああもう。やだなあ。」
一人ごねりながら、フィーノは立つ。痛そうに腹を触りながら歩く。
「もうコレを使わなくちゃいけないなんて。」
その傷はもう、治っていた。まるで幻のように描き消え、シンヤの後ろにフィーノが立つ。その体には薄く雷が走っている。そして一瞬、フィーノより遥かに大きな男をシンヤは見た。
「『幻撃』」
その一撃は矛盾に満ち溢れていた。まるで夢のようなあやふやさ。一発なのにまるで百発も同時に殴られたような感覚。まるでなっていない拳の振り抜きのはずなのに、有り得ないほどのパワー。それがシンヤの頬に突き刺さった。
「『遥か遠き英雄へ至る為』」
これこそがフィーノのオリジナル。その身に英雄を体現させるその力。どんな力があれど、一対一の強さの要素は三つ。威力、速度、耐久。その全てを兼ね揃えたのが、このフィーノの力。
「竜の息吹!」
しかし仮にもオルゼイ帝国最強。吹き飛ばされながらも翼を生やし、空で急停止。そして口から竜の砲撃を放つ。炎の渦、破壊の力。人はいつだって竜を恐れる。
「『幻壁』」
しかしその一撃も、まるで幻のように掻き消える。そして再びフィーノは姿を消した。
「次は、視力。」
声が響く。シンヤの視界は、黒に染まった。




