26.神の戦いは終わり
その日は、色んなことが起きすぎた。エースが戦いで大きな怪我をしたこと。王都の民が何人も死んだということ。レイが俺の中にいたということ。人類最強が意識不明だということ。破壊神が蘇ったということ。三月に、世界が滅ぶかもしれないということ。俺が勇者だと露呈したということ。そして、何より。
「……」
父が死んだ、という事実だ。もう泣き疲れて、涙が出ないほど泣いた。葬式は世界を救った英雄であり、神として大々的に行われた。ルスト教も父さんを神として認め、今は様々な書類に書き出しているらしい。
もう、自分が何をすればいいのか分からない。今まで俺は間違っていないと思っていた。ただ、こうして今、大き過ぎる失敗をした。この体を使っていたのがレイだったら、上手くいったんじゃないか。そう思わずにはいられない。凡人の俺ではなく、レイだったのなら。そう思いながら学生寮の、自分のベッドに寝転がる。こうしていても無意識に魔力と闘気の操作練習をしているのは、俺らしいと言うべきだろうか。
「……?」
ノックの音が響いた。俺は立ち上がり、ドアを開ける。そこには一人の男がいた。黒髪の長髪。見方によっては女性に見えるような幼い顔。
「レイか。」
「ああ。やっと事情を説明し終わってね。」
あの戦いから、既に二日。レイはその間、ずっと自分の説明をしていた。前世の話を既にしていたシルフェにはより踏み込んだ話をしていた記憶がある。
「ああ、疲れた。ここお茶とかないの?」
「ねえよ。」
「ああ、そう。まあそこはやっぱり君らしいと言うべきかな。」
ああ。まあ、そうだろう。俺は前世、ある程度貯蓄が済んだら一人暮らしを始めた。しかし水分補給にお茶を使う必要はない。だからお茶は昔から飲まなかったものだ。今でも、一々買いに行くのはめんどくさいから買っていない。
「……まあ、誰でも驚くだろうね。実は人の体には昔から二つの魂があって、その片割れが僕、だなんて。普通じゃないもん。」
「ああ。」
「ああ……んん……そうだな。」
レイはまるで自分の家かのようにベッドに座る。
「これは、今世だから言うことだ。僕と君は同じ体で育った言わば双子。身内だからこそ、僕は正式なグラドの息子ではないにしても、一応息子だからこそ言うけどね。」
やけに勿体ぶって言う。こいつは他人の家庭事情には昔から絶対に口を出さないと決めていた。他人が親身になって話しても碌なことにならないというのが持論だったからだ。
「分かっているとは思うけど、そこで変に止まっちゃ駄目だよ。」
「……ああ。元より親の死に目に立ち会うのはこれで三度目だ。」
前世の両親、そして今世の父さん。俺は今まで三人の親の死に立ち会っている。だからこそ、ここで前に進まなくてはならないと気付いている。
「なにより、父さんから託されているんだ。破壊神を倒せっていうとんでもミッションをな。」
「……ま、そうだね。」
どこか寂しげにレイは立ち上がり、扉の方へ向かう。
「分かっているならいいさ。君との間に、昔から言葉が必要だったことはない。それに、僕はあくまで前世の最大の好敵手に過ぎないしね。」
そう言ってレイは外に出る。
「分かってるよ。」
一人呟く。どこか自分に言い聞かせるように言う。
「ああ、分かってるんだ。」
俺は木刀を手に持つ。破壊神を倒すのが、俺の役目。強くならなくちゃ、いけない。今よりもっと、父さんより強く、誰よりも強く。友を守るために。
まだまだ改善点はある。英雄剣術はまだ、覚醒に至っていない。夢想技能も得ていなければ、聖剣も未だ勇者全員から力を借りれていない。
だけど、ずっと放ってるということは、それが出来ないから、ということでもあるわけだ。昔からずっと向き合おうとしても扉を開けてすらくれない。何かが足りていないかのように認めてくれないのだ。それでも、立ち止まることはできない。強く、ならなくては。
こいつ精神年齢百越えてるんで少年漫画みたいな悩み方しません。




