7.自分と彼女のために
二試合が終わり、軽い休憩が入った。俺とは治療室にいるシルフェの元へ来た。一つ目に単純に心配だったから。二つ目に一体何があったのか、だ。
「大丈夫か、シルフェ。」
「大丈夫ですよ。まあ少し血が足りないので、直ぐには本調子とはいきませんが。」
シルフェはベットの上でそう答える。傷は全て治っているようだし、問題はなさそうだ。
「そうか……なら、最後何があったんだ。急に身体中に傷ができてたし、明らかに魔力的な感じなかったが。」
「最後の、ですか。」
単純な疑問。俺が決勝戦まで行った時に、エースと戦う可能性がある。というかその確率が一番高いと思う。ならば情報収集を欠かしてはいけない。
「私にもよく分かりませんでした。恐らく超スピードだとか魔法だとかそういうのではなく、特殊能力であるのは間違いないでしょう。相手に問答無用で傷を起こす能力、という風でもありませんでした。」
「となると、何らかの能力の応用か?」
「恐らくそうでしょうね。それが何なのかは分かりませんが。」
「そうか……」
古傷を再現する能力。見えない自分を複製する能力。俺が思いつくのはこの程度か。しかしどれも腑におちない。どこか釈然としない。
このまま進むならレイとエースの試合がある。そこでレイが更に情報を引き出してくれるのを期待するしかないか。
「それより、いいんですか。これからアクトさんとの試合でしょう?そもそもジンさんが決勝に行けるかどうかも怪しいところだと思いますよ。」
「いいや、行くね。勇者として、なんていうのは俺らしくないか。今度は絶対に優勝する。俺は負けるのが大嫌いなんだ。」
負けず嫌い。それは素質だ。優秀なスポーツ選手は、純粋にそのスポーツが死ぬほど好きなやつか負けず嫌いしかいない。俺は勿論後者だ。負けず嫌いだから、五十年以上負け続けても進むことを止めなかった。俺は自分のことを嫌いだが、唯一好きなのはこういうところだ。唯一他人に誇れるのはこれだけだ。
「そうですか……私が決勝で戦いたかったんですけどね。」
「いいだろ。お前は俺に一度勝ってんだから。」
「それでも、です。私は貴方と肩を並べたいので。」
そうかい。まあシルフェらしい。
「お前は俺の相棒だよ。お前以外が俺の隣に立ってるなんざありえねえ。」
「それは、ありがたいことですね。」
シルフェは眠くなってきたのか半目になっていて、どこか視線も合わない。流石にさっきの戦いで魔力も気力もかなり使ったんだろう。
「ゆっくり寝てな。決勝戦までには絶対起こしてやるからよ。」
「……はい。」
シルフェも本当に眠かったのか、体を横にする。
「絶対、勝ってください、よ。」
「言われるまでもねえよ。」
そう言って少したった頃に、寝息が聞こえてくる。俺は頭を撫でようかと思って手を伸ばすが、流石に犯罪っぽくなるから手を引っ込める。
「……よし、勝つか。」
俺は立つ。いつからだろうか。最高の親友で、無二の親友であるシルフェ。最初は友として、戦友として共に戦いたいだけであった。しかし、最近はどうも違う。
誰よりもこいつのことを優先してやりたい。こいつと一緒に死ぬまで過ごしたい。そういう感情がポツポツと芽生え始めてきた。俺はシルフェに救われた。シルフェがいなければ、俺はどうなっていたか分からない。
「俺も、本当に変わったな。」
前世、一度もそういう感情を抱かなかった俺が。精神年齢で見るならかなり年下の女に惚れるなんて。昔の俺に言ったら絶句するに違いない。誰だお前、ってな。
「惚れた女の頼みも聞けなきゃ、男が廃るってんだ。」
俺は歓声が鳴り響く会場へと、その足を進めた。
こいつが!ガチ狂人だから!ここまで恋愛要素一切出せなかったんだよ!




