21.幼馴染
破壊神はアクトの顔を握り、破壊しようとしたその時。その力を発揮するより早く、アクトの姿が消えた。いや、それだけではない。破壊神が蹴り飛ばしたシルフェードもいない。もうここには破壊神以外いなかった。しかしこれは破壊神が破壊したと言うには、少し不自然である。破壊神は今、わざと手を抜いて遊んでいる。いきなり本気を出して、全員を殺すということはないだろう。
「やあ。随分と過激じゃないか。」
「……誰だ、お前は。」
そこには黒い長い髪をした男が立っていた。手には持っていないが、その身から溢れる魔力から魔法使いであることが容易に想像できる。服装はいたって普通。男なのに髪が長いことと、顔がやけに整っていることを除けば普通に街を歩いていそうな。
「僕はただの魔法使いさ。」
そう言って男は指を弾く。すると背後、王都の門の辺りに四人の男女が落ちる。それは間違いなく、さっきまでここにいた四人。そして壊されたはずのシンヤもそこにいた。
「こんなもの、ただの空間魔法の応用。君が攻撃するより早く空間魔法で転移させていただけ。」
シンヤは破壊されたのではなかった。破壊された瞬間、この男によって転移させられていたのだ。
「そして、僕の名はレイ。別に覚える必要はないさ。」
「ああ、そうだな。どうせ死にゆく存在を覚えるほど、私は暇ではない。」
破壊神は右手を突き出し、何かを握り潰す動作をとろうとしたが、握り込むことができなかった。まるで金縛りにあったかのように右手を閉じることはできない。
「もうルールは分かった。予備動作が必要なんだろう、その技。手を握り込む。口にする。なんでもいいから発動のキーが必要なんだ。つまりそれさえ抜きにすれば、君はただの身体能力が異様なだけのただの人類種に過ぎない。」
破壊神は忌々しげに右手を下ろす。
「壊れろ。」
そして言葉を紡ぐ。それだけで男は消し飛び、その場から消える。
「それができないからこそ、この私が破壊神たりえるのだ。」
「それができるからこそ、僕は天才たりえる。」
しかし男は破壊神の後ろにいきなり現れる。
「『天獄』」
そして何重もの結界と鎖が破壊神の動きを封じた。鎖は足、腕、顔、首、肩とありとあらゆるところに結びつけられ、結界は明らかに高度なもので何十もの数がある。法則型魔法には存在しないこの男独自の魔法。
「僕じゃ君は倒せない。僕には君にダメージを与える手段が存在しない。だからこそ君の動きを封じればそれでいい。」
地面を駆ける人が一人。他の三人とは違い、あまりにも痛みに強かったからこそ、誰よりも早く目を覚ました。右腕を失っていても、どれだけ傷ついていても、彼は自分らしさのために平然と命を投げ出す。そんな男なのだ。
「『絶剣』」
ゼロ距離でジンは刃を振るう。ジンであるならば攻撃を与えられることもできる。全てを斬り裂くその刃は、神をも砕く。動きを封じられている破壊神にそれは防げない。身体中に傷が入り、血が吹き出る。ジンは即座にその後距離を取る。左手だけの片手剣術。それでも戦えるのは英雄剣術を持っているだけはあると言えよう。
「やっぱお前もいたか、零。」
「僕はずっと君の中にいたさ、仁。」
二人は互いの名前を呼ぶ。それは長年の友のように、視線を合わせずしてそう言った。
「……ああ、なるほど。」
ジンはなんとなく理解した。前々からおかしいと思っていたのだ。何故自分のような人間が転生をしたのか。そして自分は5歳からを生きているが、5歳より以前にはどんな魂がいたのか。魂の融合は有り得ない。それは違うものは混ざらないのだ。だからこそ、自分より前にこの体にいる魂があると予想はしていた。
「僕は地球世界に現れたイレギュラー。本来地球にいるべきじゃない存在。だからこそ地球の冥界では処理ができず、転生をすることとなった。そして長年僕と競っていた君は、僕に引きずられてここまで来てしまった。」
そう、この二人は長年競っていた。前世、ジンの最大の親友にして最大のライバル。稀代の天才である幼馴染。それこそがレイであった。ジンが唯一負けた男。それが、レイであった。
「それでお前の体に入ったわけだ。お前が体の所有権を明け渡したんだろ。」
「ああ、僕は転生者特典っていうのかな。色々なものを持っていた。魂の格であるならば僕の方が上。肉体の主導権は本来僕の方が上だとも。だけども、前世で僕はもう幸せになった。二回目の人生なんて元よりいらない。だからこそ欲しがっていた君にあげたのさ。」
「お前らしい。」
魂だけになろうとも、容姿が変わろうとも。この二人は奇妙な縁で結ばれていた。天才と努力家という対極に。
「それより、来るよ。」
「ああ、分かってる。」
二人の目線の先には傷はもうなく、レイの封印魔法すら無効にした男が立っていた。
「片手で足りるかい?」
「問題ない。」
黒い魔力でできた腕を生やす。そして剣を持たせる。腕はなくなったが、魂ごと削られるというのは元よりそういう風な感じになるということ。分かりやすくいえば元々腕がない人と同じようなものだ。そこに被せるように魔力を出す。
破壊神はこれでも尚、興味なさげにゆっくりとジン達のもとへ歩いてきた。
実は体の中にずっと天才の幼馴染がいたよってオチ。ジンを通して外は見てたけど、魔法を使ったりするのは初めてなのに、完璧に使いこなすガチ天才。エースと並ぶくらい天才。ちなみに二人とも結構焦ってます。破壊神が強過ぎるんで。




