2.混沌vs太陽①
闘技場に風が流れる。人々の熱気が、誇りが、想いが、そこで形を成す。ここにかける想いは人それぞれあろう。しかし、俺たちは生徒の想いは一つに決まっていた。最強は自分自身であると。
『今年のみの特別演出!本来ならこの武闘祭のラストを飾る筈のイベントォ!つまりはそれほどまでの強者が二人!』
俺たち一年生は自分たちのトーナメントが始まる一つ前、つまりは三年生最強を決める戦いを見ていた。
『一人は学園最強!現王者!リラーティナ家が次期当主にして、人類最強のたった一人の弟子!その圧倒的な火属性魔法はまるで火の神!ロウ・フォン・リラーティナ!』
実況の声が闘技場に、辺り周辺に響き、片方の入り口から会長が現れる。その手には何も持たず、強いて言うなら手に指輪をしている程度。魔法のみで戦うということが直ぐに分かる。
『もう一人は挑戦者!画面を被る帰宅部最強のこの男!闇と光を操る賢神の一角!天使より強き光魔法!悪魔より強き闇魔法!これが混沌の王子!ジョーカー・フェイス!』
もう片方の入り口からは部長が現れる。こちらも何も持っていない。強いて言うなら画面をつけている、という程度。二人の最高峰の魔法使いがここにぶつかるのだ。
『それでは!今より決勝戦を開始します!』
会場は一度静まりかえり、そして声を待つ。
『始め!』
人々は、歓声を上げた。
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二人が対峙する。直ぐには戦おうとはせず、最初は互いに睨み合うのみ。
「今年の一年生は凄いと思わないかい、ジョーカー。私達はあの日、王都を守るために戦うのが精一杯だった。破壊神が現れた時、正直言って私は諦めたよ。」
二人はあの破壊神が来た時、王都にて戦っていた。ジンが来た時、直ぐ支援に行こうと考えてはいたが、その前に破壊神が現れたのだ。この二人は数少ないレベル10。だから理解してしまった。その力の一端を。だから戦う気にもなれなかった。
「近いうちに最終決戦があるだろう。恐らく歴史から消えぬほどの大決戦がね。今度は同じ二の舞を踏みはしないさ。リラーティナ家次期当主として、グレゼリオンの国民を今度こそ守り切らなくちゃならない。お前もそうだろ?」
「……俺は、そんなめんどくさいこと考えちゃあいないさァ。ただ自分の正義に従って戦うだけだねェ。だけど、負けるのは癪だァ。一年生にも、勿論、お前にもなァ。」
「そうこなくっちゃね。」
二人の魔力がその場に迸る。ロウは右手を突き出し、一言簡単に言う。
「始めようか。」
「おうよォ!」
会場が燃える。地面一面が炎に沈み、それはまるで灼熱地獄のような光景へと変貌した。オーディンが張る結界によって観客席には被害はないが、それでも少し暑さを感じるだろう。
「『聖魔天皇』真の可能性」
それに対し、ジョーカーも手札を直ぐに切る。伝説技能の覚醒など、既に終わらせている。光と闇を操る最強の力の覚醒。
「『聖魔之衣』」
翼が生える。三対の計六の翼。片翼の三枚は黒く、反対は白い。黒と白の服装へとジョーカーの制服も変化する。魔法使いのイメージぴったりのローブが黒と白が入り混じるような配色をしている。フードはあるが被っておらず、その翼をはためかせて空を駆ける。
「来い!朱雀!」
それに対するはリラーティナ家の決戦兵器。青竜が最優であるなら、朱雀は最速。炎を纏う朱き鳥。四神うちの南の守護者。
朱き鳥と、混沌が衝突する。しかし当然が如く、朱雀は掴み取られ投げ捨られる。しかしそれすらも織り込み済みと言わんばかりに四方を火の球で囲まれる。
「浸食しろ!『滅びの純黒』」
その炎は黒く染まり崩壊する。ジョーカーを中心として滅びの結界。立ち入るものを侵食し、奪い尽くす力。しかし、侵食するより速く攻撃できるものがいたとするなら。
「穿て、朱雀。」
目に見えぬほどの速度で、朱雀がジョーカーの胴を貫く。それは有り得ないほどのスピードで、ジョーカーを結界へと叩きつけた。
「……染まれ。」
ジョーカーが結界に当たっている部分、そこを起点として闇が広がる。観客から会場が見えなくなり、動揺の声があがる。そしてジョーカーはその場から光となって消え、地上に立つ。未だにその場は炎に包まれ、灼熱がジョーカーを襲っている。
「ありがとね。」
「俺は本気のお前と戦いたいからねェ。流石に仕方ないさァ。」
ロウには、見せられないものがあった。人前で本気を出せない理由が、一つだけあった。見せたくないではない。見せられないものが。
「……ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふる たぐん いあ! くとぅぐあ!」
ロウの体から炎が抜き出る。それは上空にて炎を形成する。大きく、ただ大きい炎の塊。球体。見るものを狂気に陥れる太陽の如き炎の化身。旧支配者の一柱。
「『狂気之炎』」
宇宙的恐怖。この存在の恐ろしさを語るにはこの一言が簡単にして、簡潔にこれを表しているだろう。見るものを発狂させるが故に、人に見せてはならない。この恐怖に抗えるのは使い手であるロウと、それに並ぶ強者のみ。
「久しぶりに見たねェ。そいつをなァ。」
「待たせたね。本気でやり合おうか。」
頭上の太陽の如き存在から、熱線が放たれる。一撃、二撃、三撃とその全てが必殺級の威力。
「『救いの純白』」
しかしその全てがジョーカーに当たる事はない。全てが光に飲まれ、当たる事はない。ジョーカーの翼が大きく開く。そして光を放つ。
「『究極の光線』」
そしてお返しとばかりに光の光線が放たれた。全方位に向かい放たれる光線は壁に当たれば反射し、幾度も曲がってロウを狙う。しかしロウも黙ってはやられない。
「『落陽』」
それは、日が沈む事を意味する。そしてその言葉の通り、間違いなく、火が沈む。太陽の如き圧倒的な魔力と火の塊が、その場に堕ちた。
この二人の戦いは割と最初から書きたいと決めていたので、書く必要はないけど書きました。設定だけはしっかり考えていたので出さないのは勿体ないとか考えてしまったわけですね。




