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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第6章~人という無限の可能性へ~
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27.みんなで

あれから三日。月はもう明かりを失い、星なきこの世界には光源がほとんどない。だがレベルが上がると暗視の力が上がってくる。だから、修行はできる。俺は木刀を振るう。もうそろそろ寝なくてはいけない。そうは分かっていても、どこか、寝る気になれない。



「ジンさん。」



声がした。そこにはランプを持つ一人の女性。シルフェが立っていた。



「もう、寝ましょう。」

「……すまんな。眠れねえんだ。」



どこか目が冴える。ああ、いや、どこか気分が暗い。理由は分かっている。分かっているからこそ、こうやって木刀を振っている。



「ジンさん。私は、ジンさんが今どんな気持ちかは分かりません。」



俺は木刀を振るう。何故か今日は調子が良かった。どの素振りも絶剣を打てるほど最高のもの。それでいてどんどんスピードも上がっていた。



「私も、アクトさんも、確かに片方の親が死んでいます。しかしそれは物心つくまえです。親が目の前で殺される苦しみは、私には分からない。」



汗で持つ部分がズレる。そのせいで剣先がブレ、随分とゆっくりとした一撃となった。しっかりと握り直す。



「本来、こういうところで立ち止まってしまうのを助けるのが友人の役目なのでしょう。」



今度は手から木刀が滑り落ちる。先程までの調子が嘘みたいに、握りも、踏み込みも全てが悪くなる。



「ですが、貴方は知っていた。立ち止まってしまう人を何人も見て、それが駄目だと人生経験で知ってしまっていた。前世も含めておよそ百年、貴方はもう生きたのですから。」



どこか、木刀を拾う気にはなれなかった。自分の手を見るだけで、どこか手が震えてくる。



「ジンさんは、進み過ぎなんですよ。」



思えば、俺の人生は、ずっと進んできた。暇な時なんて一秒たりとてなく、それが間違いだと思わなかった。そして破壊神を倒すためには、一秒も無駄にできないと、より色濃くそう思った。



「父親の死を、全て丸ごと背負い込んで、それじゃあ意味がないんです。」



視界が歪む。昔から、何が正しいかなんか分からなかった。だからせめて、自分が信じられる道を進もうと決めてきた。



「ジンさんだけで、破壊神を倒すんですか?」



ああ、いや、だけど。多分、俺が進んだ道はやっぱり間違っていなかったんだろう。



「みんなで、倒すんです。グレゼリオンが誇る王国騎士達、オルゼイ帝国の七大騎士セブンスナイツ、クライ獣王国の獣騎士、そして世界中の冒険者達。それ以外にも沢山の人が、自分達の世界を救うために戦うんです。もちろん、私も、アクトさんも、エルさんも。全員が力を貸します。」



だって、こんなに素晴らしい友が、仲間が、他にいるだろうか。いや、いるはずがない。世界をどれだけ探しても、これ以上に素晴らしい仲間なんて見つかるはずがない。



「だから、今日は紅茶でも飲みませんか?温かい紅茶を飲めば、少しは眠くなるかもしれませんよ。」 



ああ、そうだ。俺は強くならなくちゃいけない。しかしそれは、皆んなとだ。俺が破壊神を倒すんじゃない。俺達が破壊神を倒すんだ。



「貰うよ。」



俺はやっと、しっかりと木刀を拾う。目を軽くこすり、涙を拭き取って。変に立ち止まっちゃういけない。だけど、しっかり立ち止まれるなら。自分の意思を持って立ち止まれるなら、それで良いのかもしれない。もしかしたら、レイもそういうことを言いたかったんだろうか。




その夜、俺は生まれてから一番無駄な時間を過ごした。ただ何の訓練もせずに、紅茶を飲みながら談笑するだけの時間。だけど、それでも、俺はこれより楽しい時間を今まで過ごしたことはなかったのだ。

父さんは、確かに死んだ。それは覆しようのない事実。それでも前に進もう。仲間と一緒ならそれができる。父さんの託した最後の想いを、叶えるために。

これで、一応前に進みます。ジンが言った通り既に親の死はこれで三回目であり、年的には百にも達するレベル。なので悲しくて、虚無感は強くともそれで鬱になることはありません。なので、彼が乗り越えるべきは焦りだったというわけで。


私の持論なのですが、立ち止まらなければ人は成長できないと思っています。物凄く頑張った後に一度全力で立ち止まってみる。そうすることによって見えないものが見えてくると思うんです。

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