8.神眼vs勇者①
俺とアクトは試合場の真ん中で相対する。先ほどより人は多い。勇者の戦いを、全員が見に来たのだ。
『一人は神の眼を持つ男!万象を司り、全てを統べるその両眼は文字通り最強に至れる可能性のある存在!可能性の卵!アクト・ラス!』
アクトは軽く槍を振り回して構える。その両眼は既に金色に染まり、臨戦態勢に入っている。
『そしてこの男!今日はこの男を見るためにきた人も多いのではないでしょうか!十代目勇者にして戦神グラドの息子!この世界を救うに足る存在か!今、我々はそれを知らねばなりません!ジン・アルカッセル!』
俺は黙って腰にさしている刀を鞘から引き抜く。黒い刀身が光を反射する。
『それでは、一回戦第三試合開始!』
俺たちは黙って睨みあう。俺とアクトに派手な攻撃手段はない。いやなくはないが、俺は使ったら魔力がなくなってしまう。アクトは使ってもそれが決定打にならないことがわかっている。そして何よりお互いの手札が分からないのだから、飛び込んで瞬殺されるなんてことは避けたいのだ。
「行くぜ。」
俺は一言そう言って駆ける。この瞬間、アクトは未来を見ているだろう。そしてその中から最適な選択肢を選び切る。だからこそ見えたはずだ。俺は最初から全力でいく。アクト相手に下手な温存は無意味。未来を見れるんだからな。
「『英雄剣術』真の可能性」
アクト相手にはこれを切らなきゃ勝てない。そう判断した。俺の英雄剣術の真の力。英雄の域に達した剣術が得る力。それは単純明快だ。
「『英雄の剣』」
俺の聖剣は光る。最強の剣術を持つ人間に必要なのは何か。それは最強の剣に決まっている。俺が持つ全ての剣は不壊の力を持ち、そしてある特殊能力を得る。
「未来がッ!」
「無銘流奥義複合ノ型」
干渉されない。たったそれだけ。アクトの眼には俺がいない場合の未来の可能性しか見えていない。未来や運命などの、概念的な能力の全てから外れる。
「『豪絶』」
「くそっ!」
俺の剣を大袈裟に避ける。しかし回避は意味を成さない。その距離なら大した苦労もなく斬れる。その証拠にアクトの体には大きな傷ができていた。しかし、アクトの槍の力によってその傷は直ぐに癒される。
「『天竜』」
そして即座に次の刃を放つ。数十の飛ぶ斬撃がアクトへと放たれる。
「おらよっ!」
その全てを槍によって防がれる。しかし防ぐ時間があるなら、その分距離を詰めれる。そして未来を見れないアクトであるならば、俺との正面からの打ち合いでは勝てない。俺は迷いなく間合いに踏み込む。
そして突きをしてきたのに対し、俺はそれを刀の鎬で防ぐ。そして次の一撃に移られる前に槍を掴む。やはり未来を見えてから今まで対処していたからか、対応力が格段に落ちている。槍を掴みながら俺は距離を詰める。槍が振れない至近距離。
「『天絶』」
そして一番最初に首、腕、足を同時に斬る。そして心臓へと突きを放ち、足でアクトを蹴り飛ばしながら刀を引き抜く。しかしアクトは愚王の黒眼によって実質無限の魔力と言えるほどの魔力量がある。そしてありとあらゆる法則型魔法を行使できるその槍があるなら回復も容易。だからこそ腕を斬る必要があった。
「アクト。死にたくねえなら降参しろ。」
俺は自分で斬った腕が握っていた槍を取る。これでアクトは回復ができない。回復魔法を習得している可能性もなくはないが、それでも武器を取ったという事は大きなアドバンテージになる。
「いや、それはまだだ。」
その声と同時に槍が消える。アクトの体はまるで磁石かのようにくっつき、再生する。そして手に空間を割るようにして槍が現れる。
「ジン。お前の聖剣と一緒だ。この槍は俺の体と一体となった。」
「……なるほど。」
槍を取るのは有効打にならないか。なら意識を失わせるしかあるまい。
「そして、これはもうアランボルグじゃねえ。」
そしてまるで皮が剥がれるようにして、その槍は真の姿をあらわにする。それは白と金の色が混ざり込んだ槍。
「岩王の体とアランボルグを混ぜ込んだ至高の一品。神器を超えた武器。」
アクトは笑う。それはその槍を自慢する、まるで子供のような無邪気な笑み。
「人器シリーズ1、人槍『クラウボルグ』。世界で最高の鍛治王が作った最高傑作だ。」
魔物の体を武器に転用する。その案は昔からあった。そして、今でも流通はしている。しかし神器を上回る素材となれば、危険度10以上の化け物の体しか採取する他ない。そしてそれをまともに扱える完璧な鍛治師がいなければ、作ることもままならない。
「残念だが負けてもらうぜ、ジン!人が神を超える。それを証明するのがこの槍だ!」
アクトは地面を駆けた。




