12.墓石
父さんの墓は学園の中に建てられた。それは元パーティメンバーである学園長、師匠、ベルゴ先生の希望だった。まあパーティだってことは墓を建てる時初めて俺は知ったわけなのだが。
しかしその墓には通常時には入れず、入るには学園長の許可が必要となる。そんなわけで学園長と一緒に父さんの墓へ向かっているわけだ。
「右手に持っとるのはなんじゃ?酒か?」
「まあ父さんがよく家で飲んでたやつを。」
家から持ってきたものの一つに酒がある。父さんはあまり酒を家では飲まなかったが、飲むときにはこの東酒というものをよく飲む。まあその正体は地球から異世界転位した七代目勇者が広めた日本酒なんだけど。よく日本酒の製造方法なんて覚えてたもんだ。
「ほーん。あいつは冒険者じゃったころはエールしか飲まなかったんじゃがな。」
「そうだったのか。やっぱり父さんが若かった頃は性格が違ったのか?」
「ああ違ったわ。誰よりも冒険者らしく、それでいて恐ろしい奴じゃった。」
父さんは昔のことを話すことはなかったからなあ。どんな冒険をして、どんな敵と戦ったのか。俺は知らない。
「ほれ、着いたぞ。」
「ありがとよ。」
父さんの墓石の前に俺はしゃがむ。そして酒を開け、墓石にかけていく。
「……久しぶりにあいつと会ったときは驚いたもんじゃ。なにより子供を育てたってことがわしらにとっては一番の驚きじゃった。」
空になった酒瓶を墓石の隣に置き、手を合わせ目を閉じる。
「あいつは強くなることに飢えておった。しかしパーティを解散するころには自分の限界を感じておったのか、どこか上の空でやるせない様子じゃった。あのまま一人にしたら死ぬんじゃないかとな。」
目を開き、俺は墓石を背に歩き始める。
「おぬしは間違いなく、グラドの自慢の息子じゃったよ。」
「そうかい、それぐらいは分かってるさ。」
ああ、分かっている。あんな偉大な父親の背を見て育ったんだ。父さんの自慢の息子になれなかったのなら、俺は自分で自分を殺したくなる。
「武闘祭、楽しみにしておるぞ。今の時代を作るのはわしらのような過去の人間ではないのじゃからな。」
俺はそれに声を返さずに、手を挙げる。絶対にエースに勝つ。そして優勝する。俺はそう決めている。




