1.武闘祭へ
新章開幕
七章で強くなって、八章で武闘祭。
武闘祭。それは我ら戦闘学部の最大のイベントである。今までの鍛錬の成果を証明する為に、参加し、そして最強を競い合う。それは夏季、と冬季の二回実施される。そして冬季は二学期、つまりは十二月の最後に行われるのだ。そして勿論、俺もそれに参戦する。生徒会に所属している以上、部活動の方には参加できない。
夏季はお遊び、冬季が本命。という言葉があるほどに、冬季はより重要。一般公開されるのは事前予選を勝ち残った一部の人のみ。つまり強いやつの戦いだけを観れる。下手をしたら闘技場の一般試合よりも盛り上がる一年のうちの大イベント。その収益は学園の維持費の一部としてそのまま運用できるほど。地球でのオリンピックなんか比にならないほどの倍率でそれが行われる。
そして俺にとっても、この大会は大きな意味を持つ。精霊王に、破壊神に負けた勇者が、頼りになるかという場として。俺らは一年生にしては強過ぎる。それこそ二年生や三年生に並べるレベルぐらいには。だからこそ授業は熟す必要はなく、この期間を修業に捧げるのだ。
「しくじって予選敗退、なんてことすんなよジン。」
「ぬかせ。一番お前がやらかしそうなことじゃねえか。」
アクトの言葉にそう返す。俺が立つのは校門の前。行きたいところがある。あそこじゃないと、強くなれない気がしたのだ。
「この期間の間に、俺に大差つけられないように気をつけてるんだな。」
「逆にジンさんこそ。これだけの期間があって何も成長がありませんでした、なんて笑い話にもなりませんよ。」
ああ、確かにそれは笑い話にもならない。しかし今は何故か自信がある。根拠のない、どこから湧いてくるかも分からない自信だが、それが俺の原動力となってくれる。俺は校門を背にして歩く。
「またな。」
俺は振り返らずに手を振る。そして校門を出て、しばらく歩いた頃。道に立ち塞がるようにしてレイが現れる。
「お、待っていたよジン。」
行きたい場所には、レイの転移で元々連れて行ってもらう予定だったのだ。流石に遠いし、転移門を予約するのも疲れる。
「いやあ、まさか君自身があそこに行きたいなんて言うなんてね。」
そう言ってレイは指を弾く。すると魔法陣が足元に形成され、景色が即座に切り替わる。発動、発生の無駄のなさは芸術的とまで言えるぐらいだ。
「それじゃあ僕も用があるから、帰りは自分で帰りな。」
「おうよ。」
レイはそう言って掻き消える。辺りは森。その中の切り開かれた地に、一軒の木の家が一つ。俺が育った家、俺が剣を学んだ家。父さんの家。ここは、そういう場所。俺の原点。
「うし、やるか。」
俺は木刀を持ってその家へと歩いた。
冬季大会の決勝トーナメントに残れるのは八名。順当に行けばエース、シルフェ、アクト、フィーノ、レイ、俺とその他二人となるだろう。レイもこの短期間で編入手続きを済ませている。エルは今回も団体戦のみで個人は参加しないと聞いた。
だが、少し実力差があり過ぎるから例年とは違い六人での決勝トーナメントになるかもしれない。そう会長が言っていた。つまり俺の敵となるのは五人。全員が強敵だ。このまま行けばまず勝てない。それにこの短期間で成長するのは俺だけじゃない。あいつらが成長する幅よりも更に大きく成長する必要がある。
この大会までの期間が、大きい分け目になるだろう。そう思って、俺は微かに笑った。




