20.絶望
黒い月により辺りは暗く染まり、街灯の明かりだけが光源となっている。街の人々は恐怖に染まり、ただただ祈ることしかできない。世界を滅ぼす相手に、逃げる場所なんて存在しないのだから。
「シルフェ、エースは。」
「恐らく、来れないかと。大きな戦闘があったのを見たので、負傷している可能性が高いです。」
「信じたくねえが……来てねえってのはそういうことだろうな。」
俺たちは戦わなくちゃならない。どちらにせよ今ここで戦わなくては死ぬだけ。
「シンヤ。」
「ちょっと、これは無理、かな。俺も今までいくつもの魔物を見てきたし、倒してきたけど、こんなに強い生物は初めてみた。もしかしたら人類最強のディザストさえも……」
「そんなに絶望的か。」
シンヤだって人類最強クラス。それが敵わないと断ずるほどの敵であるならば、勝機はかなり薄い。というか勝機が見えない。まるで特別な武器しか効かない敵に特別な武器を持たずに挑んでいるような、これから始まる戦いに意味がないような気さえしてくる。
「手始めだ。まず貴様らから殺そうか。」
――来る。
「壊れろ。」
「『絶剣』」
迷いなく聖剣を手に出現させ、振るう。恐らくたった今、これを防げるのは俺しかいなかった。振るった瞬間、俺の右腕が消し飛び、身体中が弾け血が出る。俺は膝から崩れ落ちる。しかしこれは反動。防ぐだけで、このダメージ。
「ジンさん!」
「ほう。概念に干渉する攻撃か。」
そして理解する。魂ごと削られた。腕はもう、回復魔法じゃ治らない。
「しかし二撃目は防げないであろう。」
ノーモーションに、最強の一撃を出す。
「そうはさせないよ!」
シンヤは竜の体へと変形し、破壊神へ襲いかかる。攻撃をさせる前にこちらが攻撃をしてしまえばいい。それは間違ってはいないが、こと今回に限っては間違っていた。
「壊れろ。」
あまりにも素早く、回避不可の攻撃。シンヤの体は瞬く間に消し飛ぶ。しかし炎がそこから生まれ、それが不死鳥と化す。
「壊した程度で、俺を殺せると思わないことだ。」
「なら、魂ごと壊そうか。精霊王のように。」
不死鳥は不死の鳥。確かに死なないが魂を壊されたら死ぬ。そもそも生物とは全て魂があって成り立つもの。それをまるで玩具を壊すように、当たり前のことかのように。
「壊れろ。」
悠然とシンヤの体が消しとんだ。
「ッ!テメエ!」
アクトはその感情に怒りを混ぜながら槍を持ち、戦おうとするのをシルフェが止める。
「勝てません。逃げましょう。」
「で、でもっ!」
「勝機のない戦いは意味がありません。これは試合じゃないんですよ!」
アクトは悔しそうにしながらも動けない俺を肩で担ぎ、逃げようと思った時。
「人間如きの身体能力で、私から逃げれると思っていたのか。不敬な。」
シルフェの目の前に破壊神が現れた。速い。少なくとも俺たちより何十倍も。破壊神はシルフェを蹴り飛ばす。破壊の力ではなく、単純なパワーで。それだけでシルフェはまるで水切りのように地面を跳ねながら吹き飛んでいく。
「アク、ト。おろせ。」
「何言ってんだ!お前が一番大怪我じゃねえか!」
「仲間を、傷つけられて、黙ってられるか。どうせ逃げられや、しねえんだよ。」
俺は今、間違いなく。怒っていた。勝てないと分かっていても怒りを隠さずにはいられなかった。そして、どう足掻いても逃げられないなら戦った方がマシだ。
「くそっ!どうして!」
アクトは即座に判断することができなかった。だからこそ、接近が分かっていながらも防げなかった。
「壊れろ。」
目の前に現れた破壊神がアクトの顔を掴み、そう言った。
1章5話にて何故学園長はジンの奥底を見ていたのか。1章15話でジンが言った通り、何故ジンがこの世界に来たのか。2章5話の最後、5章26話にシルフェードに話しかけていた人物は誰か。5.5章の世界の記憶にいた男は誰か。そして、ミラ・ウォルリナは一度もジンを弟子だと言ったことがないという事実。これが私が唯一張れた陳腐な伏線です。




