15.エースvsバアル
全能たる王。それはエースが夢想の一端である。幼き頃、夢想し、確信した自分の生き方。即ち、完璧な王として人を従えるという想い。それは黄金の鎧となり、エースの体を覆う。それはエースの身体能力を神の域へと届かせる。それが有り得ない再生能力や身体能力を生み出すのだ。
「フゥハハハハハハハハハハハ!!!!」
まるで普通の武器かのように伝説の武具を放ち続ける。エクスカリバー、ゲイボルグ、バルムンク、ケラウノス、グングニル。どれかは聞いたことがあるのではないのだろうか。地球では伝説とされるほど強力な武具達がいくつも、放たれる。エースの無想剣が故にできる攻撃。
「手を抜くんじゃなかったっけ!」
「たわけが!手を抜いた方が強いだけだ!」
事実、エースはそれが許される。戦略を組むより適当に最強の攻撃を連打してる方が強い。温存など有り余る魔力と闘気があれば意味もない。更に言うなら全能たる王により、全てのステータスが上昇している。
「貴様の権能は触れたもの全てを破壊する力か!中々面白いではないか!」
超高速で飛び合い、何度も拳を撃ち合う。偶然にもこの二人は手に武器を持たない戦い方をする。バアルは触れるもの全てを壊すから武器を持たず、エースは武具を打ち出す方が強いから武器を持たない。攻撃を触れた端から直していくエースと、放たれる武具を全て壊すバアル。互いに決め手に欠けるというのが現状。
「なら破壊しきれぬほどの力で潰せば良い!」
エースの周りに無数のエクスカリバーが展開される。エースが手を突き出すと同時に魔力が収束し、全てのエクスカリバーからバアルを殺さんと砲撃が放たれる。
「調子に乗らないでくれよ!」
しかしバアルはその光線を殴りつけ全てを破壊する。
「それにそれはこちらの台詞だ。君の再生が追いつかないぐらいの力で壊してあげるよ。」
「はっ!抜かせ!」
宙に浮かぶエクスカリバーをそのままエースは射出する。しかしその聖剣を破壊しながらバアルはエースへと迫る。そしてバアルの右手周辺が歪む。そして空気が、大気が、次元が悲鳴を上げる音が響く。明らかに先程ととは段違いの破壊の因子。終わりの力。
「『一撃必殺』」
その右手の攻撃に合わせ、エースは盾を展開するがそれをいとも容易く貫き、エースの頭を消し飛ばす。しかしエースは止まらない。
――核爆弾
これは君達日本人ならよく知っているのではないのだろうか。それは先ず最初に放射線を放つ。触れただけで人を殺す毒素。しかしこれではまだバアルを殺すには至らない。
しかしたったこれだけではまだ最悪の兵器と呼ばれるには至らない。火球が生まれ、エースとバアルを飲み込む。破壊を常に行なっているがそれが間に合わずバアルの体を少し燃やす。
「く、ククク。これでも焦がす程度か。中々丈夫ではないか。」
バアルは耐えた。そしてエースも耐えた。互いに再生能力によって無傷へと完治している。地球最大の兵器でもこの二人を殺す至らない。
「しかし、時は満ちた。」
エースは更に高く飛び、太陽を背にバアルを睨む。
「太陽剣『ガラディーン』。この剣を所有したとある男の特性をこの剣は受け継いでいる。即ち、太陽の力で戦う剣である。」
エースはその右手に剣を握る。白を基調として、赤いラインが入った両手剣。その力は日が昇ると同時に力を増し、日が沈むのに合わせて力が落ちる。
「今は、正午。この剣はこの正午の瞬間のみ、ありとあらゆる武具を凌駕する。」
右に真っ直ぐ伸びる剣を一回転させるように、下から回して上段で構える。
「審判の時だ。バアル。」
エースは消える。否、その身体能力を活かした消えたと錯覚させるほどの超高速移動。それで一気にバアルのの懐に入る。
「さっきまでは手を抜いて――
「『太陽の代行者』」
有無を言わさずに即座にバアルの体は切り裂かれる。まさに一瞬の一撃。太陽剣の炎は破壊できても、本来破壊されるはずの一撃は破壊されなかった。
「壊し、切れない!」
「残念だったな悪魔王。ここで貴様は終わりを迎える。わざわざやられに来たのは手間が省けて楽だった。感謝しよう。」
そう言ってエースは再び刃を振るった。
しかし、それがバアルへと届くことはなかった。
「が、ぁ!」
エースの体に鮮血が走る。本来斬られるはずのバアルの手には一つの剣が握られていた。黒い短剣。短剣はリーチも短く、パワーも出ず、対面戦闘においては不利と言われる。しかし魔剣、ましてや神器であるなら話は変わる。
「反転剣『原初たる悪魔王の剣』。神代以来だよ。この剣を握るのは。」
バアルの切り裂かれたはずの体は集まり、繋がり、再生する。その右手に持つ黒き剣は全てを破壊するバアルすら壊せない神の武器。即ち神器。そしてその力は名前が指す通り反転。エースの攻撃を反転させたのだ。
「君が俺にこれを抜かせたんだ。もう君の負けだよ。」
本来不利な状況。エースの全ての攻撃は反転させられ、自分にダメージが飛ぶはず。勝機はないはずの戦い。しかしエースは燃えている体の右手を見て、そして悠然と笑う。
「否、貴様の負けだ。先に奥の手を見せた貴様のな。」
エースはガラディーンを手放し、その右手に光が集まる。その光は今まで武具を生み出した時とは比べものにならないほどの光。太陽と見間違うほどの光。
「今までの武具は再現した武具。この我の武具ではあっても我の武具でないもの。」
その光は形を成す。神々しい一振りの剣へと。
「しかしこれは正真正銘、我が武具である。」
二代目勇者から聖剣の制度は始まった。しかし初代勇者にして、グレゼリオンの初代国王はまた違う聖剣を持っていた。この世に三本しかない聖剣が一つ。王族が管理する制裁にして抑止の剣。
「聖剣『原初たる人王の剣』」
エースが持つ、唯一の武器。その白い片手剣を右手に持つ。
「決着をつけようではないか、バアル。」
「……望むところだ。」
両者とも、その神器を構えた。
こんな展開プロットになかったんですけどね。




