16.変異種
13歳になった。
さて、あの後俺とシルフェは何回か一緒に五層の先へ行った。つまりホブゴブリンを何回も倒したわけだ。あれから色々と修行したわけだが。まあ、今の叡智の石版を見てもらおう。
××××××××××
【ジン・アルカッセルLv1】
[スキル]剣術、水属性魔法、闘術、完全耐性
[闘気]error
[魔力]error
××××××××××
闘気と魔力は測定値を超えた。師匠に見せたら当たり前と言われけどな。何度もホブゴブリンを倒したりして、六から九階層あたりで狩りをしているがレベルは全く上がらない。
「よし。じゃあ今日もさっさと片付けるか。」
「ええ。」
俺たちは再び五階層のボス部屋の前に立っている。俺は手慣れたように扉を開く。
「よし!」
そう言って体に闘気と魔力を纏った瞬間。いつも通り空間が歪み、黒い肌が見えた。
「あ?」
俺が一言そう呟いた瞬間。黒いゴブリンはその手に持つ斧を投げつけた。
「ッ!シルフェ!」
「『聖域』!!!」
その言葉と同時に俺たちの周りに光の壁が展開され、斧は宙に止まる。俺たちは即座に左右に飛び出た。あの結界は維持するだけで異常なほどに魔力を消費する。使う一瞬だけ使用するのが一番だ。
「確か!魔物には亜種がいると聞いたことがあります!ボブゴブリンの亜種であるならその危険度は2.5!レベル2冒険者と同等の戦闘能力を保有していると考えられます!」
2.5ってことはつまり、レベル2冒険者の適性というには強すぎる。しかしレベル3冒険者の適性というには弱過ぎるぐらいの敵だったはずだ。
「運が悪い!」
「取り敢えずやるしかありませんよ!来ます!『身体強化』」
「『偽身体強化』」
互いに強化をかけ、突っ込んでくるホブゴブリンを避ける。俺のフィジカルレイズは水属性支援魔法、シルフェのは光属性支援魔法。俺のは自身にしかかけられないというデメリットがある。だが、一々光属性を習得するより使い慣れている水属性の方が楽なのだ。
「『水竜』」
「グギャア!!」
水の竜がホブゴブリンへ飛んで行くが、軽く弾かれる。Lv1が打つ魔法じゃこれが限界か。
「喰らいやがれ!」
俺は木刀にありったけの魔力を注ぎ込み、振るう。が、もう一本の斧に軽く止められる。
「ッ!」
流石に少しは怯むと考えていたのが甘かったか!俺は即座に後ろに下がろうとするが、その前に蹴られ、吹き飛ばされる。
「はあっ!」
ホブゴブリンの後ろから心臓。魔物でいう魔石を狙いシルフェが飛び込む。
「なっ!」
刺さらない。皮一枚程度。シルフェは即座に距離を取る。
「やはり亜種。随分とかたい!」
元々亜種というのは突然変異のようなものだ。通常では有り得ない性能を出す。
「目か口の中、ですか。」
そこは基本的に柔らかい。特に目が硬いのは有り得ないことだ。まあ、魔物なら絶対あり得ないとは言い切れないのだが。
「『氷の剣』」
壁に叩きつけられて覆い被さった瓦礫を吹き飛ばし、木刀に氷をまとう。もう油断はしない。さっき出来た傷は癒した。その分魔力は使ったが。
「『森林創造』」
シルフェにより森林ができ、辺りを覆う。俺らは即座にその木で身を隠しながら移動する。ホブゴブリンは動きをやめる。無駄に体力を使うべきではないと判断したのだろう。どうせ俺らの攻撃は意味をなさないと知って。無駄に良い頭をしている。
「だけどよ。」
俺はあえて正面に立つ、その木刀を相手に向け、直ぐに跳べるようつま先に力を込める。
「それはさっきまでの話だぜ!」
俺は直ぐに飛び込み、相手の顔を狙うと見せかけて斧を持つ腕を斬る。空かさず氷の剣を活かし、顔を凍らせる。シルフェの上級身体強化を使えば攻撃は通る。魔力を使い過ぎるのが難点だが。
GUGYAAAAAAAAAAAAAA!!!
「油断したな!」
手首が半分まで斬れ雄叫びをあげるが、そのまま斧を持ち替えて振り回してくる。だが顔が凍っている状態で俺の場所を正確に把握できるはずもない。
「本当に頭が回るな!」
ホブゴブリンの方がスピードが上。だから即座に逃げられた。目の近くにある氷は自分から気にぶつかり砕く。ゴブリンは種族の中でも頭がいいことで有名だからな。
「追いつけねえ!」
俺が追いかけてゆくが間に合わず、どんどん差がつけられていく。しかも確かその方向にはシルフェがっ!
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side シルフェード・ファルクラム
私の方にホブゴブリンが来る。走っている途中で私を見つけたのか残虐な笑みを浮かべた。
「私もそう簡単にはやられませんよ!」
既に出されている木を操り、ホブゴブリンを縛らせる。しかしその程度では止められない。
「アルフォス・バッシュ・グラ・ベイン『木々の沈黙』」
ホブゴブリンの四方八方から木々が生成され、縛り付ける。私の魔力全てを使い尽くすまで何度も何度も。
「確かジンさんにはアレがあるはず……」
この場で最も高確率でホブゴブリンを仕留められるのはそれだ。ならば私が取れる最善は如何にしてホブゴブリンの機動力を奪うか。
「大丈夫ですか?そんなに足元を見ないで。」
木々を引きずりながら進むホブゴブリンにそう言う。既に上位身体強化を付与した私の短剣を置いておいた。
GUGYAAAAAAAAAAAA!!!!!
あの足なら碌に動けないはず。しかし、これはもう無理ですかね?既にほとんど木を壊し終え、斧を振りかぶっている。一応結界を張ってはいますが、もう魔力がないから大した強度はありません。
「っ!」
結界に斧がぶつかった衝撃で、そのまま背後へ吹き飛ぶ。背中に強い衝撃を感じた。




