25.戦神
この世に存在する神は数柱。しかしその全ての神は現在の最高神である支配神が、権能を譲渡して生み出された存在達である。つまりその全ては支配神の権能を削ったもの。そしてそれは人々の功績を称えた時に、譲渡される。今までの神は現在のスキル制度に大きく関わる『技能神』を除いて全ては後から人がなったもの。
そして神となる褒美を得られるには、二つの方法がある。一つは死後、人々から信仰されることにより、その存在を神格に至ることを成功する。そして二つ目は人の域を超えた力を得ること。そこまで強大な力を得てしまえば、人類の体では耐えきれない。故に仕方なくとも神まで次元を引き上げる必要がある。
そしてグラドはたった今、後者の方法で体を神格へと昇華させた。本来神は下界に降りることはできない。しかし後者だけは別。後者の神は必ず戦神となり、この世にてその武器を振るう現人神となるのだ。
「こんなところで、力を使いたくはなかったが……仕方あるまい!」
破壊神の目的は、先程言った通り神界に存在する神共を殺し尽くすこと。そのためには破壊の力をできるだけ温存し、余裕をもっておきたかった。しかしこのままだと自分自身が死ぬと分かっていた。自分と同格へと至った存在に、手加減などしたら負ける。
「破壊の因子よ!」
破壊神の体から破壊の因子が現れる。それは最初は霧状であるが、徐々に全てが球体へと形を変える。
「私は、破壊神だ。全てを破壊する神だ。負けるはずがない!貴様ら人類如きに!」
「そうやっていつまでもほざいてな。後悔するのはテメエ自身だぜ?」
グラドは駆ける。しかし先程より密度も範囲も広い破壊の球体は、グラドは回避する隙間すら作られせない。破壊の力は大きく使うがこうすれば確実に殺せる。それは隙間を作らせないが故にまるで黒いドームかのようにグラドを覆う。グラド自身、回避は不可能だと知り、足を止める。
「くたばるがいい!『破壊の牢獄』」
そして破壊神が手を大きく広げ、閉じる。すると破壊のドームは縮み、グラドの逃げ場を失くすようにして縮み続ける。最初はゆっくりと徐々に速度が上がり、グラドを襲う。
「決着の時だ。破壊神。」
しかしその破壊のドームの中にグラドはおらず、剣を構え、破壊神の懐へ潜り込んでいた。破壊神が破壊の力を概念とする神であれば、戦神は戦いそのものを概念とする神。その力は戦いにおいての絶対無敵状態へ至る。全知全能の神でしか勝てぬ存在へと。
「無銘流奥義六ノ型」
無銘流が六ノ型。それはジンにとっては『絶剣』であるが、それはジンが元の流派から派生させたもの。人によって形を変えるのが無銘流であらなら、グラドのみの六ノ型があるのが道理。それはあえてジンには伝えられなかった。いや、グラドにしか使えなかった刃。
剣に魔力と闘気全てを集める。全てを込めて尚、まだグラドは生命を削り、更に送り続ける。そうすることによって限界を超えたエネルギーを剣に収束させる。それを剣神であるグラドが振るうことによって成就する一撃。
「『鬼神』」
それは、神の一撃なれば、破壊神の概念をも斬り裂く。派手なわけでなく、広範囲に向けた攻撃でもない。たった一つを斬るために全力を注いだ刃。それはあまりにも呆気なく、そして振り抜いた剣をグラドは地面に突き刺した。
「終わり、か。」
突き刺した剣は割れ、その役割を終えたようにして崩れる。破壊神はその体を真っ二つに斬られ、そのまま動かない。
「父さん!」
そしてジンは駆ける。その場に倒れ崩れる父親を受け止めるために、動くのも辛い体を動かして。
「……ジン。」
少しずつ冷たくなる体をジンは強く握りしめる。知っていた。あれほどまでに生命を削っていた。つまりその代償は、その命であると。
「まだ、だ。」
グラドはジンの頭を荒々しく撫で、立ち上がる。
「お、ォのレェ!」
体が崩れ、もはや人の形を成していないながらも破壊神はグラドを睨む。
「ォ、前はワたしを殺、しキれなかった。キズ、はフカい、が、しばらく、すれば、ナオ、る。」
「ッ!」
ジンは木刀を持ち、トドメを刺そうとするが、それをグラドが止める。
「待ちな、ジン。お前じゃ、まだそいつは殺せねえ。」
グラドは分かっていた。剣を振るった瞬間に、放つより早く剣を壊された。故にあの一撃が形にならず殺すには至れなかった。しかし、このような状態になるのもグラドは分かっていた。
「こいつは、一度姿を隠して、力が戻る時を待つ。それが三月。」
グラドは神となったことによって、全知の力の一端を得ていた。故に知れた。いつ破壊神が復活するか。
「ジン。それを、お前が倒すんだ。」
「……え?」
無理だと、思ってしまった。神の如き力を得たグラドでも倒せなかった存在を自分が倒すなどと。
「いヤ、次などない。今から、七十二柱の全勢力ヲもッテ、おまエら人類を、ホロぼす。」
アグレイシア教は魔界と人間界の境界を緩めていた。故にこんなボロボロな状態でも、破壊神は悪魔達を呼び出せる。
「それは、残念ながら不可能だ。」
そんな声と同時にその黒いはずの服装を紅く染めて、一人の男が現れる。その後に、数々の異形の悪魔達が空から落ちてくる。
「全て、殺した。」
それは人類最強にして英雄の一人である騎士王。ディザスト・フォン・テンペストであった。身体中に傷があり、今にも倒れそうな出血量。しかしそれでも、ディザストは立っていた。人類最強は不在であった。そう、この時、悪魔が一斉に襲いかかるのを防ぐためにたった一人で数十柱の悪魔を倒したのだ。中には強力な悪魔がいたにも関わらず。
「さすが、人類最強、だな。」
「……それは皮肉というものだ。今はあなたが人類最強だろう。」
グラドは微かに笑う。もう視界が歪んで見えているだろう。それでも、何もないかのように。
「……カナ、らず、だ。キサマ、らをころ、す。こんど、ハユダんしなイ。」
どこか負け犬かのように闇に呑まれて破壊神が消えた。それと同時に人類最強も倒れる。気絶したのであろう。
「父さん……」
「そんな、泣きそうな面すんじゃねえよ。テメエが今度は、アレを倒すんだぜ?」
「でも、それは。」
ジンは泣かずにはいられない。グラドはここまで自分を育ててくれた。そして、今ここで世界をも一度救った。そんな誰よりも自慢できる父を前にして、泣かずにはいられなかった。しかしそれを大きく堪える。
「ああ、俺が破壊神を殺す。」
「そうだ。テメエは、俺の自慢の息子だ。絶対できるさ。」
グラドは尚も立つ。それは彼の生き様を示すようにして。
「ジン。生きろよ。」
「……うん。」
「誰よりも鮮烈にだ。それが、ジン、お前の目指した人生だろ?」
「ゔん!!」
グラドは一番、ジンのことを理解していた。そして見守っていた。そして自分の勇姿を、息子に見せられた。後悔は、なかった。
「じゃあ、後は……まか、せ、た、ぜ……」
そしてグラドは倒れる。ジンは心が強い人間であった。しかし、誰よりも凡人だった。
彼は、父の亡骸を前に大声で泣くことしか、出来なかった。
この話、書いてる時に手が震えてました。




