10.俺達の人器
俺は目が覚める。ここは闘技場の医務室だろう。覚えている。俺はジンに負けたのだ。だからこそそこに運び込まれた。
「ん……?」
おかしい。失ったはずの右腕に感覚がある。俺は体を起こして自分の右腕を見る。そこには俺の右手を握って寝ているクラウスターの姿があった。俺の右手には包帯が巻いてある。
「おいクラウスター。起きろ。」
取り敢えず状況を確認するためにクラウスターをゆする。すると眠たげにクラウスターも体を起こす。そして自然に手も離す。
「あレ、アクト、起きたのか?」
「おうよ。」
「ああ、すまねえ。その右手くっつけてたら寝ちまってよお。」
やはりこの右手はクラウスターがつけてくれたのか。くっつくにはもっと時間がかかると思っていたんだが。
「ジンがやったのは、腕と体の部分の接続を斬ったわけだ。つまりは腕のパーツと体が別の扱いを受けてるから、回復魔法は効かねえ。だけどその逆、くっつける道具だって作れないわけじゃねえ。要は同じ部分として再び魂に刻み込めばいいわけだ。これはその包帯だ。」
まあ、さすが鍛治王と言ったところだな。鍛治王はドワーフという物作りの一族の頂点に立つ存在の称号。初代が鍛治に特別秀でていたからこそ、鍛治王と呼ばれるだけなのだ。
「まあそれでも長時間固定する必要があったから、オレがこうやってつけてやったわけだ。」
「そうか、ありがとよ。だけどそんなのよくあったな。まさか俺が気を失ってから直ぐに作ったわけじゃあるまいし。」
「ジンと戦うって聞いて、予想できた結果の一つだからな。例え消し飛ばされてても蘇生できる準備はしてたさ。」
こいつ物作りにおいては本当に別レベルだよな。飛び抜け過ぎてる。こいつに作れないものなんてもうないんじゃないだろうか。
「……すまねえな。」
「なにがダよ。」
「お前の人器を使って、負けちまった。」
心残りはここである。俺が負けたのはまだ、いい。俺が死ぬほど悔しいだけで済む。しかしクラウスターの武器を使って、俺のために武器を作ってくれたのに負けてしまった。これはクラウスターに申し訳が立たない。
「間違いなく、お前の人器は完璧だった。それなのに負けたのは、俺が弱かったからだ。」
「……いいや、強かったさ。オレ達は全力で戦った。間違いなく最高の結果を出せた。」
「いや、だけどよ……」
「あーあー!うるせえうるせえ!ナヨナヨすんなよらしくねえな!今、負けたのなら次勝ちゃあいいだろ!これから先、一回も負けなかったらオレの人器は最強だって証明できんだろ!違うか?」
……違いないな。
「俺はもっと強くなるぜ。そしてお前の人器を最強だって証明してみせる。もう、二度と負けねえ。」
改善点は死ぬほどある。勝算もある。今度こそジンに絶対勝つ。
「よし!それなら試合を見に行こうぜ!あいつらの試合見に行かなくちゃな!」
そう言ってクラウスターは出入り口の方へ歩いていく。俺も直ぐに立ち、眼で周りを見る。
「よし。」
俺はベッドの下にある槍を持ち、クラウスターについていく。
「行くか。」
覚悟を新たにして俺達は観客席へ向かった。




