7.二人の勇者
勇者議会。全勇者が集まり、話し合う場。俺含めて八人の人が円卓の椅子に座っている。
「二代目はいないのか?」
「ああ、いない。そのため進行は私が代理を務める。」
俺の問いかけに対して三代目がそう返す。魂だけの存在なのに、いなくなるなんて事があるのかよ。
「今回の議題は破壊神に対してである。我々はもう聖剣から出て戦うことはできない。特に全力戦闘などもっての他であるし、一撃でも喰らえば聖剣の中に戻される。当然の事であるが、対処は十代目を含めた現世のものによって行われるわけだ。」
まあ、だからこそわざわざここまで来ているのだ。
「つまり、十代目には我々の力を与えたい。」
「だけど、お前らが心の奥底から認めなきゃ承認はできねえんだろ?」
「ああ、そうだとも。しかし七代目、八代目は既にお前を認めている。破壊神との戦いで、我々も多少は意識を変えているのだ。」
へえ、そうなのか。なら後は三代目と五代目と九代目だけか。
「……馬鹿馬鹿しい。いくら人の世が危機に陥ろうが、こいつでは無理だ。人の希望を叶えるには至らない。」
「そう言うな九代目!そもそも勇者に資格など必要あるものではないだろう?」
九代目の言葉に対して六代目がそう言う。九代目は舌打ちをしてこの場から消える。
「……まあいい。元より九代目はお前を嫌っている。仕方のない事だろう。」
少し呆れた様子で三代目がそう言う。
「さて、私と五代目はまだお前を認めていない。五代目は単純に自分より強くないと納得できないから。私はお前の信念は認めても、それを完遂する能力があるか測りかねているからだ。」
「要は戦って、そんで実力を示せってこった。一々三代目はまどろっこしいなあ、オイ。」
円卓に足を乗せて、五代目がそう言う。
「うむ、そうだな。実力勝負に理論など必要はないか。」
俺と三代目と五代目を除く勇者全員が光の粒と共に消えていく。ここに残るのは椅子と円卓のみ。
「じゃあ始めようぜ!」
五代目は円卓を足で叩き割り、懐から二本のダガーを出す。俺も右腕がないから左腕で聖剣を呼び出し構える。円卓や椅子も光の粒となって消えていく。
「久しぶりの殺し合いだ!もう耐え切れねえんだ!」
「卑怯と言うなよ十代目。この程度を乗り越えねば破壊神と戦うには実力が足りん。」
二人の勇者が俺の目の前に立つ。二代目は盾しか持っていない。大きい盾だ。体のほとんどを覆い隠せるほどの大きさの盾。
「そらよ。」
五代目は一本のダガーを投げる。俺は体をそらしてギリギリのところで避ける。俺の所へと走ってくる五代目へと剣を向けた瞬間。五代目が俺の目の前から掻き消える。
「ッ!?」
「血を寄越せよ。」
俺の首へと振られるダガーをなんとか避ける。しかし首に鋭い痛みを感じる。薄くだが斬られた。俺が直ぐに振り向くと、そこで五代目は二つのダガーを持ってダガーにつく血を舐めていた。
「別によ、吸血鬼ってわけじゃねえんだけどよ、人の血を飲むと落ち着くんだよなあ。」
それはあまりにも狂っているように見えた。あまりにも勇者らしくない。こいつが勇者だったら俺だって勇者でもいいだろと思うぐらいには。
しかしそれより、だ。何故さっきまで目の前にいた五代目が後ろにいたのか。短距離転移にしては魔力の動きがなかった。つまりスキル的要因か、それとも武器に細工があるのか。またはその両方か。
「私の相手もしてもらおうか。」
俺の背後から三代目が現れ、その盾を俺へと振るう。
「『王壁』」
俺はそれにを防ぐと同時に流れ込むようにして三代目の横に立つ。そして盾を突き出すエネルギーに俺の力を乗せて攻撃を放つ。
「どうだ。手応えはあったか?」
しかし、刃があるはずの俺の聖剣は三代目に傷をつけることすら出来なかった。直ぐに三代目の右の裏拳が俺の顔に突き刺さり、吹き飛ぶ。
俺は一度聖剣を消して左手で受け身を取り、立ち上がったところで聖剣を出して再び構える。しかしその眼前には既に回転しながらダガーがこちらへ飛んできており、さっきのように突然と五代目が現れる。
「なるほど、武器のある所に移動できるような魔術か……」
「分かってても対応できるモンじゃねえだろ?俺の技はそういうもんだ。」
五代目はダガーを両手で掴み、そのリーチの短さと手数を活かす為に俺の懐に潜り込んでくる。近過ぎたら剣は振れない。インファイトならばリーチの短い武器の方が有利。
「『無限加速』」
しかし俺も伊達に剣術を極めているわけじゃない。俺は加速しながら距離を取り、十分な速度が溜まった所で前に飛び出る。
「随分と速いなあ!」
しかしそのスピードに対応してくる。それどころか五代目のスピードは増してくる。
「温まってきたぜ!」
更に加速する。パワーもスピードもどんどん上がってきている。俺は大きく剣を振るって後ろに下がる。
「『竜牙』」
そして俺の剣から飛ぶ斬撃が放たれる。しかしそれは大きな盾に阻まれる。
「五代目。」
「おうよ。」
その盾の上から五代目が飛び出てきて俺へとそのダガーを振るった。それをギリギリの所で防ぐ。
「さあ、もっと全力で殺り合おうじゃねえか!」
五代目はその口を狂気的に歪ませた。




