5.王子vs令嬢①
第一試合の派手な戦いを見て、勇者の戦いだけでなく、武闘祭そのものへ観客の興味が出始めてきていた。そんな中会場の修復が行われ、次の試合の準備が整った。
『第一試合は終了しましたが、次の試合もビッグカード!知る人なら知っていましょう!我らがグレゼリオンの王子にして、次期国王のこの男!』
片方の入り口から男が先に現れる。見下すように顎を上げ、腕を組みながらその男は会場に出る。
『生まれたその瞬間に最強へと至った男!生まれた瞬間にレベル10であった!五歳にして危険度10の魔物を討伐したなど!その伝説は収まることを知りません!最強無敵の黄金王子!エース・フォン・グレゼリオン!』
それに対し、もう一人も会場へゆっくりと入場する。その手には白銀のきれいな剣が握られ、確かな決意と共に前へ進む。
『それに対するは今トーナメント唯一の女性!四大公爵ファルクラム家の一人娘!相手にもならないと考える人もいるでしょう!しかし、彼女はこの予選を武闘祭の苛烈な勝ち抜いています!そして何より、これからの戦いを見ればその実力がわかるというものでしょう!シルフェード・フォン・ファルクラム!』
シルフェードは闘志を昂らせて、エースをにらみつける。それを見てエースは馬鹿にするように笑う。
『一回戦第二試合、開始!』
シルフェードは剣を構える。夏に行われた武闘祭。そこでシルフェードはエースに負けていた。確かにジンも悔しかっただろう。しかし、シルフェードもその敗北を忘れてはいない。次に戦うときには自分が勝つと、そういう決意をもってここに立っている。
「残念かもしれませんが、勝たせてもらいますよ!」
地面をけり、エースの眼前にシルフェードが迫る。しかし届くより先に、上空から黄金の武具が降り注ぐ。それをシルフェードは剣を振るい弾く。しかし弾ききれないほどの武器が更に降り注いでくる。
「ふっ!」
その時、シルフェードの剣は伸びながらまるで鞭のようにしなりそれを全て弾き返す。
「形を変える剣か。」
しかしそれに慌てることもなく、エースは次の手を打つ。エースのの手元に一振りの剣が形成される。それは大きな光を発している。
「『ブリテン王の聖剣』」
それをエースは振り抜いた。剣から光の粒子が現れ、極太の光線となりてシルフェードを襲う。
「青竜!」
それに対するはファルクラム家の決戦兵器。蒼い竜が口から砲撃を放ち、それを相殺させる。そしてシルフェードは駆ける。
「中々面白い剣のようだが、それだけではあるまい。この我を相手に加減を加えるなど、随分と頭の出来が悪いようだな。」
エースの周りにある黄金鱗によってシルフェードの攻撃は防がれる。シルフェードは即座に障壁を足場にして後ろに下がる。
「言われなくても。さっきのはちょっとした準備運動のようなものです。」
そう言ってシルフェードは聖剣を地面に突き立てる。そしてその剣へと手をかざした。そしてそれを包むようにして青竜がそれを中心にとぐろを巻く。その色は半透明になり、剣へと吸い込まれていく。
「ありとあらゆる武器を模倣する無想剣。しかし、私の武器は模倣できません。この剣は、私にしか、ファルクラム家以外は使えないのですから!」
それは二代目勇者が持っていたもう一つの剣。世界に三つしかない聖剣の一つ。魔王との決戦に使用した二代目勇者の最強武器。
「神器解放『未来へと導く一振りの星』」
それこそが星の武器。メテオスター。青竜がその剣に入ることによって完成する普通とは異なる剣。
「青竜は変幻自在。ありとあらゆる形にその姿を変える。そして、この剣とその力を合わせれば。」
シルフェードの背後に氷の剣がいくつも生まれる。その数は数えきれないほどの数であり、シルフェードが剣を地面から引き抜くと同時にエースに向けて傾く。
「あなたの無想剣と、同じような効果を発揮できる。」
「……ほう。」
氷の剣が射出される。それに対しエースも即座に武具を射出し、相殺させる。
「これは初代鍛治王が神器である無想剣に対抗するために作った。つまりはそれを真似て作った武器。」
「なるほど面白い!原典と贋作!どちらの方が上か決めようではないか!」
エースはその口を歪め、背後に武具を生成する。シルフェードも背後に氷の剣を再び生成し、それらは同時に射出された。
「しかし、あなたの無想剣が異界の武器を模倣するのは真似できません。その代わりの力がこの剣にはある。」
飛び交う剣の中。シルフェードは走る。その飛んでくる武器に対し、剣を生成し全てを弾く。そのシルフェードの聖剣に蒼き光が走る。
「ここは、私の空間です。」
シルフェードの聖剣が障壁に触れた瞬間。障壁は消失する。流石にこれには驚いたのかエースは反射的に後ろに下がるが、備えていなかったために体勢が悪く下がるスピードも遅い。
「チッ!」
舌打ちをしながら剣を抜き、その剣を防いだ。しかしその剣も直ぐに消失するが、一瞬でもその剣が止まったが故にエースが逃げる隙ができた。エースは黄金の翼を生やして回避する。
「無効化か。いや、あの感覚は支配だな。」
「ご明察です。それを初見で理解するのはやはり恐ろしい。メテオスターの能力は支配。剣に触れたものを掌握することができる。物体の掌握はできませんが、超常的な攻撃しか行わないあなたとはとことん相性がいいわけです。」
つまりは、この瞬間に無想剣は無力化されたと言っていい。その全てはシルフェードの剣に触れてしまえば消える。戦えなくはないが、苦労する。そしてそれはエースの本懐ではない。苦戦して戦うというのは、生まれながらの強者であるエースにとっては敗北なのだ。
「フハハハハハハ!!!!良いぞ!あの時我に一撃で敗北した貴様がここまで強くなろうとはな!これだから人間は素晴らしい!」
エースは愉快そうに笑う。エースにとって無想剣とは手加減の証。もちろん強力な武具もあるが、自分の最強の武器ではない。
「褒美だ。貴様に我が聖剣を拝謁する権利をくれてやろう。」
そしてそれが今、この場所に現れようとしていた。
スターダスト→未来への継承
メテオスター→未来へと導く
レイシリア→未来の創造
三つの聖剣はそれぞれこんな感じのイメージです。二代目勇者が使った聖剣は未来に託すという意味合いが大きく、それ以前から存在したレイシリアは今未来を変えるという意味合いが強いです。




