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平凡な英雄記  作者: 霊鬼
第6章~人という無限の可能性へ~
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23.父として、師として

全てを任せたくなるような背中。俺が一番最初に目標にした背中。だけど、いくら世界でトップを争う剣神の一人であっても、()()()()()()()()()こいつには勝てない。世界最強に数えられるシンヤが、手も足も出なかったんだ。



「おいジン。まさか俺じゃあ勝てねえって思ってんじゃねえだろうな。」

「ッ!」

「随分と生意気言うようになったなテメエよ。」



その右手に持つ剣を鞘から抜き、鞘を投げ捨てる。長い直剣。およそ1メートルほどの長さ。表面が揺らめいて見えるような薄く赤い剣。明らかに銅ではないことが分かる。だがこの世界の金属で赤いものと言えば、銅以外にもう一つ。



緋緋色金(ヒヒイロカネ)……!」



古代、日本人が名付けた金属。当時のありとあらゆる金属を越える強度と軽さ、そして魔力伝導率を誇った伝説の金属。



「レイの野郎……あんなにカッコつけてやられやがって。はっ、だっせえなあ。」



そう言いながら肩に剣の腹を乗せ、飄々と破壊神の元へと向かっていく。父さんはレイの事を知っていたのか。ああ、いや、よく考えれば当然だ。普通に考えて5歳とはいえ、雰囲気や行動が大きく変わってしまうのはおかしい。つまり俺とレイが入れ替わる事を事前に知っていたのか。



「オイ、そこの神気取りの馬鹿が。誰に手ェ出したか分かってんのか?」

「弱き者は淘汰される。最も原初からある自然の摂理だ。敢えて言うならお前らが弱いのがいかんのだ。」

「ああ、そうかよ。」



父さんの体から赤き闘気が流れ出る。



「なら、殺されても文句言えねえよな。テメエの方が弱いんだからよ。」

「……実力差も見抜けぬとはこれだから旧人類種は救えない。」



シンヤが俺を守った。そしてレイへとバトンを渡した。レイは時間を稼ぎ、誰も死なせなかった。そしてそれらの行いは決して無駄ではなかったのだ。こうして、今、父さんが来たのだから。そう俺は目の前の光景を見て確信した。



「その言葉よ。」

「……は?」

「そっくりそのまま返すぜ。」



まるで当然と言わんばかりに破壊神の体は二つへ分かたれた。破壊神の下半身は崩れ落ち、上半身はそのまま斬られた勢いで横に飛んだ。



「どうした破壊神。ミラが言ってたぜ。傷を破壊して再生ができるんだろ。ほら、さっさと直せよ。身体中気が済むまで細切れにしてやんよ。」



赤い闘気に紛れて見えなかった。そこには赤い闘気だけでなく、赤い蒸気が溢れていた。



「俺の『生命犠牲(ラクト・アルスート)』は、そんぐらいわけねえんだからよ。」



昔父さんが言っていた。闘気とは即ち生命力であると。本来ならそこにはセーフティロックがかかっており、生存活動を超過して使用することはできない。本来なら、という言葉はつく。



「……は。」



その赤い蒸気は生命の発露。間違いなく、本来削れないはずの、削ってはいけないはずの部分のものを使っている。



「は、ハはははハハはハははハはは!!!!」



破壊神が笑う。上半身が宙に浮き、そして下半身は霧散して新しい下半身が生まれ出る。先程父さんが言った通り、怪我そのものを破壊することによりそもそも斬られたという過程をなかったことにしたのであろう。眼球が黒く染まり、体の一部が崩れ落ち、そこから黒い破壊の力が見える。



「なるほど、旧人類種にはこんなのもいるのか。不相応に力を得て、調子に乗り、あまつさえこの私の体を斬っただけで悦に浸るような愚か者が。」



破壊神の強みは至ってシンプル。強過ぎる身体能力と強過ぎる破壊能力。小細工が全て無駄だと思えるような力。



「そもそも神にとって体など仮初のものに過ぎない。いくら体を斬れど、その度に私は蘇る。」



破壊神が強過ぎるのはそれだ。そもそも神というのは人類とは大きく異なる。昔神が降臨した際に、学者たちがそれを様々な方法で調べた。しかしその体は人類とは違い魂が入っておらず、神力という神独自の力のみで成立していたのだ。つまり神とは概念そのもの。概念を滅ぼすことはできない。故に神は殺せない。



「それでも私に挑むか、人間。」

「……神話において、破壊神は創造神の概念そのものを破壊することによって殺した。しかし本当に好きなものを壊せるならテメエは封印なんざされていねえ。つまりその破壊にはそれ相応の代償が付き纏う。」



確かにそれは道理だろう。無限に復活できるというのは無限に破壊の力を行使できるということ。それは全能と言っても過言ではない。



「これは大きな違いだ。無限なら確かにテメエの勝ちだ。だが全能に至っていない万能に過ぎない神なら、有限なら殺せる。」

「……ふん。」



それが少なからず真実であるからか、少し嫌悪の表情を浮かべ、父さんを見た。



「いいか、ジン。よく見とけ。そしてよく考えろ。これがお前への、師として、父親としてやれる最後のものだ。」



その時、俺は父さんから覚悟を感じ取った。そこにはまるで死地へ赴くかのような。しかし一度、安心してしまった俺の体は動くことはなかった。

六章終了までは毎日、又は二日に一回は更新する予定です。ちなみにまだ全然終わりません。

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