9.神界
聖剣の力で未だ使えないのは九代目のみ。しかし全くと言っていいほど取り合ってくれない。一言目には「帰れ」で、二言目には「死ね」だ。怖い。
「ジン、用事は終わったかい?」
「お前こそ。」
「僕は終わったよ。君は……終わってなさそうだね。」
ああ、ああ。その通りだ。まあ上手くいった方としよう。一月かけて九代目以外の勇者から力は借りれて、ある程度理解もできた。イメトレも済んだし、実戦で使えるはず。
「それで、何の用だ?」
「ああそうだ。その右腕、治したくないかい?」
「治せるのか!?」
俺の一番の懸念要素だったのだが、え、治せるの?
「いや、僕は治せない。ただ治せるかもしれないやつを知ってるだけさ。」
「かも?お前が断定口調じゃねえのは珍しいな。」
「いや、今回はさすがに相手がね……とりあえずやってみようか。」
そう言ってレイは地面に手の平をつける。ゆっくりと、ゆっくりと魔法陣が形成されていく。
「精霊王が言っていたあの神界に至る魔法。アレに下準備が必要だったのは魔力がありえないほど必要だったからだ。それを長年魔力を何かしらを媒体にして集めた。それにプラスして命を犠牲にしてやっと足りるぐらいの大魔法だった。」
そして、魔法陣が形となる。
「異世界人は世界を渡るとき、特別な力を得る。君はおまけだったからなかったけど、僕には無限の魔力とありとあらゆる属性に適正があった。だからこの魔法を使える。」
魔法陣が光りをあげ、視界を覆いつくした。眩しさで目を思わず閉じる。ただ一つ言わせてもらうなら、サラッと凄い羨ましいこと言わないでくんない?
少しずつ光が収まっていき、それに合わせて少しずつ目を開けていく。そこは、何もなかった。地平線まで白い床が広がり、それがほんのり薄く光っている。空は青くなく、夜のように黒い。何より違和感を感じるのはこの世界に来てから、正確に言うなら魔法が使えるようになってから常に感じていた大気に満ちる魔力を全く感じないということだ。
「ここは神界だよ、ジン。精霊王が使っていた魔法陣を覚えていてね。ちょっと使わせてもらったのさ。」
「相変わらずの完全記憶能力だな。」
この無の世界には俺とレイしかいない。しかしここが神界であるならば、神がいるはずなのだが。そう思っていると足音が響く。俺とレイは直ぐに音がしたほうに振り返る。そこにはさっきまで誰もいなかったはずなのだが、一人の男がいた。
「どっちを見てるんだ?」
「は?」
気付けば視界には誰もおらず、その代わりに後ろから肩を触られていた。同時に反射的に聖剣を抜いて振るう。しかしそれを振り切ることは叶わなかった。
「物騒だな。取り敢えず斬るなんて、辻斬りの発想だぞ。」
刃が掴まれていた。全く動かない。まるでどこかに刺さったような感覚。俺は即座に聖剣を消し、距離を取る。
「あ、そんな怯えなくてもいいのに……」
すると今度は急に捨てられた子犬のようにしょんぼりした感じになる。どこかちぐはぐだ。強さのわりに精神が安定していない。
その男の髪と目はは青暗い色をしており、黒い眼鏡をかけている。種族的には一見人間に見えるし、なんならやせ細っていて不健康そうにも見える。しかし俺の本能はこいつが常人ではないと警笛を鳴らしている。
「お前ら俺に会いに来たんだろ?会話しようぜ会話。」
「随分と気軽な神だね。」
「そりゃそうよ。全知全能なんてもんがあるんだから、自由でなくちゃ。」
「そうかい。ちなみに何の神だい?」
俺がこの男を警戒している中、レイが話し始める。神と言っても何柱も存在する。ここが神界なのは恐らく間違いない。ならこの男は神であるはずだ。だが、教会にこの神と一致する容姿の神は認定されていないはず。
「ん、俺?俺は主神だよ主神。支配神とも呼ばれてるやつ。」
「はあ!」
「やっぱりね……」
レイは納得したような感じだが、主神?教会には威厳ある白髭で禿の老人とされているはずの主神が、こんな若そうな見た目だったのか。
「んで、何の用?暇じゃないってわけじゃないけど、俺あんまり下界の奴と関わりたくないんだよね。」
「ああ分かってる。用はここにいるジンの右腕を治すことだ。」
ああ、なるほど。治せるかもというのはこういうことか。さすがに神の心までは読み切れないが、神なら確かに治せるはずだ。
「まあ、治せる。治せるが、俺にメリットがないからなあ。」
「主神として世界が滅びるのをみすみす見逃していいと?」
「勘違いするなよ人間。俺は別に誰の味方でもない。テメエらの世界で起こったことは全部自分たちで解決しろ。会話に応じてくれるだけありがたいと思ってくれよ。」
「……元より破壊神は神だ。なら神々が倒すべき敵じゃないのか?」
「だから、俺の部下は対策をしている。技能神が十四技能持ちで戦わせてただろ?アレも強い人間を故意的に生み出す為だ。」
そうだったのか。まあ確かに人は戦えばレベルが上がるけどな。
「だが、俺達は過干渉を許されない。人が神に甘えるなんざ駄目なんだよ。手足全部失ってたんだったら足ぐらいなら治していいとは思っているがな。」
「僕としてもここで引くわけにはいかない。ジンは破壊神との戦いで大きな鍵となる。」
「むう、そうか。うんうん。じゃあこうしよう。神らしく試練を与えようじゃねえか。レイ、これをやろう。人に見せんなよ。」
そう言って支配神は一枚のカードのようなものを投げる。それをレイはキャッチする。
「それをやるってなら治してやる。」
「……要はパシリってことだね。まあしょうがない。受けるよ。」
「よし、交渉成功だ。」
すると俺の右腕が急に現れる。いきなり現れた右腕の感覚に驚きつつも、よく見て手を開閉する。
「それじゃあ帰れ帰れ。ここは人のいる場所じゃねえからよ。」
そう言って支配神は指を弾く。行きの時と同じで再び視界を光が覆い尽くす。
「頑張れよ、人間。人の道は自身の手で切り開くんだ。」
その言葉を最後に、俺達は元の世界へ戻っていった。




