4.天才vs悪魔竜
三年生の試合は確かに凄かった。しかし試合の一部が見えなかったり、あまりにも超次元過ぎてよく分からず直ぐに終わってしまったこともあって盛り上がりには一つ欠けた。だからこそ、今から始まるメインイベントが更に盛り上がるのは当然の事と言えよう。
『これより始まるのは武闘祭のメインイベント!勇者の強さを証明するための戦い!』
会場の中には人が集まっている。その中には戦いに興味がない人もいる。しかし、それでも今回は来なければならない。人々の希望である勇者が、本当に希望の象徴であるに相応しいか。
『しかし相手が弱いのでは強さの証明などできはしない!学園から六名、優待枠から二人の計八人でトーナメントを進めさせていただきます!』
初戦。既に準備はできているだろう。堂々と、一人の男が現れる。
『一人は学園の予選を勝ち抜いた猛者!グレゼリオン学園創立以来初めての編入性!知る人ぞ知る冒険者、『求道の魔女』ミラ・ウォルリナのたった一人の弟子!そして勇者の兄弟でもあるこの男!レイ・アルカッセル!』
歓声が響くと同時にあちこちから驚きの声が上がる。勇者の兄弟であることはもちろん、長年冒険者をやっているなら知っている、あの魔女の弟子と聞き驚いた人もいた。昔、冒険者四天王と呼ばれた四人。その一角の弟子となれば驚く人もいるだろう。
『対する相手は優待枠!』
しかし相手も、それに負けず劣らずの相手。ジンの許可を得ずに勝手にレイが学園長に交渉し、勝手に自分の初戦にねじ込んだ。
「事後承諾はやめろってんだよ……」
『それは竜。知性ありし種族の中でも最強の種族!間違いなくこの場にふさわしき存在!アクスドラ!』
空から竜が舞い降りる。悪魔ということは伏せられてはいた。このご時世で悪魔などと言えば騒ぎが起きてしまうだろうという学園長の考えだ。幸いなことにアクスドラの見た目は竜にしか見えない。
『それでは、一回戦第一試合!開始!』
歓声と共に戦いが始まる。先に動いたのはレイ。魔法によって空を飛び、アクスドラと目線を合わせる。
「『壊滅の神柱』」
そして唱える。それはジンには聞き覚えがあるもの。昔、ミゴが使ったのと同じ名前の魔法であった。しかし当然と言うべきか、天才のレイによって改良が加えられていた。
闇の柱がアクスドラの足元から一気に伸び、アクスドラを飲み込む。ここまでがミゴの作った魔法。これからが、レイの作る魔法。
「魔法陣の作り方もプロセスも、全てが最悪だけど、発想だけは悪くなかったね。」
レイはそう言って魔力を操る。黒い雷がその闇の中を駆け巡り、そしてそれを埋めるようにして大きく土が盛り上がる。最後には光の結界がその土ごとアクスドラを閉じ込め、内部から爆発を起こす。
「ここまでやれば、満点だった。」
環境を変える規模の大魔法。それをここまで連続に行使するということが普通は難しい。しかし無限の魔力を持つレイにとって、それはさして難しいことではなかった。
結界が消え、土埃が舞う中。依然として全く傷のないアクスドラがそこに立っている。忍耐之徳の絶対防御。これは世界の理論から外れた絶剣には弱いが、逆に言うならそれ以外の通常の手段には有り得ないほどの耐性を持つ。レイが破るには少し難しいだろう。
「『悪魔神竜』ッ!!」
そしてアクスドラも手札を切る。首が三つに増え、体に赤いラインが入る。その頭の一つの口から毒霧が出ている。結界で隔離されているこの場所は閉鎖空間。大気中に毒を仕込めば強いのは当然であろう。
「『宇宙の原初』」
そして次の魔法が走る。火が、水が、木が、土が、雷が、ありとあらゆる力がアクスドラを襲う。しかしそれはアクスドラの絶対防御を破るには敵わない。
「よし、大体分かった。本気を出そう。」
そしてレイは笑う。あれほどの大魔法を小手調べと言わんばかりに、悠々と唱え始める。
「幾万もの星よ、我が敵を葬るがよい『滅亡星』」
上空に大きな、大き過ぎる魔法陣が展開される。そこから放たれるは光の光線。幾万、いや億を超える光線が全てアクスドラへと降り注ぐ。対軍超広範囲殲滅魔法に分類されるこの魔法は、本来数多もの敵を滅ぼす魔法。それをたった1人へ打ち込めば、そのダメージは想像を絶する。
「神の炎星、総てを燃やし尽くす最強の業火、焦がせ、燃やせ、溶かせ、暴虐の化身にして、太陽の写し身、全天が究極の炎を欲している『太陽星』」
しかしその全てを放ち切る前に次の一撃が放たれる。全てを燃やす太陽のような一撃を。ジンであれば三発撃てば魔力が尽きるような魔法を次々と。
「白き星、それは総てを凍てつかせ、総てを停止させる、大地を、大気を、世界さえも、全天が究極の冷気を欲している『厳寒星』」
次は冷気。世界が白に染まる。地面が凍る。アクスドラは足からゆっくりと侵食されていく。
「舐めるなァッ!」
しかしそれでもアクスドラは止まらず、氷を砕き、太陽を跳ね除け、流星群を耐え切る。そしてアクスドラは翼を広げ、空を駆ける。
「絶え間ない無限の神秘、知り得ない究極の金光、太陽を飲み干すは我が魂、その総ては、光が永遠に続くが故に、美しく、華麗に、輝き、その存在を証明せん、我こそが究極の光輝であることを知れ」
レイの指先に直視できないほど眩しい光の球が現れる。とても小さい、指より小さい淡い光の球。それは向かってくるアクスドラへとゆっくりと飛んでいく。
「『神星』」
その一言と同時に光の球はアクスドラへと当たる。そして弾けた。とても小さいはずの光の球は一気に巨大化し、アクスドラを飲み込む。それはアクスドラの絶対防御にヒビを入れた。だが、それだけでは終わらない。
光はそのエネルギーを徐々に増し、大きく弾ける。要は爆発だ。結界内を見えなくするほどの大きな爆発。それがアクスドラを襲った。
「それで、二代目勇者は魔王を殺したらしいよ。」
この魔法は三段階に分かれている。まず光のエネルギーで対象を飲み込み、ダメージを与える。二段階目にエネルギーを抑えきれず、大きな爆発を起こすのだ。そして最後。魔力が散り、終わったはずの魔法。それが最後のトドメを指す。
「終わり。」
散ったはずの魔力が形を成す。それはいくつもの白い光の球体、それがアクスドラの周りにいくつも。一斉にアクスドラへと迫る。避ける暇など与えず、体を貫いた。身体中から血を流して、アクスドラは地面に落ちた。
『決着ぅ!』
勝者は最早明白であった。




