19.破壊神
ここで少し神話の話をしよう。
まずこの世界には一柱の全知全能の神がいた。そしてこの世界、アグレイシアを創世し、生物を生み出した。これこそが後に創造神と呼ばれる存在である。
そして唯一神は全知全能であり、完璧であったが、全知全能が故にそれを放棄した。それは、あまりにもつまらないものだと知っていたからだ。自分の全能と全知を二分し、もう一柱の神を作り出したのだ。これが破壊神である。
全知は万象を知れど全てを知ることはできず、全能は万能でありながら全てのことをできはしなかった。そうすることによって自分達が人間と同じ視点に至ろうとしたのだ。二柱の全能は互いに創造と破壊を追い求めた。創造神は万物を創り出し、破壊神はその中で劣ったものを破壊した。
しかし個人の意思というものを創造神は破壊神に持たせた故に、野心が生まれた。破壊神は創造神を殺して再び全知全能を作り出そうとしたのだ。そして、それは叶った。半分だけとはなるが。創造神は確かに殺された。戦闘に特化していた破壊神に創造神では耐えることができなかったのだ。
しかしその後、死にかけになりながら創造神は深い封印を破壊神にかけた。新しいものを作る創造神にとって、こういうものの方が得意であったのだ。それは精霊王にも協力させ、自分が死に行く中、精霊王にその管理を命じた。
そして時は流れ、創造神と破壊神が作り出した知性ありし生物達が神の座を争った。創造神と破壊神が空席であり、世界そのものが管理者を欲したのだ。事実、神がいなければ世界は成立せず、滅びを待つのみ。だからこそ世界は神の特に優れた14の種族を争わせ、新しい神を作り出した。
これこそが今の世を支配せし神。支配神である。ギリシャ神話で何度も主神が変わるように、この世界でも神が変わったのだ。形式は違えど結果的には同じである。その支配神が神界を作り出した。そこに送り出せば破壊神を倒せると精霊王は考えていた。そしてそれはある意味で正解であり、ある意味で間違っていた。
「は?」
一つ、確かに神界に送り出せば破壊神を倒せる。これは正しかった。
「ありがとう。」
二つ、神界に送り出せる。これが間違っていた。呆気なく全ての魔法陣が壊され、その右手で精霊王の腹を貫いた。精霊王は勘違いをしていた。神をもっと身近な存在であると。自分の力を誰が作っていたかを忘れていた。
「私を蘇らせてくれて、ありがとう。」
神が直接作り出したいわゆる原種と呼ばれる最古の存在。『悪魔王』バアル、『精霊王』アルメルス、『竜神』グランドィア、『天使王』セラフィム。この四つの存在は神に反抗し得る存在。故に破壊神は既にその時、安全装置をかけていたのだ。即ち、神に干渉することはできないということを。恐らくこの術式を使ったのが精霊王以外なら、原種以外であれば無事に破壊神は神界へと行き、死んでいたであろう。
「私はお前を称賛している。たった一人で精霊を欺き、人々を欺き、我が教徒をも欺いた。」
その右手を精霊王の体から引き抜く。バアルなど比ではないほどの破壊の因子がその右手にはあった。魔力生命体であった精霊を問答無用で殺すぐらいには。
「その全てがこの私のためになったのだからな。実に、大義であった。」
「ッ!!!!!!!???????」
精霊王の頬に涙がつたう。今までやってきたことが全て無駄だったと、むしろ忌むべき敵に手助けしていたのだと知れば、その心境はもはや想像もできないだろう。落ちゆく精霊王の頭を掴み、そのまま空を飛んで地に落ちる。そこには『魔王』や『勇者』、つまりジン達の場所へと降りた。
「受け取るがいい。」
そう言って破壊神は精霊王の亡骸を投げた。それは土を抉りながらも真っ直ぐジン達の足元へと辿り着いた。
「すま、ない。勇者よ。」
「……おい。何が起きてんだ。説明しろ。」
ジンは思わず精霊王に問いかける。聞かずにはいられなかった。何が起きているか全く理解ができなかったのだ。
「私は、精霊王として太古の昔。創造神と共に破壊神を封印した。そしてその管理を任された。しかし、破壊神は、それに対策を既に打っていた。」
まさかと驚きの顔を浮かべた。
「七十二柱の悪魔は、破壊神がその手で作った存在。その中に破壊神を復活させる悪魔が存在していた。」
「それが、デカラビア……」
「ああ。だからこそ復活は時間の問題だと分かってしまった。せめて自分が関わることによって、自分の手で殺そうと思ったが、このザマだ。本当に、すまない。」
その顔は後悔と苦しみと憎しみと憤怒。その全てがごちゃ混ぜになった様な表情であった。死んでも死に切れないような。
「一度悪魔に乗っ取られ、正気を失いそうにもなりながら、私はここまで来た。だが、済まない。私はどうやら、間違えたらしい。最悪の化け物を最悪な形で降臨させてしまった。」
「テメエ……」
ジンは怒りの感情が芽生えながらも、怒る気にはなれなかった。それが間違いなく人類を救おうとした行為だと、理解してしまったのだ。
「アレを倒す方法は。」
「……ない。」
「はあ?ないなんて事が――
「ないのだ!アレは神だ。神でなくては殺せない。そして二度目になれば魔法陣を見るだけで全てを破壊する。その名、破壊神に相応しいように。」
精霊王が発動までに至れたのは破壊神が目覚め直後で状況が掴めていなかったから。そして何千年に渡り準備を重ねていたからだ。つまり単純に次に破壊神を倒す準備を整えられるのにもう数百年は必須。その頃には、人類など一人も残っていない。
「頼む!なんとかして、アレを倒してくれ!私をいくら恨んでもいい!アレは必ず倒さなくては――
「煩い。」
精霊王の体は弾け飛んだ。跡形も残らないように。そして煩いという言葉を発したことからこの目の前の男、破壊神が精霊王を殺したのだと分かった。
「もう茶番は十分であろう。」
月が、黒く染まり始める。月の明かりが消え、辺りは暗く染まる。実力者のみがその暗闇の中、世界が見えていた。
「よく聞け!旧人類達よ!」
そしてその時、世界中に声が響いた。言語が違う住民、言語を知らぬ住民。その全てが何故かその声を理解できた。
「この日を以て、旧人類は滅びを迎える!そしてこの星の力を使い、偽りの神を殺そう!そしてこの私が新しい人類を創造する!」
それは正に邪悪そのもの。この世界全てを破壊して作り直すという善性の欠片も一切見えない物言い。
「我が名は破壊神。『破壊神』アグレ!全てを破壊するこの世界の真なる神である!」
失われしその名を人類は嫌でも知ることになる。そして永遠と忘れられない名へと。
「さあ、貴様らを人類を救済しよう!」




