6.王子vs令嬢②
光が集まり、形となる。それは片手剣。両手で持つには小さすぎ、本来盾などとセットで使うべき剣だ。しかしこの武器においてそれは必要はないだろう。その片手剣をエースは右手で掴み取る。
「聖剣『原初たる人王の剣』」
それはあの悪魔王すら滅ぼした最強の剣。それを見るだけで本能的に恐怖する剣。
「貴様の能力は元より一対一に向いたものではない。特にそのオリジナルはな。故に我もオリジナルを使わぬ。」
明らかな手加減。しかしエースにはそれが許される。それは至ってシンプル。強いから。これだけで事足りてしまう。
「後悔しても知りませんよ!」
シルフェードは氷の剣を生成し、空を飛んでいるエースへとそれらを射出する。しかし当たらない。防がれたわけでもなく、避けられたわけでもない。動いていない相手を狙いすましているはずなのに、当たる気配すら見せない。
「さて、避けれるものなら避けてみるがいい。」
そしてエースはそのまま真っ直ぐシルフェードの元へ降りてくる。その時、違和感に気付く。避けることができない。正確に言うならその場から大きく飛び退くという行為ができない。そのせいでシルフェードは空から急降下するエースの攻撃を剣で受けることとなった。
「それは一体……」
「その矮小な頭でよく考えよ。一端なら理解できるやもしれんぞ。」
レイシリアの能力は因果決定。しかし、エースとバアルの戦いを見ていないシルフェードはそれを知らない。支配系統の能力なのか、概念に干渉する能力なのか。可能性として様々な答えを想像するが、真実には行きつけない。
「くっ!」
しかし考えれば考えるほど追い詰められていく。多方向からの連続攻撃。それに加えてこちらの攻撃は全て通らないときたら、不利が過ぎる。青竜の力で徐々に能力は上がっているが、エースの竜人としての人に勝る身体能力には追いつけない。恐らくその前に敗北する。
「終わりだ。」
その一言と同時にエースはシルフェードの首を斬る。潜血が舞い、頭は宙を舞う。
「真の可能性」
しかしその時、一瞬に渡る刹那。確かにエースは聞いた。
「『因果逆転』」
今度は確かに響く。二代目勇者はシルフェードの剣術を剣王から、剣神まで上昇させた。そして元よりあったシルフェードの剣聖は、更なる領域へと進化した。即ち、伝説技能へと。
シルフェードの頭はまるで元から斬られていなかったかのようにそこにあり、即座にエースの眼前に迫る。
「レイシリアッ!」
「行きますよ。『剣之女神』」
因果決定に対して、シルフェードが扱うは因果逆転。決定された因果を反転する。それがシルフェードの剣之女神の真の可能性。
「なるほど……因果決定。それがあなたの剣の力だったんですね。」
シルフェードの剣とエースの剣は鍔迫り合う。因果は一度決定された。シルフェードの剣はエースには当たらないという事実へと。しかしそれは逆転され、シルフェードの剣はエースに当たるという事実に変更されたのだ。
「貴方の力と私の力は相性がいい。因果逆転はそもそも事実しか覆すことはできない。決まりきった事象は過去のみ。本来過去にしか干渉できない力ですが、貴方の手によって因果が決定されてしまえば。それは事実になるからこそ、逆転ができる。」
レイシリアの能力が完全に封じられた。エースはその事実に震える。
「フ、フハハハハハハ!!!なるほど面白い!我が切り札の一つを封じるとはな!想像以上だ!」
勿論、歓喜によって。エースにとって自分が最強であるということなどどうでもいい。ただ実際、自分が最強だからこそそれに相応しい行動をしているだけだ。この国に属する者の力が増すのは時期王としてここまで喜ばしいことはない。
「なら、特別だ。もう一つだけ札を切ろう。」
しかし、まだ届かない。エースが力を込め、シルフェードを突き飛ばす。それと同時にシルフェードの体中に傷が入る。その傷は一瞬にして増え続け、気付けばシルフェードの体は傷だらけとなる。
「よく戦った。その勇姿を讃えよう。貴様は我が優秀な臣下たり得る存在であった。」
最後に身体中からシルフェードは血を吹き出して、その場に倒れた。エースはその場所から一歩も動いていない。
『え、あ、け、決着!』
一言遅れて決着の声が響く。最後、何が起こっているのかは誰も理解ができなかった。何故かいきなり身体中をシルフェードが切り刻まれ、血を出して倒れた。その事実だけが残った。エースは手に持つレイシリアを消し、会場を去る。
未だに、エースの底は見えない。
エースは強い(確信)。まあこれでも人類最強ではないからインフレしてないしセーフ。




