13.七十二柱の三柱
エースの背中の黄金の翼が広がる。数千、数万の悪魔はいても、エースにとっては意味を成さない。少し時間がかかる、その程度。事実そこらかしらを飛び交う黄金の武具達によって悪魔達は呆気なく敗れる。それでもなお、エースがこの場を離れられない理由。確かにそこらの悪魔ならば意味を成さない。しかしその中でも上位、七十二柱であるならば。
「ふん。」
エースに獣が齧り付く。しかしそれはエースの周りに張られる障壁によって阻まれる。その獣は黒い犬。翼を持ちし異形の犬。その黄金の障壁を噛み砕き、そのままエースを襲わんとして進む。だが、エースにぶつかった瞬間、その犬は大きく弾かれる。まるでトランポリンで跳ねたかのように。
「甘いわ。」
それもそのはず、エースのこの黄金の障壁は二重構造なのだ。黄金鱗というこの障壁は、体に薄い膜のようにして張っている弾く防御壁と、体の周りを球状で守る防ぐ防御壁。これらがあるからこそ、エースは攻撃を避けることを滅多にしない。これだけでも手を抜いていると言われる所以とも言えよう。しかし、ジンの絶剣には貫通させられてしまったが。
「一人ずつ相手にするのは時間の無駄だ。一斉に来い。」
馬鹿にする様子もなく、ただそれが悠然たる事実かのようにエースは言う。そして悪魔とはプライドが高いもの挑発されて黙ってはいられない。
「後悔しても知らないぞ、人間。」
一柱の人型の悪魔と、炎の体を持つ鳥の悪魔が現れる。今まで姿を隠していたのだろう。悪魔が使う魔導はそういうことが得意なのだから。
「我々は七十二柱の悪魔。僕は序列第十八――
「うるさい。貴様がどうであろうとどうでも良い。どうせこの我の前に敗れ去ることになるのだ。さっさとかかって来い。」
「ッ!……へえ。なら遠慮なく。」
序列第十八位。それは『最速の爆炎』バティンの序列である。その名に恥じぬスピードでバティスはエースへと迫る。エース自身目で捉え切れてはいない。
「後悔したって遅いよ!」
そしてエースの背後からバティンがその右手を炎の刃に変え、エースを襲う。本来であれば知覚すらできぬ速度から放たれる一撃。本来ならば。
「え?」
その首に鎖が勢いよく巻きつく。そして引っ張られ、地面へと叩きつけられる。そして休む暇がないようにいくつもの武具が放たれる。
「いくら速くとも動きが単調では貴様の動きなど手に取るように分かる。逆にもう少し分かりにくく動いて欲しいぐらいだ。」
「なん、だと?」
話している隙に鳴き声をあげながら火の鳥が襲いかかる。その鳥の名はフェネクス。序列第三十七位の不死の火鳥。その特性は不死。実態がなく、攻撃をしても貫通するだけで意味を成すことはない。
「『トリカゴ』」
エースがそう言うと同時に鉄の棒がいくつも生成され、飛び出る。そしてフェネクスの周りを飛び、そして鉄の棒がフェネクスの体を抑え込む。フェネクスは悶えながら下に墜ちる。
「過去にお前に苦しめられた人類が生み出した鍛治王の一品。膨大な魔力を込め、貴様ですら逃げ出せぬ牢獄。ありとあらゆる武具を再現する『ヌル』であれば、貴様らに適した武具を合わせて用意して叩き込むなど用意よ。」
これが何よりのエースの強み。ありとあらゆる武具を再現するが故に、ありとあらゆる敵に対応できる。
「どうした?その程度か?なら、もう終わらせるぞ。」
「くくっ。そんなわけないだろ。行けっグラシャラボラス!」
バティンの言葉の直後に空気を裂くような鋭い音が聞こえ、いきなり虚空からあの翼の生えた犬が現れた。この犬こそがグラシャラボラス。序列二十五位の『形取らぬ殺戮者』。しかし残念かな。ただの七十二柱ではどれだけ優秀でもエースに勝つことはできない。
「姿を消す権能か。中々面白い。魔力の痕跡もなく、ありとあらゆる事象から一度外れることによって完璧に姿を消す。しかしその仕様上一度姿を現さねば攻撃もできない。それならば見た後に対処できる。」
エースの腕はグラシャラボラスの首をしっかりの掴んでいた。そのまま力を込め、その首を折って放り投げる。悪魔は尋常じゃない再生能力がある。肉体と魂をもって生物たりえる人とは違い、悪魔は魂と魔力さえあれば悪魔たりえる。故に魔力がある限り不死身。しかし魔力が尽きた時、その命が尽きる。
「ば、馬鹿な!僕達七十二柱が人間如きに!」
「……我は人ではない。竜と人の子。竜人である。」
「僕達からすればそんなの大差ないね。竜なんて僕達にとっては弱者でしかない!」
悪魔。特に七十二柱は油断する。生まれながらにして敵がいなかったから。苦労したことがないから。故に、知ろうとしなかった。世界の強者を。疑いもしなかった。己の強さを。
「元より、貴様らは劣化種よ。神という全能的な存在から生み出された神へと至れん存在に過ぎん。しかし人は違う。与えられた力の中で進化を続けてきた。そしてこの我であるなら、神へも届きうる。」
あまりに傲慢。対面したことのない存在ですら自分の下だと言い張る。これこそがグレゼリオン王国第一王子、エース・フォン・グレゼリオンであるのだ。
「おのれっ!」
「黙れ。動くな。」
その一言でバティンは動きを止める止めさせられる。
「『傲慢之罪』。我より下の存在を従える力。ありとあらゆる命令はこの我の号令によって遵守される。」
「僕が、お前の、下?」
「何の疑いがある。我はまだ、全力の半分も出す気にはなっておらんぞ。」
その一言で今まで保ってきていた誇りが、七十二柱としてのバティンの自信が、ひっそりと折れた。
エースは人類最強クラスです。七十二柱は割とボコボコにできます。それが人類最強クラスというものです。




